LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第9回】悲しみにおしつぶされないために 対人援助職のグリーフケア入門

メンバーの皆さん 

おはようございます。管理人です。 

今回は、支援者自身のグリーフケア(セルフケア)をメインに扱った図書の紹介です。

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 ●目次 
はじめに 
ー あなたにとってなぜグリーフケアが必要か

 第1章 悲しみの体験とそれを癒す作業 
ー人生におけるさまざまな喪失
 ー悲しみの感情 ー喪失後に表れる初期症状 
ー次の段階へ
ー癒しのプロセス 
ー喪失の意味を見いだすとは? 
ーグリーフがうまく癒されない場合 
ー地雷をかかえて生きていると… 
ー援助職は不健康なグリーフに陥りやすい 
ー健康なグリーフ・不健康なグリーフの影響 
ーグリーフとうつの関連 
ーグリーフワークにとりくむために 
ーグリーフレター(深い悲しみの手紙) 

第2章 援助職として悲しみに対応する 
ー援助職としての基本的な対応 
ー誤った対応とは? 
ー罪悪感にどう対処するか 
ー批判や抵抗、怒りに対応する 
ー境界線をひく 
ーじぶんもグリーフワークにとりくむこと 
ーあなたにできること 

 第3章 自分自身の悲しみの体験と向き合う 
ー自分の喪失に向き合う 
アダルトチルドレンという問題 
ー喪失のライフマップをつくってみる 
ー喪失体験が自分に与えた影響を知る 
ーグリーフレター 
ーさまざまな例を考える 
ーセルフケアをする 

おわりに 
ー悲しみにおしつぶされないために 

 ●内容&コメント 
本書は実は1~2ページ毎に目次の小見出しが付いてるので、目次だけでほとんど内容は網羅してしまっています。 

ポイントは「未完の感情」を、本書では「地雷」と表現しているとこでしょうか。 

概ねこれまでコラムと重複する内容なので、今回深く触れるのは一点。 

それは「健康なグリーフプロセス」と「不健康なグリーフプロセス」の違いです。 

まず「健康なグリーフプロセス」は、以下のステージをさまざな順番でたどっていく、とされています。 
 ステージ1 ショック 
「否認。混乱する。喪失が大きいと日常生活が中断 する。」 
ステージ2 怒り 
「 悲しみを怒りに変えるのは自然な流れである。」 
ステージ3 やりとり、かけひき 
「 不条理な喪失に対して、もしこうしてたら起こら なかったのでは?と心の中でかけひき、やりとり をする。喪失を合理化しようとする。」 
ステージ4 孤立感 
抑うつ感(落ち込み)を感じる。物事に納得がで きず、孤独感や恐れ、混乱を感ずる。」 
ステージ5 受容
 「 喪失体験が情緒の深いレベルに達する時期。喪失 を認め、人生を歩む選択をしはじめる。自分の人 生が変わる喪失に寄って終わったのではないこと を理解する。」
 ステージ6 再創造 
 「自分の人生を再び歩もうとする。その際に、喪失 にどんな意味があったのかを受け止める。喪失を 踏まえ、再び自分と周囲の人との関係性でなにを 再構築していくか考える。」 

 一方、「不健康なグリーフプロセス」では、ステージ5以降に違いが現れます。 

ステージ1 ショック・否認 
ステージ2 怒り 
ステージ3 やりとり、かけひき 
ステージ4 孤立感・抑うつ感 
ステージ5 抑圧・否認 
「 喪失を受け入れないで、喪失に伴うさまざまな感 情を抑圧する。否認によって覆い隠される感情は 葬り去られたわけでなく、情緒的な地雷となる。」 
ステージ6 自己否定感 
 「喪失体験が内面化され、喪失による否定的な反射 が起きる。何か自分が間違っているのではない か、とおもうようになる。」 
ステージ7 無感覚 
 「人と関われない。周囲とつながりを持てない。自 分の何を感じているのかわからない。」 

不健康なグリーフは、孤立感・抑うつ感(ステージ4)で留まることが多く、喪失に伴うすべての感情が抑圧され、この感情が「地雷」となり、新たな喪失体験を持った時に爆発する、とされています。 

これまでのコラムを読んだ皆さんなら、不健康なプロセスから健康なプロセスに導く方法が頭に浮かんでいますよね。そう「語り」によって「未完の感情(=地雷)」を完結させることです。 

加えて本書で興味深い点は、対人援助職は不健康なグリーフプロセスに陥りやすい、ことを指摘していることです。 

それは、対人援助職は 
①自身の生い立ちの喪失体験 
に加えて、 
②仕事がうまくいかないことの喪失感 
③支援対象者(こども等)の喪失 

を経験しやすいということです。 

僕が思い浮かぶのは、関係機関(施設・学校・病院等)に相談を持ちかけた時に、「昔、児相に〇〇」と、明らかに今のケースと関係のない過去の感情が溢れ出てくる支援者の方々です。 

もちろん児相の中にも「不健康なグリーフプロセス」のどこかのステージにいるだろう方々がたくさんいます。「自己否定感(ステージ6)/ 無感覚(ステージ7)」なんて、もうバーンアウト寸前の末期ですよね。 

「悲しみにおしつぶされそうな人」、皆さんの周りにもいませんか?

 これって、まさに仕事上の喪失体験における「未完の感情」の蓄積だと思うんです。過去のケースが上手くいかなかったことに対する喪失感や憤りの感情です。 

その表出を愚痴で片付けるのではなく「未完の感情が完結するプロセス」と捉え、反論せず話をそらさず、その人の体験感情をあえて質問して聴くよう僕はしています。 

何度も同じ話をする方はおそらく「出来事」や「相手の行動」の説明に終始していて、「自分の気持ち」を聴いてもらう体験まで辿り着けていないのだと思います。概ね、自分の気持ちを受け止めてもらったと思った方は、落ち着いてきて話が展開していくなぁ、と思います。 

皆さんが普段やっている「傾聴」と呼ばれる行動に、さらに「グリーフケア」の意味づけをすれば、支援者や保護者が語る話題の範囲内で、日常的に起こる喪失体験の「とげ抜き的なケア」はたくさん出来るだろうと。 

意図せずとも感覚的にこのような支援を電話対応や面接で行なっているCWが担当する保護者の方々が、だんだんと安定していく姿を僕はたくさん見てきましたし、その逆も見てきました。職場内の上司と部下の関係も全く同様に、です。 

担当CW替えをした直後の地区は荒れやすい、という定説みたいなものが児相にあるのですが、これを引き継ぎ者の経験スキル不足だけで片付けるのではなく、ケースにとっての「喪失体験」と捉えれば、一見おとなしい無感覚(ステージ7)で反応がない保護者よりは、怒り(ステージ2)かけひき(ステージ3)の対応は本当に骨は折れますけど、よっぽど適切な喪失反応で、ケアの余地があると思うんです。 

残念ながら「家族支援、親支援は児童福祉の範疇を超えている」とか「いかにこちらの言うことに従ってもらうか」なんて思考の方々には到底通じない話しであると思うんですが、そこで切り捨てたり説教じみた話しをするでなく、まずそう考える支援者自身がグリーフプロセスのステージのどの辺にいる状態か俯瞰的に捉えて、グリーフケアの視点で接する(つまり愚痴を聞く)と、また違った話の展開になるかもしれませんね。


 ●最後に 
 キャリアを重ねれば重ねるほど聴き役が増え、自分の話を相手に身を委ねて話せる機会は本当に限られていくなぁ、とつくづく思います。

 その意味では、静岡LSW勉強会やコラムは僕にとって、職場では語り尽くせない「未完の感情」を完結に向かわせてくれる「癒しの場」であるなぁ、と書きながら気づかされました。

 皆さん本当にお付き合いありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。