LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第19回】ジンバルド時間志向テスト

メンバーの皆さま

おはようございます。管理人です。

前回コラムの最後の方で、LSWの支援者自身が
「過去ー現在ー未来」「ポジティヴ・ネガティヴ面」
を観る視点や考え方が偏ったり狭まったりしているかも、ということを書かせてもらいました。

今回は、その偏りを測定する方法を一つ紹介します。

それが「ジンバルド時間志向テスト」です。


元ネタは、こちら。

f:id:lswshizuoka:20170727080452j:plain

The Time Paradox: The New Psychology of Time That Will Change Your Life(2008)の訳書。

フィリップ・ジンバルドは「スタンフォード監獄実験」(1971)をした心理学者と言えば、ピンとくる方もいるのではないでしょうか。

この書籍のジャンルはなんと「ビジネス」でして、
自分の時間志向(=時間に対する姿勢、信条、価値観)を捉えることで自分の心理(思考、感覚、行動)が見えてきますよ、という自己啓発本的な分類をされています。

この本で扱われている「ジンバルド時間志向テスト」は56項目5段階評価の質問紙で、Google検索するとトップに出てくる「横浜国立大学服部泰宏ゼミナール」(経営学部)のHPでダウンロードも可能です。


そして、時間志向は6つのタイプに分類されているのですが、ジンバルド時間志向テストの面白い点は「過去ー現在ー未来」のどこを意識しているのか「どこか一つ」ではなく、その「バランス」を見ようとしている点です。

そして、どのタイプが良い悪いでなくバランスが大事であると。

以下に、6つのタイプを簡単に紹介しますがネタバレになりますので、興味あれば、まず質問紙をやって見てから読んで見てください。


◆過去肯定型
過去を実際に起こったことより過去に起こったと思っている。嫌な出来事を経験しても、それを肯定的に思い出せる人は強いバネのような抵抗力があり、楽観的になりやすい。

◆過去否定型
過去の辛い経験や記憶にとらわれた選択をする。実際に嫌な出来事を経験しているかも知れないし、実際にはいい出来事だったのに、頭の中で嫌な出来事にすり替えてしまっていることもある。

◆現在快楽型
刹那的な満足を追いかけて求める。めずらしいものや刺激のあるものを求める傾向が強く、エネルギーに満ちあふれている。

◆現在宿命論型
運命は決められていて、何をしたところで無駄だし変わらないと諦める考え方。宿命論的な傾向が強くなると、若者は攻撃的になり、不安になり、うつ状態に陥りやすい。

◆未来型
将来の大きな見返りのためなら、現在の満足を先延ばしにして、我慢や努力ができる。

◆超越未来型
来世の幸福のために、現世の衝動を抑えることができる。


補足すると、現在志向はネガティヴ面だけでなく、今の作業に集中して没頭したり、運動にエネルギッシュに取り組んだりする良さもあります。

一方、未来型はポジティヴ面だけでなく、未来型が高すぎると、例えば健康や将来のためと言いながら、現在の生活や楽しみを過度に犠牲にするような節約節制に走る側面もあるわけです。

やはり、どのタイプが良い悪いではなく大切なのはバランスです。そして、その価値観のバランスは人生観なので、当然、支援者の支援に対する考え方にも影響してきます。

なので、お仕事として専門家として不特定多数の人の人生に関わるなら、自分の価値観や傾向を見つめて受け入れて、「自分がしたいこと」だけに流されず、「相手の最善の利益」に貢献できる関わりができるよう、自律・自己コントロールすることが必要と思うのです。

ちなみに、2年前くらいに僕がやった時には「過去肯定」「未来」が3.5~3.7、他は2.8~3.1位でした。僕は良く言えば冷静、見方を変えれば一歩引いたところがあるので、子どもと関わる際には、意識して今を楽しむ「現在快楽」的になるようにしています。


また、日本で「ジンバルド時間志向テスト」を使った報告では、愛知県がんセンターの小森康永氏が、乳がん患者への緩和ケア前後の時間志向を測定したものがあります。

結果は、緩和ケア前には「過去否定」が強めだった方が、緩和ケア後には「過去肯定↑」「未来↑」「過去否定↓」となり、不安・抑うつの尺度とも相関が見られた、とのことです。
(※『バイオサイコソーシャルアプローチ:生物・心理社会的医療とは何か?』(2014)より。この本は、別の機会にじっくり紹介しますね。)


この報告はとても興味深く、おそらくLSWを実施した子どもの中でも、時間志向の変化が起こっているだろうな、とイメージしています。

ただし、これは乳がん患者(58歳女性)の一例に過ぎず、LSWを始める前の子どもの時間志向バランスの組み合わせのタイプは、年齢性別、性格や生い立ちによって本当に様々で、必要な支援や健康的なバランスもまた違うだろうなと思います。

例えば、現在志向が高くないバランスの取れた子どもって「子どもらしいの?」とも思いますし、
未来志向はマシュマロ実験(数分後に2個のために、目の前の1つを食べずに我慢できるか)でもあるように「自制心」「衝動性」や発達的な要素も絡んでくると思うので。

加えて、ジンバルド時間志向テストは「アメリカ、フランス、スペイン、ブラジル、イタリア、ロシア、リトアニア南アフリカなどの国で広範に活用され、その有効性が実証された」とは書いてありますが、日本の児童にも有効かは不明です。内容的にもこのまま児童に使うのはどうかなと思いますし、日本人の平均値サンプルもありません。

なので、このデザインそのままでLSWの効果測定というわけにはいきませんが、支援者の自己理解や子どもの状態理解や考え方の切り口としては「ジンバルド時間志向テスト」は面白いなと思います。


脱線はここまでにして、次回コラムはさすがに
「あいまいな喪失」に戻ります。

ではでは。