LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第40回】バイオサイコソーシャルアプローチ④

メンバーの皆さま

 

こんばんは、管理人です。

 

今回は、本書のメインと言っただけあって、若干長めかと思います。

 

なるべくギュッとしたつもりですが、そのつもりでお読みください。

 

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●目次 
理論編
【第1章】心身二元論からBPSモデルへ
【第2章】エンゲルが本当に書き残したこ
                                          ―BPS批判に応える
【第3章】BPSと時間精神医学
【第4章】 二一世紀のBPSアプローチ
技法編
【第5章】メディカル・ファミリーセラピー
【第6章】メディカル・ナラティヴ・プラクティス
【第7章】BPSSインタビュー
応用編
【第8章】高齢
【第9章】プライマリケア
【第10章】緩和ケア
【第11章】スピリチュアルペイン

●内容
今回は第3章「BPSと時間精神医学」です。この章は短い中に凝縮された内容がギュッと詰まっていて、気持ち的には23ページ全部を紹介したいですが、そこを泣く泣く「時間への着目」「時間精神医学の考え方」「時間精神医学とBPS」の3トピックに厳選し、僕なりにまとめて取り上げます。
 
 
【1】時間への着目
〜「時間精神医学」とは、1982年にフレデリックメルゲスが『時間と内的未来』によって提唱し、彼の死と同時に忽然と消えた学問領域である。

〜メルゲスの仕事においては、彼が1961年から1964年まで、ロチェスターでジョン・ロマーノジョージ・エンゲルの陶酔を受けたことからも、その屋台骨にはBPSの発想があることは歴然としている。

〜しかも、「時間」という臨床概念が導入されることにより、バイオ、サイコ、ソーシャルの三つの視点において共通言語が与えられるため、多元主義というよりも、ここにとおいて真の統合が実現される可能性があった。

〜心理学領域においてなぜ「時間」がないがさらにされてきたのかあきらかにしよう。その最大の理由は、無意識の探求にある。1915年にフロイトがこう述べたからである。

「『無意識』体系の事象には時間が無い。それは時間的に秩序づけられていない。経過する時間によって変更されないし、要するに時間との関係を持っていないのである」

〜しかし、私の従事する緩和ケア領域において頻度の高いもの以下の三疾患(適応障害うつ病、せん妄)と実存的苦悩には、患者の時間感覚において際立った特徴がある…つまり、認知行動療法の興隆を、迎えた現在、時間を臨床概念として取り上げるのは時宜にかなったことであり、実際、上記のようにその目で見れば、人々の時間感覚は極めて臨床的な問題なのである。
 

●コメント【1】
まとめてだと長くなるんで、今回は一つずつコメント挟んでみます。
 
ネットで調べたらFrederick towne Melgesは1988年52歳の若さで死去。ちなみに糖尿病で腎臓が悪かったみたいです。
 
あれ⁉︎、【第30回】コラムので紹介した論文では、
 
〜1990年代以降,思考や認知,行動に注目する心理療法とは異なり,クライエント(以下 Cl.)の感情に注目する心理療法が北米を中心に発展している
 
のはずで、「認知行動療法の興隆を、迎えた現在、時間を臨床概念として取り上げるのは時宜にかなったこと」なら、もともと思考や認知、行動が注目がされていた時代に、時間精神医学が「彼の死(1988)と同時に忽然と消えた」のがイマイチ腑に落ちないですが、精神医学界では色々あったんですね、きっと。
 
そして、忘れ去られた時間精神医学に注目したのが、時間志向テストを作成したフィリップ・ジンバルド氏と言うことみたいです、どうやら。
 
それはいいとして、
〜「時間」という臨床概念が導入されることにより、バイオ、サイコ、ソーシャルの三つの視点において共通言語が与えられる
 
はLSWにも似たようなことが言えるかもしれません。つまり、「時間(過去ー現在ー未来の繋がり)」という概念を軸とすれば、LSWの枠に囚われない統合的な支援が可能になるのではないかと思うのです。
LSWのみが時間に関わる唯一の方法というのでなく、時間感覚に纏わる支援の一つにLSWがあると捉えるという考え方です。
 
LSWにハッキリした定義はありませんが「生い立ちや過去を扱う」という過去志向の支援をイメージして言われることが多いと思います。ただし、もともとトラウマ治療は過去を扱うし、グリーフケアも過去を扱うし、回想法もあれば、成育歴を聞くだけ、昨日のことを聞くだけでも過去を扱うわけで、一般的な面接の多くは過去を語る、広義のライフストーリーを語ることになるわけです。
 
さらに、現在の家族の情報を扱ったり、将来の事を考えたりと、現在ー未来の話でさえ自分に纏わること全てが自己物語に繋がるわけですから、何でも「LSW〇〇」と名前を付けようと思えば出来なくもないですが、LSWか否かを考えるより、その支援が「時間感覚」という切り口で、その人にとってどのような意味がありそうか、という共通言語があれば十分な気もします。
 
では、時間精神医学では、時間感覚やその不具合をどう捉えるのかについて、が以下になります。


【2】時間精神医学の考え方
本書によると、メルゲスの『時間と内的未来』の冒頭であきらかにされている一般的仮説は以下の4つ。

①人間は本質的に目標に向かって進む生きものである。
②人は、未来イメージ、行動計画、そして、情緒の相互作用を通して、自らの未来を制御しようとする。
心理的時間の歪みは、その人の未来制御感覚を阻害し、それによって心理的悪循環(らせん)が生まれる。
④時間の歪みの訂正や、未来イメージと行動計画、そして情緒の調和を得ることによって、その人の未来に対する制御感覚は修復される。

そして、
〜ちなみに、西洋社会の直線的時間枠組みでは、時間の基本構成要素は、速度(持続時間)、シークエンス(継続)そして一定の時間を過去および未来に振り当てる時間志向性からなる。

を含めたイメージ図(らせん)はこんな感じです。


▪️心理的時間             ⇨  ▪️未来制御感覚
 (シークエンス・             (未来イメージ・
    速度・時間志向性)          行動計画・情緒)
             ⇧                                   ⇩
▪️症状                        ⇦ ▪️個人的未来の構成
    (改善・悪化)              (修正・誤構成)

図 、症状の悪循環と症状改善(本書を参考に作成)


これらの仮定を統合する基本的な枠組みはサイバネティクス理論(人工頭脳学)であり、上記の仮説によって、この研究が臨床精神医学上、適切なものとなることが意図されている。

〜メルゲスの主張は明解である。精神病、うつ病ないし神経症のいずれであれ、いったん未来が曇ると、その人の目標に向かってる進む行動が反古にされるので、しばしば悪循環が生まれる。その結果、時間がたてばたつほど、未来イメージ、行動計画、そして情緒のあいだに不適合を来し、未来制御の欠如はさらに心理学的悪循環(らせん)を描くことになるというわけだ。
 
〜このようならせんは、心的過程におけるシークエンスや速度に関する基本的時間の歪みがある場合、障害が大きいという。時間の歪みは、未来イメージ、行動計画、そして情緒のあいだのタイミングと共同を障害するからである。
 
〜別の言い方をするなら、時間の歪みは意識を変容させ現実検討を障害するので、時間の歪みの引き金ないしその原因がいかなるものであっても、いったん時間の歪みが存在すれば、修正されるまで、意識を変容させ続けたり現実検討を障害し続ける。
 
〜よって、治療的にも、精神病理らせんの中断を目指す、未来制御の修復こそが最優先されるわけだが、それは、時間の歪みの修正と、未来イメージ、行動計画、そして情緒の調整を通して達成させ得る。
 
〜「私たちは、次のようには滅多に考えない。この人は自分とは違う時間枠組みの中にいるのではないか?彼のシークエンスは混乱していないか?彼の頭は速く動き過ぎるのではないか(遅過ぎるのではないか)?彼は主に過去、現在、ないし未来のどこに焦点を当てているのか?彼の時間カテゴリーは混乱していないか?」これらこそが正しく問われるべきだというのが、メルゲスの認識である。
 
 
●コメント【2】
どうしても耳慣れないのが「シークエンス」という言葉。一応、辞書的には、
 

【sequence】連続、順序、連鎖

[用例]the sequence of the searons 四季の循環
 
となっています。僕的には、フィギュアスケートの演技の後半に「ステップシークエンス」という連続ステップの山場ありますよね、あれで理解しました。A→B→Cというように、一つの物に次の物が淀みなく続いて流れていく感じです。
 
以下の時間感覚を、フィギュアスケートに例えると、
〜このようならせんは、心的過程におけるシークエンスや速度に関する基本的時間の歪みがある場合、障害が大きいという。時間の歪みは、未来イメージ、行動計画、そして情緒のあいだのタイミングと共同を障害するからである。
 
ステップとステップの繋がりがぎこちなかったり引っかかったり、また滑るスピードが急に落ちたり上がったり上手くコントロールきないと、残り滑りやジャンプに自信が持てずに迷ったり、失敗するのではと不安になったり、みたいな感じでしょうか。
 
「今」の滑りがイチイチ引っかかってしまうので、過ぎ去った「過去」に引きずられて、現在集中すべき「今」にフォーカス出来ない状態です。
 
個人的には、人格障害系やこだわりの強い発達障害系の方との会話イメージと非常に一致します。
 
メルゲスのすごいのは、30年以上前に、これらの時間感覚の特徴を精神障害別にまとめ、その治療法まで示していることです。
 
では最後に紹介するのは、その分類についてです。
 
 
【3】時間精神医学とBPS
〜時間精神医学では、時間問題を臨床評価した後にBPSな治療が保証され、最も有効な治療を選択することができる。…つまり、シークエンス、速度、そして時間志向性の変化が、精神疾患治療に利用され得ること、この時間介入が、生物学的、心理学的、ないし社会的相互作用レベルで行われるということである。
 
ここでは、①時間問題の臨床評価、②精神障害における時間問題と個人的未来、未来制御感覚(未来イメージ・行動計画・情緒)、③時間問題とBPS別治療、それぞれの概要を紹介します。
 
①時間問題の臨床評価
以下の4つのステップに分けられるとされています。図式にするとこんな感じです(本書を参考に作成)。
 
 
▪️シークエンスの問題  →(ある)A1 器質性障害
            ↓                                A2 統合失調症
            ↓
▪️速度の問題  →(ある) B1 躁うつ病
            ↓                             B2 うつ病
            ↓
▪️時間志向性  →(過剰な未来)C1 妄想性障害
            ↓             (過剰な過去)C2 不安障害
            ↓         (過去な現在)C3 反社会性人格障害
            ↓
▪️脱同期的交流 →(問題ある)D 適応障害
                               (問題なし)健常
 
 
(A)まず、シークエンスの問題を評価する。もしもシークエンスに問題があれば、それが器質性脳障害における時間の検討式障害なのか、急性統合失調症における時間的シークエンスの崩壊なのかを鑑別する。
(B)シークエンスの困難が除外されれば、速度の問題を評価する。もしも速度の問題が顕著ならば、診断は感情障害である可能性が高く、速度が増していれば、躁病、速度が落ちていれば、うつ病である。
(C)もしもシークエンスにも速度にも問題がなければ、時間志向性について評価する。もしも過剰な未来志向性があれば妄想性障害を、過剰な過去志向性があれば不安障害を、そして過剰な現在志向性があれば、反社会的人格障害が疑える。
(D)もしも時間志向性にアンバランスがなければ、最後に、他者との脱同期的交流を評価する。ここで問題があれば適応障害が考えられるが、なければ健常人と考えられる。
 
 
精神障害における時間問題と個人的未来、未来制御感覚(未来イメージ・行動計画・情緒)
それぞれについて、本書の表をもとに羅列します。
 
    【精神障害】        【時間問題】      【個人的未来】
・器質性脳障害     時間の見当識障害            混乱
統合失調症        シークエンスの              断片化
                                       時間的崩壊                 
・躁病                 速度とリズム(速い)     過膨張
うつ病             速度とリズム(遅い)        停止
・妄想性障害      過剰な未来への焦点づけ      脅威
・不安障害         過剰な過去への焦点づけ      恐怖
                                                      (不確かな)
・反社会性         過剰な現在への焦点づけ      無視
      人格障害                                           
適応障害               脱同期的交流      アンビバレント
 
   【精神障害】【未来イメージ/ 行動計画 / 情緒 】
・器質性脳障害      混乱             無秩序       不安定
統合失調症        断片化           不調和         矛盾    
・躁病                過膨張             加速         多幸的
うつ病              収縮               遅速         抑うつ
神経症           誤った構成        不確か         不安
適応障害         不適合な          他者との   アンビバ
                         対人関係期待    脱同期      レンツ
 
 
③時間問題とBPS別治療
これも、本書の表をもとに羅列します。
 
           【  シークエンス  /  速度  / 時間志向性 】
生物学        中毒性            リチウム ( マリファナ
的治療      代謝性疾患ない   抗うつ薬       ・ LSD
             し脳腫瘍等の治療
                 抗精神病薬
 
心理学      行動療法           リラク           催眠療法
的治療      認知療法            ゼーション    ゲシュタ
               悪循環を中断さ   認識療法       ルト療法
                せる逆説的介入                        瞑想
              (MRI  ブリーフセラピー)
 
社会学      家族療法           危機介入     サイコドラマ
的治療                             集団療法      時間管理術
 
 
●コメント【3】
先ほど、シークエンスをフィギュアスケートで例えましたが、もはや器質性脳障害や統合失調症の「時間の見当識障害」「シークエンスの時間的崩壊」レベルになると、滑りが引っかかるとかスピードが云々という次元ではなくて、そもそも何をしてるかわからない(混乱)、滑る順番を所々しか思い出せない(断片化)といった感じでしょうか。
 
本書では「トラウマ」について直接触れられてはいませんが、精神病(=統合失調症)の進行段階の一つに「過去、現在、そして未来の断裂は、離人症症状と関連している」とあることから、おそらくトラウマに付随する「解離」は時間感覚の断片化を、フラッシュバック」は現在と過去の時間感覚の混乱を少なからず引き起こしていると、個人的には考えます。
 
器質性脳障害や統合失調症レベルの子は児童福祉施設じゃない場所での生活になるとは思いますが、虐待・トラウマの問題は「時間のシークエンス」つまり「過去ー現在ー未来の連続性」の問題に繋がるんだろうなと思います。
 
そして、トラウマが無かったとしても、施設入所や措置変更に伴う喪失体験や未完の感情が適切に扱われないこと、また、あいまいな喪失が放置されることで起こる状態を時間感覚という軸で捉えると、表にあるような「時間の速度」や「時間志向性」の問題は起こっていそうですよね。
 
そうすると、やはりLSWを検討するにあたっても、「シークエンスの問題」→「速度の問題」→「時間志向性の問題」→「脱同期的交流」の4つのステップで考えるのは理に適っているのではないかなぁ、当然、早めに問題がある程、配慮が必要という意味で。
 
ただし、児童福祉、特に社会的養護の子どもは、
・ただ生い立ちを知る機会がなかった
・あいまいな喪失がトラウマ化している
・はっきりした喪失体験があり未完の感情が残る
・解離フラッシュバックが起こっている
・普段の覚醒水準が高すぎる/低すぎる
・新しい環境とのミスマッチが、うつ病神経症適応障害を引き起こしている
 
などの状態が複数重なり、さらにASDによる想像性の乏しさ、年齢発達による時間的展望の獲得の変化、乳幼児期の養育環境が脳の発達に与える要因が加わって、「生物」×「心理」×「社会」×「年齢」の複数要因が掛け算になっていて、状態も刻々と変化するので本当に捉えにくいなぁ、とも思います。
 
とはいえ、
心理的時間(シークエンス・速度・時間志向性)と、
未来制御感覚(未来イメージ・行動計画・情緒)
の問題は、LSWを「知る権利」「権利擁護」とは違う切り口で、子どもの時間感覚の問題となっている状態を助ける一部になる支援として考える材料になるのかな、と。
 
ただそれは「子どもを安定させる目的」でLSWが実施されるのではなく、一般的に言われるLSWは、ソーシャルワークに重なる「社会学の色合いが強い気がするので、「生物学/心理学」的アプローチの部分を補うと言いますか、BPSの3つ支援をバランスよく組み合わせることで、より多角的で良い意味で抜け目ない、安全安心感が高いLSWの実践に繋がるかな、という意味です。
 
ただそうなってくると、やはりLSWがどうあるべきhow toではなくて、その人の状態をきちんと捉えて、どの状態にはどんな支援が一番安全かつ効果的か、というシンプルな所に立ち返っていくんだろうと思いました
 
例えば、メルゲスが各治療法について「神経症の治療は情緒らせんを治療する未来志向性療法が推奨」「うつ病の絶望らせんの治療は、精神速度を加速させ、現在においてより多くの報酬が得られる関連活動を増やすこと。未来を解凍し、本人が全てを失ったと感じされないようにする」「精神病(統合失調症)に関する…治療的利益は、主に心理教育にあるようである」
と言っているように。
 
メルゲスのような素晴らしい整理をつけるには、時間も能力も全然足りないですが、時間精神医学からひとつのヒントを得た気がするので、今後も少しずつLSWへの応用を考えていけたらなぁ、と思っています。
 
ではでは。
 
 
ちなみに、時間志向性については、
【第19回】ジンバルド時間志向テスト
 
時間の速度については、
【第22回】モーガンフリーマン時空を超えて
で触れていますので参考に。