LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第43回】子宮内の胎児の意識と発達

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
現在、今日明日に行われる「LSW全国交流会@水戸」に参加するために電車で移動中です。
 
ちょっと節約して、沼津→品川まで乗り換えなしの在来線に二時間ほど乗りまして、品川から特急で水戸まで向かう約4時間半の電車の旅です。
 
まぁ沼津からなら座れるし、コラム書いていれば時間も潰せるだろう、なんて軽く考えていたら、神奈川に入ったあたりから風が結構冷たく、トイレに行きたい衝動に襲われています。
 
コラム書きで気を紛らわせて、なんとか品川までたどり着きましたが、天気予報の気温はさほど変わらないのに、やっぱり静岡は暖かいことを思い知らされました。
 
東京、寒いです。茨城はどうなのでしょうか。
 
では、コラムです。
 

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●目次
第1章 羊水の海で
第2章 胎児の意識の始まり
第3章 母親のストレスと胎児のこころ
第4章 子宮は学びの場
第5章 出生体験は性格の形成にどう影響するか
第6章 新生児の感覚と神経はこうして発達する
第7章 「親密さ」という魔法
第8章 経験が脳をつくる
第9章 初期記憶のミステリー
第10章 他人に子どもを預けるとき
第11章 間違いが起こるとき
第12章 子どもの「善意」の基盤をつくる
第13章 意識的な子育て


●内容
今回は、胎児期にかかわる第2、3、4章をまとめて。

~数々の研究によれば、胎児は目覚めているときも眠っているときも、母親が行うこと、考えること、感じることのすべてと「同調」し続けている。受精の瞬間から、子宮の中での体験は常に脳を形作り、人格や情緒の傾向や思考力の下地を作っているのである。

とありますが、トピックを4つ(胎児の感覚/痛みと回復力/母親のストレスとうつ/胎児のパワーを高める)に分けて紹介します。

■胎児の感覚
以下は、胎児の発達について、本書を整理して抜粋したものです。挿し絵は、フリー画像から引っ張ってきたイメージ図です。

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【1ヶ月】
・妊娠二十八日前後で胎芽は六ミリ程度になり、のちに心臓となる小さな血管が鼓動を始める。そして、このときには、脳の基本的な三つの部分がすでに作られている。

【1ヶ月半~】
・六週前後でおよそ十二ミリになると、目と鼻と耳が作られはじめ、触れられると反応するようになる。
・早くも七週目に触覚があることが報告されている。
十週目から二十六週目まではまだ上下のまぶたがつながっているが、明るさや暗さを感じており、母親がお腹がライトで照らされると反応する。

【4ヶ月~】
・四ヶ月目までには周囲の世界を探索する能力が飛躍的に発達し、へその緒で遊んだり、指しゃぶりをしたりするようになる。
・十七週目には皮膚の大部分に感覚が生じる。
・嫌な味のする物質を子宮内に注入すると、胎児は顔をしかめて泣き出す。逆に甘い味の物質を注入するという、通常の二倍の量の羊水を飲み込むようになる。

【5ヶ月~】
・五ヶ月目には、大きな音に対し、手を上げたり耳を覆ったりして反応するようになる。
・人間の聴覚機能は、二十週目には大人と同程度になる。
・十九週目から二十週目に初期の脳波が現れ、二十二週目には大人と同様の脳波が継続的に現れるようになる。
・胎児には、学ぶのに必要な脳の構造そして意識さえもが、妊娠五ヶ月から六ヶ月のあいだのある時点ですでにできあがっていることがわかった。

【7ヶ月~】
・二十七週目には、母親の声にとくに敏感になる。
・二十八週目ごろには違う音色を聞き分けられるようになる。
・胎内で聞いた言葉は、特定のしゃべり方や方言のもとになる。脳が急速に成熟に向かう妊娠二十四週以降には、とくに外界の音に反応して成長する。この期間に、思考の中枢である大脳皮質のニューロンは、言語の音に反応して、樹状突起とそこから招じるシナプスに特定のパターンを形づくる。

【新生児】
・人間の脳は子宮にいるときからすでに言語を学びはじめている。このことから、新生児がなぜ生後四日で既に言語と他の音とを区別することができるのか、そして母親の声を好むようになるだけでなく、なぜ母親の用いる言語まで好むようになるのかがわかる。
・研究者によれば、出生直後の新生児は、人間のあらゆる言語のあらゆる音を聞き分けることができる。しかし、急速に神経が発達する出生後一年のうちに、自分がいつも耳にしていると言語以外は聞き分けることができなくなるという。

~その詳細についてはまだ推測の域を出ないが、最新の学説によれば、喜びや苦しみや恐れや葛藤といった人間のもっとも深いところにある感覚は、生命の始まりに根ざしている。

~胎児が成長するにつれ、ポジティブな体験もネガティブな体験も、急速に発達している感覚器官を通して入っているようになる。


■痛みと回復力
~痛みの経路は、かなり早い時期に作られる。まず妊娠八週目に末梢組織から脊髄までつながる。十週には、大脳皮質が形作られ始める。脳は神経線維が増えるにつれ、形と構造ができてくる。そして、十六週までに痛みの経路が完成し、二十八週までに配線もほぼ完了する。

~早生児も痛みに対して明らかな反応を示す。二十三週で生まれた子どもは、かかとを針などの刺激を与えると、顔をしかめたり、拳を握りしめたり、足を引っ込めたりといった明確な反応を示すのである。

~実際、解剖学的に見れば、胎児は誕生後の人間よりも痛みに敏感なはずである。というのも、入力されたら痛みをさえぎるための制御経路ができあがっていないからだ。

子宮のなかで母親の過度のストレスや不安やうつの影響を受けた子どもは、生涯消えない問題を抱えるリスクが高くなる。これは、近年行われた数多くの研究によって証明されている事実である。

~というのも、母親の感情や気分はホルモンや神経伝達物質の分泌に影響し、それらは血液の流れに乗って胎盤を通り、胎児の発達中の脳に届くからである。

~胎児の脳は、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンに長い間さらされると、不必要な時に、「戦うか逃げるか」の反応を起こす習慣がつきやすい。しかも、この習慣は生涯続く。

~いっぽう母親がつねに喜びや愛を感じていると、胎児の脳は"幸せホルモン"と呼ばれるエンドルフィンや、オキシトシンなどの神経ホルモンで満たされ、生涯にわたって幸福感をもたやすい素因ができる。


~パシック・ワダワは、母親のストレスの影響を測定するために、胎児165例についての調査を行なった。…母親のお腹の上から胎児を軽く刺激し、その影響を調べるために心拍数を測定した。

~その結果、ストレスの高い母親の胎児は、心拍数が著しく増加し、その後正常に戻るまでの時間にかなり時間がかかった。ここでいうストレスの早い母親とは、血液検査で高濃度のストレスホルモンが認められ、不安が強くまわりから協力があまり得られないと質問票に回答した母親である。

~いっぽう、望んだ妊娠をして、適度な自尊心があり、周囲の協力にも恵まれた母親の胎児は、穏やかで、心拍数が正常に戻るのが早かった。


■母親のストレスとうつ
~母親の過度のストレスは、子供の学習能力にも影響する。学習能力の決め手の一つは、入ってくる情報になれる力である。私たちは、同じ音やにおいに長時間反応し続けなければならないとしたら、感覚が疲れ切ってしまう。また、あらゆる方向から情報が押し寄せてきたら、気が散りすぎて、真新しい情報を受け取り、そこから学ぶことが難しくなる。

~頷けるのは、過度のストレスが脳の生理機能に影響することを示す研究である。研究者たちは、脳の海馬と呼ばれる部分におけるニューロンシナプスとの成長の抑制と破壊、そして、ある種の神経受容体が作られる量の減少などを測定した。

~その結果、影響を受けやすい子どもの場合、出生前のストレスが、脳の配線を組みかえる原因となり、ストレスに敏感な性質をつくり、生涯にわたり興奮しやすくなったり、行動障害を発症しやすくなったりすることがわかった。すでに遺伝的な要素も持つ子どもの場合には、出生前の極端なストレスが、多動症自閉症などの各種の発達障害のリスクを増大させることもわかった。

~妊娠中のストレスが深刻な影響をもたらすのであるなら、妊娠中のうつもまた望ましからぬ結果をもたらすものであることは想像に難くない。

~同研究班は、うつの母親から生まれた子どもは概して泣きやすく、なだめるのに骨が折れることを発見した。また、母親のうつが重症であるほど、新生児の癇が強くなることもわかった。

~研究者によれば、妊娠中のうつは産後も続くことが多い。しかもこの症状は、癇の強い子どもを持つことでいっそう悪化する。自分がうつというだけでも、新生児と上手にかかわることが難しくなるのに、その子が泣いてばかりいれば、母親はよけいに打ちのめされ、ますます母子の"きずな"づくりが難しくなる。

この自らを悪い方向へ強化していくシステムを断ち切らないかぎり妊娠時代に端を発するうつと癇癪の永久の悪循環がスタートしてしまう。


■胎児のパワーを高める
神経科学の最新の発見によれば、胎児に伝わる音やリズムなどの刺激は、脳に刻印を押すだけでなく、文字通り脳をかたちづくる。

~マリアン・ダイアモンド(有名な神経科学者)はこう述べている。
西洋の社会はやっと最近このようなことを実践することに注目するようになりましたが、何世紀のあいだアジアの人たちは、発育途上の胎児に、楽しい考え事をさせ、行動を損なうような怒りを避けさせながら、豊かな条件を与えるよう、妊娠した母親を励ましてきたのです」(『環境が脳を変える』 の邦訳より)

~胎児の脳細胞は栄養素が足りなかったり、アルコールにさらされたりすると縮小するが、ダイアモンドによれば、刺激を与えられた場合に拡大するらしい。とはいえ、ダイアモンドは、胎児に与える刺激は穏やかなものにとどめるべきだとも警告してもいる。

~「全細胞数の50~65%もの大量のニューロン消失が、胎児の発育期間におこりますが、…たいていのニューロンは、つくられたのちは増殖しませんから、ニューロンの過剰生産は胎児で起こることが明らかです。つまり、過剰な数は安全要因なのです。

したがって、初期のニューロン機能にかかわりのないものは『取り除かれる』のです。(…)豊かな後天環境が、神経細胞の数を変えることまでは示されてはおりませんが、私たちの結果からわかったのは、後天環境は、大脳皮質のなかにすでに存在している神経細胞の大きさを容易に変えることができる、というものでした。

神経細胞のを健全な状態にしておくために、刺激が大切であることは、多くの動物で証明されています。けれども、同じ重みで重要なのは、あまりにも刺激が多すぎると、おそらく好ましくない効果がある、ということです。となると、『じゅうぶんなのはいつなのか、多すぎるのはいつなのか』という、永遠の疑問が生じます」(同書)

~「神経系というものには、可塑性に『朝』があるばかりでなく、『午後』もあれば『晩』もある」とダイアモンドはいう。「たえまない情報の流れを、発育途上の能に送り込むのではなく、中間に整理統合と同化の期間をおくことが是非必要です」(前掲書)


●コメント
すごくざっくり言うと、胎児は一般に考えられているよりも外界の刺激をキャッチできるし、その刺激が脳や細胞へ及ぼす影響は一生続いてしまうので、産まれてくる子のためにも妊娠期から母親が穏やかに過ごせるようにサポートにしましょう。そして、子どもへの声かけや刺激はほどほどにね。

みたいな感じでしょうか。結論は母子支援でごくごく当たり前に言われていることなのでしょうが、その理論的背景を「社会×心理×生物」でここまで科学的に言われると、説得力がある気がします。

もちろん小難しいことが苦手な方には、言葉を柔らかく噛み砕いて伝える必要はありますが、支援者側としては知っておかないといけないことかと思います。

児相に配属された当初、「日本で離婚再婚を繰り返す家庭がこんなにも多いのか」と思っていたことを思い出しました。しかし、今この知識を知ると、児相にそのようなケースが集まる理由、そして、必ずしも同じ家庭で育ったきょうだいでもケースになったりならなかったり、予後や変化が全然違ったりする理由も、すごく腑に落ちます。
 
つまり妊娠期に夫婦不和や離婚、DV等の問題があって母親サポートも薄ければ、胎児の遺伝子選択として育てにいく子が産まれるリスクが高まる。しかし、同じ母親のきょうだいであっても離婚やパートナーの変更により妊娠中の母親を取り巻く状態はそれぞれ変化するし、そもそも胎内環境にどれくらい影響を受けやすいかの程度にも個体差がある。
 
したがって、同じような過酷な状況下でも、驚くほど健康度が高い子もいれば、どうしようも手に負えない状態が続く子もいる。「環境×個体差」の相互作用は胎児から始まっていると。
 
この辺りが早期支援、予防的関わりの根拠になるのでしょうが、最近たまたま雑誌で「子育て世代包括支援センター」についての記事を見かけた時に面白い内容があったで、最後に触れます。
平成28年閣議決定。平成 32 年度末までに、地域の実情等を踏まえながら、全国展開を目指す:厚生労働省HP)
 
そこにあった説明は、従来のハイリスクアプローチは、病気や発達障害を見つけてその人に支援するという考え方であったが、それに対してポピュレーションアプローチと言う、集団に働きかけて全体のリスクを軽減したり病気を予防すると言う考え方にシフトしていくと言うことでした。
(参考:【新米保健師でもわかる!】保健師のポピュレーションアプローチについて)
 
 
もちろんポピュレーションアプローチがうまく機能しても、必ずハイリスクな人は残るので、児童相談所や施設職員はハイリスク児に対するマニアックな専門性を持って支援する必要性はなくならないとは思います。
 
そういう意味では、LSWもかなり末端の支援であることは間違いないですが、ポピュレーションアプローチによって妊娠期からの支援が厚くなれば、そこから得られる生い立ちの情報や、子ども自身の生まれ持った資質とリスク等に変化が生まれる可能性はあるので、決して遠い話でもないような気がします。
 
話題になっている児童相談所の機能を市町村に振り分けも、ポピュレーションアプローチとハイリスク児へ支援の棲み分けに非常にリンクするなと思いますし。
 
LSWに限らず、子どもの育ちに関する胎児期~乳児期の重要性を考えると、母子保健分野と児童福祉分野の相互理解や連携をいかに深めていけるかも、今後注目されていくといいなぁ、と思いました。
 
ということで、次回は新生児期について触れて行きます。
 
ではでは。