LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第45回】新生児の感覚と神経はこうして発達する

メンバーの皆さま

こんにちは。管理人です。

どうやら、また週末に大型台風が到来ですね。

前回の台風では、月曜の朝、普段通勤で使っている東海道線が完全ストップしてしまったので、やむなく新幹線で通勤しました。

仕方なく、新幹線が乗れる駅まで30分ほど歩いたのですが、乗り遅れそうだったので、GoogleMap片手に近道を急いでいたらiPhoneがスルリ。

画面はバリバリ、開いた画面は勝手に動き出す始末。そして、新幹線も遅れているので遅刻を連絡しようにも携帯は使えず。

挙句に初めて新幹線の公衆電話を使ったのですが、なんとテレフォンカード専用で、この時代に電話機の横の販売機で1000円テレカを購入して電話すると言うレアな体験をしました。

結局、携帯は買い替えだったのですが、ドコモの保証+ポイントで5000円程で新品と交換できました。携帯も使用3年で電池もすぐ無くなったちゃう状態だったので、結果オーライです。

ただ、携帯が無くなるとホント焦りますね。まぁ、結果的に元より携帯の状態が向上して、さらに面白い貴重な体験もできたと言うストーリーになったから、今回は良かったです。

しかし、当たり前にあったものを突如として失う「喪失体験」が引き起こす将来の不安、それが元通りになるかならないか分からないことの心配、そして、どうにもならないと知った時のショックと言ったら計り知れないですよね。

はぁ、その日のうちにdocomoショップ行けて良かった良かった。早期介入、早期支援の大事さが身にしみました。

以上、プチ喪失体験とナラティブによるセルフケア体験でした。皆さま、今回の台風もお気をつけください。

では、コラムです。

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●目次
第1章 羊水の海で
第2章 胎児の意識の始まり
第3章 母親のストレスと胎児のこころ
第4章 子宮は学びの場
第5章 出生体験は性格の形成にどう影響するか
第6章 新生児の感覚と神経はこうして発達する
第7章 「親密さ」という魔法
第8章 経験が脳をつくる
第9章 初期記憶のミステリー
第10章 他人に子どもを預けるとき
第11章 間違いが起こるとき
第12章 子どもの「善意」の基盤をつくる
第13章 意識的な子育て


●内容
今回は「第6章 新生児の感覚と神経はこうして発達する」を中心に、新生児の脳の発達について。

~新生児に対する小児科医たちの誤解は、かなり昔に始まっている。「新生児には明暗の区別がつく以外には何も見えていない。聞こえてもいないようだ」(グリフィス、1895)。「赤ちゃんにはまだお母さんが人間だということも、自分が人間だということもわかっていないのです。赤ちゃんは生後一ヶ月は内蔵と神経の塊に過ぎないのです」(ベンジャミン・スポック、1947)。…しかし、今日では世界中の研究機関で、これと正反対の事実がつぎつぎに発見されている。

~1970年代に入ってようやく、…心拍を記録する電極、おしゃぶりと連動させて吸い方のパターンを記録する電子装置、視線追跡装置、ビデオカメラなどを用いることができるようになってはじめて、新生児が積極的に学習やコミュニケーションを行っていること、まわりの世界に気づいていること、驚くほど意図的に行動していることがわかったのである。

~赤ちゃんはもちろん、最初から親の気分や調子を合わせている。しかし、いろいろな能力が発達してくるにつれて、自分に有利なものだけに同調するようになる。


■新生児の感覚
【出生時~1週間】
・出生の数分後、分娩室で、明暗はっきりした部分のある物体、たとえば人の顔などを意図的に見つめる。
・生まれたばかりの新生児は、大人の顔をじっと見つめ、大人の発声や動きの調子を合わせるような反応をする。大人がほほえむとほほえみ、大人に調子を合わせて動く。また予想を裏切られるとーたとえば、母親に向かって甘えるような声を出したのに、母親がまったくの無表情でいればーすっかり落ち込んでしまう。
・見つめていた物体がゆっくりと動くと、数分間はそれを目と頭で追う。注意のとぎれない表情で、ほかの活動を停止して、その物体だけに集中する。
・三次元的な感覚をもち、ある程度目と手を協調させて動く。
・自分の母親とほかの子どもの母親を、母乳のにおいや腋(わき)のにおい、その他母親が発するあらゆるにおいによって区別することができる。
・食べ物に関連した香りのうち、ミルクのような香りや果物のような香りがすると、ほほえみの表情を浮かべ、吸ったりなめたりするような口の動きをする。生臭いにおいや腐った卵のにおいがすると、不快そうな顔をし、しばしば、ものを吐くような動作をする。
【1週間~】
・生後一週間までに、母親の声をほかの女性の声と区別できるようになる。生後二週間では、母親の声と顔の主体が同じであることに気づく。
・生後数週間で、父親に対して、母親に対するのと全く違う態度をとるようになる。父親には、もっと目を見開いて、もっと陽気に、もっと顔を輝かせて接する。
【2か月~】
・生後八週間で、物のかたちや色の違いがわかるようになる(たいてい一番好きなのは赤、次が青である)。
・赤ちゃんは、無意識にものをしっかりとつかむ力をもって生まれてくる。生後二、三ヶ月になると
たいていこの強靱な握力は失われるが、かわりに別の能力が見られるようなる。それは目と手を協調させて動かす能力である。
【4か月~】
・生後四ヶ月で、生き物とそうでないものとの動きを区別できるようになる。
【5か月~】
・生後五ヶ月で、唇の動きが言葉に対応していることに気づく。
・目と手の協調運動ができるようになるためには、当然ながら、それに必要な視力が発達している必要がある。…未熟な目と手の協調運動は出生時から行っているが、生後五ヶ月ころまでにもう少し視覚が発達すると、物を手から手へと持ち替えたりできるようになる
【6か月~】
・生後六ヶ月になると目の焦点がしっかりと定まる。


ピアジェは能力の習得を段階ごとにわけたが、今日の神経科学は、乳幼児期に文字通り“開閉”する一群の〔学びの窓〕を発見した。つまり、脳の発達が特に急速な生後三年間には、脳の各部に〔最盛期〕があり、その間に認知や情緒などの学びがおこることがわかった。

~PETスキャン(陽電子放射断層撮影)からは、脳の特定部分がいつ“点火される”のかがわかる。最初に点火されるのは情緒の脳だ。新生児の脳を調べたところ、情緒の中枢といわれる大脳辺縁系がもっとも活発であることを発見したが、月例とともに、その部位が変わっていく。たとえば、生後二ヶ月と三ヶ月では、視覚皮質と小脳半球でブドウ糖代謝が盛んになる。これは視力と感覚運動能力が発達する時期と一致する。そして、最後、すなわち六ヶ月以降に、前頭皮質で盛んになる。これは認知に関連した行動、たとえば知らない人を怖がったり、作業テストの成績が上がったりする時期と一致する。ブドウ糖の消費パターンは、満一歳までに大人とほぼ同じになる。

~ここで注目すべき点がいくつかある。健康な乳児の脳の各部位は、進化の順に活性化する。つまり、起源が古い構造(哺乳類に存在している大脳辺縁系)が先に、新しい構造(複雑な思考の中枢であ前頭皮質)があとに活性化するのだ。

辺縁系が活性化しているときは、子どもは情緒のコントロール習得している。活発な部位が視覚野や感覚運動野に移ると、今度は子どもは目と手の協応運動に関連した能力の習得に精を出している

~視覚などの感覚に関する研究によれば、出生後に活性化する部位のひとつが、情緒の中枢である。また、情緒は階層的に発達し、しだいに複雑化していくことも、研究によってわかっている。生まれたばかりの子どもでも、喜び、悲しみ、ねたみ、共感、自尊心、恥などの感覚を味わうことができる。


●コメント
健康な乳児の脳は、進化の順に活性化するとありますが、児童福祉では思春期の性教育でよく、[カエル脳]→脳幹、[ネコ脳]→大脳辺縁系、[人間脳]→大脳皮質、なんて説明がされるのを思い出します。

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性衝動は、動物的な活動だからそれ自体は自然なことだけど、人として人間脳をきちんと働かせて、ちきんとコントロールしようね、なんて性教育の場面ありますよね。

すると、
起源が古い構造(哺乳類に存在している大脳辺縁系)が先に、新しい構造(複雑な思考の中枢である前頭皮質があとに活性化するのだ。

と読んだ時に「あれ脳幹は?」とふと思いました。そうです、少し前のコラムをよく思い出してみてください。

~胎児の脳は、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンに長い間さらされると、不必要な時に、「戦うか逃げるか」の反応を起こす習慣がつきやすい。しかも、この習慣は生涯続く。

~ストレスの高い母親の胎児は、心拍数が著しく増加し、その後正常に戻るまでの時間にかなり時間がかかった。ここでいうストレスの早い母親とは、血液検査で高濃度のストレスホルモンが認められ、不安が強くまわりから協力があまり得られないと質問票に回答した母親である。いっぽう、望んだ妊娠をして、適度な自尊心があり、周囲の協力にも恵まれた母親の胎児は、穏やかで、心拍数が正常に戻るのが早かった。

(【第43回】子宮内の胎児の意識と発達

ハッキリとは書かれていませんが、これらの記述から、おそらく哺乳類以前のもっと生物的な[カエル脳]=脳幹あたりの部位がもっとも活性化する臨界期は、胎児期であると読み取ることが出来ます。

そして、情緒コントロールを司る大脳辺縁系がもっとも活発になるのが新生児期で、生後二ヶ月と三ヶ月ではすでに、視力と感覚運動能力が発達する視覚皮質と小脳半球の代謝に移ってしまうというのは、初めて読んだ時は衝撃でした。

「情緒・感情のコントロール」の課題って、虐待で関わる子のほとんどに当てはまってしまうわけで、支援者はそれをどうしようと散々悩まされるわけですが、一番効果的な関わりの時期は、すでに胎児期~生後1ヶ月程で終わっていると。

それは率直にいうと、もちろん過去は変えられないんですが、多くの子が抱える「感覚や感情のコントロール課題とその支援に伴う大変さについての悩みは、ほんの胎児~新生児期の数ヶ月間の支援があれば、こんなに苦労することはなかったのではないか、という想いです。

それほど胎児期~新生児期の養育の影響は、その後のその子の人生に大きな影響を及ぼすということですし、それに一番苦しむのは誰でもない本人に違いありません。しかも自分ではどうにも出来ないことで。

これらの仕組みを知らされずに「早期支援!予防的関わり!」と言われても、支援者はただ急かされているようにしか思えませんが、きちんと説明され今やっていることの意義や意味付けがされて、ようやく母子保健や母親支援(家族の協力を含め)の質が変わるんだろうな、と。

前々回に「ポピュレーションアプローチ」の話にも触れましたが、虐待相談件数がうなぎ登りとか、発達障害を早期発見しましたとかでない文脈。もちろん、事が起こってからの対応も必要ですが、「虐待が脳に影響を与える」という事後のネガティブ文脈だけじゃなくて、同時に「早期支援・出産前後のママ支援は、子どもの脳の発達を支える」という事前のポジティブ文脈ももっと声を大きくして言われて欲しいな、と思います。

最後にLSWに絡めて言うと、LSWの一般イメージは、施設入所児童が「私のお母さん、どうしてるの?」と言ったり、現れが出てようやく過去を扱おうとするような事後対処に注目が集まりがちと思います(このタイミングでしか扱えないケースもありますが)。

でも、大事なことは、まずその時に起こった喪失体験(離別、転居など)にその場その場でできる限りの対応ケアされているか。児相が関われる場面で言うと、やむなく家から離れて一時保護や施設入所する時に、きちんと理由が説明されたり、それに伴う本人の想いや感情をきちんと聞いたり表現する場を与えているか。

そして、入所後もその状況理解や言い残した未完の感情がないか確認したり、知り得る家族の状況を伝えたり。リアルタイムでされるべき喪失体験へのケア(扱うべき本人の想い)を積み残すことで、後々に必要な支援は実はどんどん増えていってしまいます。

もちろん、どんなに気をかけても本人の状態から扱いきれない想いや喪失体験はあります。ただ、支援対象を個ではなく全体として見たら、今ここで出来る早期支援やケアをないがしろにして、事後対応にばかり囚われるのは明らかに順番が違うし本末転倒というのは、子どもの脳の発育の支援もLSWも変わらないなぁ、と思います。

あと今回は、落とした後のdocomoサポートに救われましたが、僕がやるべき順番は、落としても守ってくれそうな携帯カバーの検討ですね。

ではでは。