LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第53回】エル・クラシコで考える「連携とファシリテーション」

メンバーの皆さま

メリークリスマス。いかがお過ごしでしょうか。管理人です。

僕は12/23夜、リーガエスパニョーラで「エル・クラシコ(伝統の一戦)」と呼ばれる注目カード、

レアル・マドリードバルセロナ

を観てしまったせいで、もともとサッカーネタが多いのに、さらに思考が「サッカー脳」になっています。

ちなみに、僕はもともとNBA(米バスケ)の方が好きで「マイケジョーダン」の時代からBS放送NBA(米バスケ)を観てるんです。

しかし、今年からあの「楽天」がチャンピオンチーム(GSウォーリアーズ)のスポンサーになったせいで「楽天TV:RakutenTV」ばっかで放映して、NBABS放送が全くなくなっちゃったんですね。

その「楽天」は今年から「バルセロナ」のスポンサーにもなっていて、全世界が注目する一戦で「Rakuten」の文字がメッシをはじめ様々なスター選手の胸で踊っていました。すごい時代になったもんです。

で、取り上げたいネタは「楽天」ではなくて。

エル・クラシコ」のハイレベルな応酬を観ていると、対人援助の「連携」「ファシリーテション」って、やっぱりサッカーと似ているなぁ、とつくづく思いまして。

と言うことで、サッカーで考える(児童福祉の)「連携・ファシリテーション」のお題でコラムを一つ。


■まず、サッカーのお話し

あるブログで「相手の状況に応じて、3つのタクティクス(戦術)を持つ」「それはポゼッション、カウンターとかいう類のものではなく、3つの守備の設定位置を使い分けるという事」「高い位置、低い位置、そして、その中間の位置という3つ」という説明があり、僕の中ではすごく腑に落ちました。

以下は、あくまで僕の解釈ですが、

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イメージ的には、右からFW攻撃(白)、MF中盤(黄)、DF守備(赤)、GK砦(黒)の選手がそれぞれいると思って下さい。

そして、上の感じが【中間の位置】のスタンダードな守備バランスと仮定します。
(図はiPhoneで作ってますので、丸の形や位置のガタガタは気にしないでください)

基本的には「現代サッカーは11人全員で守る必要がある」(クラシコ直前の宮本恒靖ハリルホジッチ対談)ので、

①ファーストディフェンダー(白)が、ボールにプレッシャーをかけてプレーの幅・方向を限定する。
セカンドディフェンダー(黄)は展開を予測して連動してポジションを取り、ボール奪取を試みる。
③最終ライン(赤)は、放り込まれるロングボールを確実に跳ね返す、ゴール付近に飛び込んでくる相手を確実に捕まえてフリーにさせない。

と、組織として役割が連動することが必要で、前線からの守備が機能すれば次でボールが楽に奪えるし、逆にどこかで穴があると、余裕を持ってボールを運ばれてしまうので、後ろにかかる対応の負担やシワ寄せが増えていきます。

で、状況に応じた【守備の位置】の設定ですが、まず【高い位置】について。

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イメージは「バルセロナ」的なボール保持率(ポゼッション)の高いサッカーですが、それを実現するにはパスを繋げる技術だけでなく「ボールを失わない攻め」&「失ってもすぐに奪い返す守り」という攻守の両輪があって成立します。

いわゆる「ハイプレス」で、全体を前に寄せてボールの奪い所を【高い位置】に置いています。

これが機能すればずっと攻撃できるわけですが、もし「ハイプレス」が突破されたら、自陣の広いスペースでGKと1対1の場面を作られるリスクもあります。なので、GKは攻撃では「ボール回しに参加する足元の技術」を求められますが、守備では「1対1でもストップする」高い能力が求められるわけです。


で、逆に【低い位置】の守備はこんな感じです。

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自陣に構えて相手のスペースを消します。すると相手は中央突破ではなくサイドから崩してクロスを放り込んでくるので、DFやGKはハイボールを弾き返す「高さ&パワー」が求められます。

さらに、攻撃はボールを拾った後の「カウンター」なので、前の選手(白)には「相手を振り切るスピード」と「一人で得点を決めきる」高い能力が必要で、それを兼ね備えた代表格がクリスティアーノ・ロナウド

もちろん「エル・クラシコ」では、お互いの持ち味は十分に知り尽くしていますから、相手の長所を消すような戦術を取りつつ、一瞬のスキを伺う戦いが繰り広げられるわけです。


■ようやく児童福祉のお話し

そういう視点で試合を観ると、守備の「戦術の浸透具合」とか「連動性」って、対人援助で言うところの「方針の共有」とか「多職種の連携」と似てるなぁ〜、と思うわけです。

また、攻撃におけるテンポの良い正確なパス回しは、対人援助で言う「グループによる対話」や「ファシリテーション」の形だよなぁ、と。

例えば、子どもにアプローチして関わる時期を、

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こんな感じで右から順に見立てると、長期に施設入所している子は乳児院児童福祉施設(場合によっては施設変更も)〜自立まで、各ステージで多機関の関わり(例:母子保健、施設、学校など)はあるものの、時代を通じて継続してアプローチできるのは「児童相談所かなと。

最近なんだか担当の子の「自立」に立ち会う機会が多いのですが、同じ児相に約10年いるので、幼児や小学校低学年から知っている子たちなんです。

そうすると、中にはファーストアプローチ(=一時保護)から知っている子もいるわけで、始めから将来の布石となる声かけや記録を残し、中盤でもLSW的なアプローチして、思春期にフォローして、自立期には整えて送り出すことが出来ます

しかし、これは我ながら「ズルい」パターンかなと思います。言わば、前線FW〜中盤MF〜最終ラインDF〜GKまで全部自分でやってるわけですから、戦術理解も意思統一も出来てて当然だし、情報だって記録だけじゃなく記憶にも残っているわけです。

しかし日本の多くの現実は、10年の間に職員異動サイクルが3〜4年前後でも担当は3人目、ケースワーカーは毎年変わる事も珍しくないですから7〜8人目なんてこともあり得るわけです。余程しっかり記録するか引き継ぎが行われ、また引き継ぎを受ける側も意図を理解できる経験者でないと、意思統一はなかなか難しいですよね。

またサッカーで言う状況判断は「見立て」に近くて、例えば、思春期前後に初めて関わるケースは、

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もうファーストアプローチが遅れてるので、無理せず全体の支援を戦略的に下げるしかない訳です。その中で失点しない(安全を守る)ようにしながら、挽回できるカウンターのチャンスを伺います。

ただ、重いケースは概ね(コート右側の)幼少期以前の生い立ちに大きな「トラウマ体験」や「未完の喪失体験」を抱えていることが多いですから、その中をボール(安全安心)を失わずにドリブルで突き進んだり、前線のスペースに走り込むFWに後方からロングパスを供給するアプローチというのは、相当な訓練や専門性が必要となるわけです。

トラウマやグリーフに熟知していて、「ここなら行ける!」ところをピンポイントに通さないと行けないわけで。

なので最悪、児童福祉の枠で関われる「残り時間」や「資源」が少なければ、それ以上悪化する(今の安全も損なう)ような失点をしなければOK、スコアレスドロー(0-0)狙いの戦術がベターな場合もあるのが現実だと思います。まさに状況判断です。


で個人勝手に無理すると、こんな事態が起きます。

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守備も攻撃も、どこで勝負するのか、その方向性や意思の疎通が上手く行かずに、動きに連動性がなくバラバラになります。

(白)は「過去まで踏み込んで」支援する⇄(赤)は「思春期以降(現在)が危ない」から無理したくないという意図の相違。そうなると全体が間延びして守備も攻撃も連動性や分厚さがないので、チャレンジ後の「フォロー&カバー」ができずに、危険地域をスカスカやられ放題の状態。

 

対応が後手後手になっている、あの嫌な感じです。危機察知能力が高い人が、なんとか少し時間を遅らせたり、最悪カード覚悟で止めに入るパターンのやつです。

 
例えば、施設入所させたはいいが、その後に何も出来ず、気がつけば思春期には手がつけられない状態になっているみたいなケース。他には、始めの導入や対応(方向付け)が分かりにくかったりイマイチで、次に引き継いだ人が前の人のフォローから始めなくては行けないケースとかは、そんな感じかなと。

 

また、全体的にLSWに熱を入れると…

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過去(コート右)に支援が寄るので、前線に人数や時間をかけた状態になります。持ち時間や人員には限りがありますので、ここで全てのケースをカバーできれば良いですが、そこをすり抜けた(あまり問題のないと思われているケース)の「現在・現実」の支援が手薄になる可能性があります。思春期以降を任されたGKは、かなり広範囲を一人でカバーするスキルや懐が求められます。

なので、【守備の位置】を全体的に押し上げるのか、一旦は引くのかの判断は「全体の状況を見立てる」状況判断と全体への意思統一、役割の明確化(+スキルアップ)が必要不可欠と思います。

大切なことは、いま自分たちが何をしようとしているのか、どのポジションを取り、何の役割を求められているのかを俯瞰的に把握・理解していること。

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今は上空からの俯瞰図で全体を見ていますが、実際は現場ピッチ上の視野で、これを正確に把握し、全体でイメージ共有しないといけないわけです。これはそんなに簡単なことではないし、マネジメントや経営的な視点がかなり含まれる高度な専門性だと僕は思います。

さらに、失点やボールロストを「安全安心を失う」ことに例えるなら、攻撃の時も正確に狙った所にパスを出す、きちんとトラップ出来ることもまた「安全安心を守る」ために必要な要素かなと。

実際の「エル・クラシコ」の選手たちは、激しいプレッシャーを受けながらもボールは失わず、味方のスペースを見つけた動きのタイミングに合わせて、矢のような速さのパスを正確に繰り出し、受け手の選手も何事もなかったようにピタリとボールを止め、淀みなく次の攻撃動作に移って行きます。しかし、疲れや焦りが出てると、あのレベルの選手だって細かいミスが出てきます。


パス回しを「対話」に喩えるなら、物凄くわかりやすく正確な説明と柔らかい受け止めの面接技術、さらに効果的な流れを展開するファシリテーション技術の応酬です。美しく流れるような展開を支えているのは、「緻密さ」と「正確さ」を体現できる基礎技術の高さなんだと改めて思いました。

つまり、「安心感の高い」話し合いを実現するには、ボールの出し手も受け手も「現在地と今後のイメージ共有」が出来ていて、的確にボールを出したり受けたりする「個人の面接技術」を持ち、ミスが起きてもフォローして直ぐボールを守れる「チーム体制・戦術」が整っていることが必要なんだと。


僕の中では、

【前線から守備】
リアルタイムでの、LSWを見越した情報収集・記録作成、措置変更前後の丁寧な説明&フォロー(喪失へのケア)

【ボール奪取後のパス回し】
LSWで対話しながら安全に過去を遡っていく感じ

その全体バランスや意思統一の重要性もLSWイメージと重なりまして、色々なことを考えさせられる今年の「エル・クラシコ」でした。

正直、クリスマスイヴに何枚もサッカー図を描いて「何やってるんだろう」と思う瞬間もありましたが、色使いも何となく「クリスマス」風になりましたので、サッカーに興味がない方も管理人の「遊び」と思ってお許しください。

ではでは、よいクリスマスを🎄