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静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第54回】14ゾーンで考える「2017年まとめ」

メンバーの皆さま
 
 
こんにちは。管理人です。
 
プライベートではようやく「年賀状」作りも終わり、昨日、無事に今年の仕事納めの一日を終えました。
 
今年を振り返ると、我ながら半年間よくコラム続けたなぁ、と。まぁ道楽的な作業ではありますが、このペースを維持できたのは自分でもビックリです。
 
で【第50回】あたりから、これまでのまとめ的コラムを書きたいなぁと考えていまして。おそらく、これが2017年最後のコラムになろうかと思うので、そんな内容を、
 
■「14ゾーン」とは?
■ LSW前の「子どもの見立て」
■親子関係再構築の「安全度」と「自由度」
■ 児相と施設の「連携フォーメーション」
 
4つのトピックで綴ってみます。
 
 
■「14ゾーン」とは?
表題の「14ゾーン」ですが、クリスマス12/25にサッカー喩えネタを書いた翌日にこんな記事を見つけたんです。
 
富山第一・大塚監督の革新的戦術。攻撃的5バックと"14ゾーン"とは?』
 
ちなみに「富一」は2014冬の高校サッカー選手権で富山県初の「優勝」を果たしていて、同じ雪国の北信越(新潟)出身の僕としては衝撃的だったのを覚えています。
 
エル・クラシコのおかげで「サッカー脳」になっちゃってるところに、見事に今年考えていた事とリンクしてしまいましたので、今回も多少のサッカー話しにお付き合いください。あとで、LSWの話に戻りますので。
 
で記事の内容は、元プロ選手の高校サッカー監督がイングランドの最新のサッカー戦術を取り入れているというもの。
 
で「14ゾーン」とは、サッカーコート半分を9つ、合計18個のゾーン分ける線を引きます。

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左から右(→)に攻めるとして、14番目にあたるペルナティエリア前を「フォーティーン(14)ゾーン」と呼ぶんだそうです。日本サッカーでは「バイタルエリア」なんて言われるエリアです。
 
そして統計的には、ほとんどの得点シーンはこの「14ゾーン」を経由していると。決定的なスルーパスにしても、サイドへの展開にしても、ミドルシュートにしても。
 
なので攻撃はいかに「14ゾーンを攻略」するか、守備はいかに「14ゾーンを閉じる」かというせめぎ合いになるんだと。
 
フットボール」と「統計学」の融合ですね。以前のコラムで、英国は、実証的・科学的なエビデンスを重視するという話に触れましたが、それはフットボールにおいても似たスタンスがあるようで面白いです。
(【第49回】セラピストとカウンセラーの違い
 
 
さらに「14ゾーン」を知りたい方は、以前に紹介したアルゼンチン人のシメオネ監督(参照【第38回】状況判断能力とコンセプトの融合)が率いる、ヨーロッパ随一の堅守「アトレティコ・マドリードのトレーニングが動画で見れます。ミニコートを縦4分割した練習面白いです。
 
ゾーン14を閉じるゾーンディフェンスとトレーニングセッション
 
 
 
■ LSW前の「子どもの見立て」
 
前回コラムでは「支援体制」をポジショニングに例えましたが、今回は「子どもの内面」の例えです。
 
で、前回書いたこの図、と「14ゾーン」を照らし合わせると、左右は逆ですが、

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「14歳(中2)のアイデンティティが揺れる時期」
と数字も時期も位置もピタリと一致します。
 
また、児童福祉で関われる年齢「18歳」とゾーン数18が同じ所もそうですし、中盤のナンバー(7〜12)が小学校年齢と一致するのは、ただの偶然だけではもはや言い表せません。
 
さらに、相手にとっての「14ゾーン」は、自分にとっての「乳幼児期=5ゾーン」に当たります。ここの守備を厚くするのって、乳幼児期の情緒的関わり(アタッチメント形成)がしっかりしていると、安定性やレジリエンスが高いイメージと一致します。
 
もっと言うと、僕の中では、コートを縦にして、

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要になる、生活場所を支えるセンターラインが「家族」、脇を固めるのが「支援者」のイメージです。
 
なので、例えば、14歳を迎えるにあたって、在宅で比較的安定的な生い立ちを過ごせている子は、こんなイメージです。

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思春期で「ウゼー!」「うるせぇークソババア!」とか多少荒れたって、土台となる「5ゾーン(相手にとっての14ゾーン)」の守備もしっかりしていて、周りのサポートもある状態ですから、まぁ放っておいても自分で得点(成長)をして、じきに落ち着いていきます。
 
もちろん各時期の脇には、支援者(黄丸)がたくさんいて、安全安心に囲まれて14歳までも育っています(ボールが幅広く繋がっているイメージ)。
 
そして、社会的養護にいる子であっても、乳幼児期までに可愛がられた経験のある子(単純な養護ケースに多いかも)は、こんなイメージ。

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主な養育者(色塗り)が変わったとしても大事なところの安定感はありますし、会えないにしても家族の情報が入って自分の中で重なって繋がっていて、時間的展望や連続性も繋がる。そして脇も固まっているので、予後が比較的安定しているイメージです。
 
なんか段々「バ」で始まる心理テストに見えてきましたが、解釈法が同じわけでもないので、誤解のないようにコートを横に戻します。
 
それで「施設入所・措置変更を繰り返し」かつ「家族情報や家族交流が乏しい」ケースのイメージはこんな感じです。

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施設間の連携・引継ぎが上手くいかないと、カバーエリアがバラバラで繋がっていない。おまけにセンターラインもスカスカで強度も弱く、一番やられたらマズイ「5ゾーン(相手にとっての14ゾーン)」に誰もいない。
 
こんなチームは、安定感、安心感がまるで無いですし、危なっかしいですよね。
 
僕の中では、コート全体は本人の心の中の「ライフストーリー」のイメージで、色や範囲が濃い所が(過去ー現在ー未来の)時間志向性」が強くなっている場所のイメージです。技術的な問題で図では濃淡まで表現しきれませんが、カバーされたゾーンがある濃かったり薄かったりするのが志向性の濃さのイメージです。そして、
 
【第19回】ジンバルド時間志向テスト
 
でも触れましたが、時間志向性は単に強ければいいと言うわけではなく、大切なのは全体のバランス。時間志向性が「過去ー現在ー未来」のどこかに過剰になっている時の精神状態は「時間精神医学」の例で挙げた通りです。
【第40回】バイオサイコソーシャルアプローチ④
 
また、色の薄い囲いもなくカバーされていない「空白」の部分に「未完の喪失体験」が埋まっている可能性があります。それは単に知る機会が無かっただけかもしれないし、トラウマ体験を「解離」させて心を維持するために記憶から飛ばしている部分かもしれません。
〜参考〜
【第7回】子どもの悲しみによりそう 適切な喪失体験のサポート法④ など
【第48回】神田橋処方とLSW
 
 
なので、まず何が起きているのか可能な限り相手をよく見極め、それでもハッキリしない部分はあるので助けを呼べる周辺ゾーンの安全を整えて、何かあってもカバーしてもらえる状態にしてから、アプローチを開始する。
 
こんなサッカーコートのバランスを「心の中/記憶」と「支援体制(前回コラム参照)」の両面で整え、リスクマネジメントを高める作業して、相手もやられまいと閉めてくる「14ゾーン(思春期の揺れ)」にアタックし、仮にボールを失ってもカウンターからの失点リスクを最小限にしておく攻守のバランス管理や状況判断による戦術選択。
〜参考〜
【第27回】「チームを整える」長谷部誠
【第53回】エル・クラシコで考える「連携とファシリテーション
 
 
ちょっと最後はゴチャゴチャしましたが、LSWを点滴のように少しずつ行うイメージをあえて「サッカー」「14ゾーン」に喩えると僕はこんなイメージを持っています。
 
思春期は、ただでさえ親離れの時期で「親子関係」に葛藤を抱え不安定になりやすいと思います。その「14ゾーン」を攻略する(支援者が揺れを抱える)には、「乳幼児期=5ゾーン」の安定度や整理具合が非常に重要だなぁ、と実際のケースに触れて感じています。
 
 
■親子関係再構築の「安全度」と「自由度」
最近「親がいない場合のLSWってどうすればいいんですか?」と聞かれる機会が増えました。
 
あくまで僕の考えですが「親に会える頻度」の差が、
①「在宅」で親と暮らしている
>②親と別居しているが家族交流はある
>>③家族交流はないがコンタクト出来る
>>>④家族交流はなくコンタクトも取れない
 
状況に応じてあるだけで、基本的な考え方や視点は「親子関係再構築」で同じなのかな、と思います。
 
在宅ケースで親子関係を修復するケースは、どの機関でもやっていることですよね。その時していることは「お互いの話を聞いて、お互いの気持ちを擦り合わせて、家族の形やシステムをどう再構築するか考える」ことではないでしょうか?
 
②の場合は、経済的理由とか虐待とかだ、親と一緒にいると【安全度】が保てないので、仕方なく離れて暮らしているけれど「親子関係再構築」でやる事は変わらないですよね。生活場所を分離するという手法は児童福祉独特かもしれませんが、お互いが望む家族の形をしっかり聞いて安全な形で調整する、という部分では共通かなと。それがなかなか難しく骨の折れる作業なんですけれど。
 
③は【安全度】か【物理的】に交流ができない場合。物理的とは例えば、親が遠方で暮らしている、すでに別家庭を構えている、刑務に収監されているとか。
 
で【安全度】とは「A:親が再び虐待行為をしないか」×「B:子どもがトラウマ再体験(フラッシュバック)しないか」の両方の掛け算。
 
もし、子どもが親に会うことを猛烈に拒否していたり、会った後に生活が脅かされる程に激しく荒れる(=フラッシュバックの可能性大)場合は、家族交流をストップしたり、安全な形に【自由度】を制限しますよね。
 
【自由度】とは、交流する人・場所・方法の幅です。お母さんだけならOKとか、まずは手紙からにしましょうとか。
 
基本的に交流ステップは、【安全度】によって面会・外出・外泊などの交流の【自由度】をどれくらい緩めるかという判断が求められるということなんだろう、と。
 
気を付けないといけないのは、違うことに慣れるということは「多少の揺れ」を伴うということ。その揺れを「抱える器」の範囲内で安全に交流を図ると言うのがポイントで、よく起こるのは少しでも揺れると「子どもが可哀想」と大人側が不安を抱えられず変化の余地を妨げるパターン。
 
なので、支援者のレジリエンスを高めましょう、と「あいまいな喪失」の部分で「AでもありBでもある」という両価的な価値観や「自身の喪失体験を癒やす」大切さはコラムの各所でかなり取り上げてきたつもりです。
 
で、LSW本題の「④家族交流はなくコンタクトも取れない」場合ですが、①〜③なら親がどう考えているか、何をしているか直接聞くわけですけど聞けないので仕方なく、過去に残っている情報を元に「心の中の家族」と対話してもらうわけです。
 
この事は特別な事でなく、親と一緒に住んでいる場合だって関係調整の間に入る支援者が「本当はこんな風な気持ちがあんな言葉になってたみたいよ」という気持ちの通訳をしてあげることって良くありますよね?
 
それを「目の前にいない家族」と行うだけです。ただ当然ポンポンと対話のキャッチボールができるわけでないですし、さらに過去に癒されていない「未完の喪失体験」が伴いますから、一つ一つを噛み締め思いを巡らせた時に湧き出てくる本人の気持ちを丁寧に聞いて受け止める必要があります。
 
例えば、虐待者と直接会わせる時は【安全度】に細心の注意を払いますよね?それと同様にLSWで扱う過去の情報も「その時、何が起こっていて、本人にとってどんな体験だったのか」を支援者が理解した上で「会わせ方」「扱い方」を検討する、と言う日常的に行なっていることをブレずにやるだけかな、と思います。(そもそも親子面会における「それ」がされていないという話も耳にしますが…)
 
具体的な方法論については、喪失やトラウマを扱った各コラムを参照いただければヒントは載っているかと思います。でも、安心感をもたらすために大切なことは、まず目の前の養育者が一生懸命に考えてくれている姿を見せること、その時々で丁寧な事前説明(施設入所や措置変更、グリーフ、トラウマ反応についてのガイダンス「これからこうなりそうなんだけど、こんな風になる子もいるもんだから心配だよ〜」)を年齢や関係性に合わせてわかりやすく誠実にする事なんだろうと思います。 
 
仮に最終的に行き着く選択・場所が同じであっても、どのようなプロセスを経て(丁寧な連携とパス交換を経由してきたのか、一か八かの思いやりに欠けるロングパス一本なのか)、その子自身が納得してその決定選択に至っているかどうかが、その後の人生選択においても大事なんだと思います。
 
なので、まず判断やガイドをする大人自身が「安全を守るため」だけで思考停止しないで、子どもにとって家庭を離れるということが、どういう体験でどのような影響があるのか、様々な角度から考えて理解を深めようとし続けることが必要なんだと思います。
 
その上で、【安全度】を守るという守備の軸と、【関係性構築】を促す攻撃(交流・ファシリテーション)の軸と、そんな2軸があって、さらに全体を引いたり押し上げたりする状況判断能力やチームワークも磨く。
 
どこかに偏るではなく、万遍なくトレーニングして、総合力を上げることが良い支援につながる。結局「急がば回れ」なのかなと思います。
 
 
■児相と施設の「連携フォーメーション」
 
最後は余談です。前回コラムと似た話ですが、LSWの職種役割の連携イメージについてです。
 
僕のイメージはこんな感じ。

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社会的養護で家庭復帰が難しい子は、軸となるセンターライン(生活の場)を「家族」ではなく「支援者」が支えなくてはいけません。
 
CF(センターフォワード子どもの生活の最前線
→「施設ケアワーカー:CW」
CB(センターバック生活場所を探し確保する
GK(ゴールキーパー)最終ラインの砦・責任者
→「児童福祉司の上司(グループ長:GL)」
MF(ミッドフィルダー)児相と施設のつなぎ役
→「ファミリーソーシャルワーカーFSW
 
文字もなんか重なりますし、こんなイメージ。
 
で、心理はその脇を上下動しながらサポートする。児童心理司は「安全第一」で守備を固めながら時々攻撃参加。施設心理は、前線の生活場面にいながらも時々現実からあえて「外れて」心の休息、整理、成長を促す多様な役割。もちろん児相と施設の調整のサポートもする。
 
心理がサイドから参加することで、支援(パス回し攻撃、守備ライン)の視野、角度、幅、バリエーションを増やすイメージ。ただし、SBにもスピードが売りの選手、展開力・クロスの精度・運動量・守備の堅さなど色んな特徴を持った選手がいるように、心理職も色んな特徴や得意分野を持った"癖"のある人の方が多いと思います。
 
また、学校の先生は子どもの日中の生活を支えてくれますし、病院は子どものトラウマ等をピンポイントで治療してくれる等の役割があると思います。
 
サッカーでも単独プレーが得意な人、連携プレーが得意な人がいるように、他連携も巻き込んで攻守のバランスと強度を上げていく、周りと相乗効果を発揮できる「連携力」も児童福祉では重要な能力の一つかなと。
 
もちろん、各児相や施設によって、ベテランもいれば若手もいるわけで、各人の持ち味はそれぞれです。若手の熱意や運動量と、ベテランの落ち着きと、まさにチームのバランスや融合が大事かなと思います。 
 
現実問題、各機関の職種人員が豊富ないわけではないですので、サポートはお互い様ですし、持ち味はそれぞれです。例えば、一流サッカークラブにはフィジカルコーチ、技術コーチ、戦術コーチがいるように、福祉分野のSV(スーパーバイザー)だって決して万能ではなく得意不得意分野はあるわけです。
 
さらに、流れを変えたい時には前線のメンバー交代(措置変更)することだってありますが、これも戦況な流れに合わせて適切なメンバーやタイミングで投入できるか否かで効果的な変化があるのか、むしろ全体のバランスを崩して悪化してしまうのか変わってくると思います。そして連携や安定感を考えるとあまり交代枠をあまり最終ライン(児相職員)に使いたくはないですよね。
 
「流れを読む」に関しては、いつも注目記事の一位になっている
【第31回】雀鬼 桜井章一×羽生善治「負けない生き方」
を参照下さい。(もしや皆さん麻雀好き?)
 
 
そんな現場メンバーを決めるのは監督(機関長)ですし、そもそものチームメンバーを確保したりリクルートするのはオーナー(人事担当、理事長クラス)の仕事です。
 
こんな感じで考えると、各ケースでどのポジションも万全なチームというのはまずないので、誰かが誰かをフォローながら若手を育て、その時その時のチームとしての形を作っていく、と言うのが現実だと思います。
 
大事なのはチームの「多様性」で、ハマった時は強いが脆いチーム、誰かに依存しし過ぎたチーム作りではなく、どんな場面でも怪我人が出ても切り抜けられるタフさ柔軟性があるチームを作りたいものです。
 
それを継続的に維持するには「多様性」を持てる職員の育成システム、その時の戦況を判断できる確かな戦術眼が必要だなと思います。
 
今後「まごのてblog」がそんなことの役に立てば、非常に嬉しい限りです。
 
 
■最後に
長くなりましたが今年の半年間、本blogにお付き合いいただいて本当にありがとうございました
 
まだまだ紹介したい図書や記事は山積みなので、2018年中には【第100回】に到達できることを目指して更新し続けたいと思います。
 
僕は年末年始、故郷の新潟に帰り、雪の中で英気を養ってきたいと思います。皆さまもよいお年をお過ごし下さい。
 
ではでは、また来年。