LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第56回】ジャパネット流「企業再生術」

メンバーの皆さま
 
こんばんわ。管理人です。
 
今回は経営マネジメント分野の記事から。
『新時代に勝ち残る企業のあり方』(致知2018.2)
 
"あの"ジャパネットたかた創業者の
×
神田昌典氏(アルマクリエイションズ社長)

の対談です。内容は企業経営ですが、LSW的な取り組みを展開しようとする時の話とあまりに重なっていてビックリしたので一部紹介します。
 
トピックは、
Vファーレン長崎、奇跡のJ1昇格の裏側
②企業のブランド力を高めるには
③フューチャーマッピング
 
の3つです。少し長いですのでご容赦ください。
 

V・ファーレン長崎、奇跡のJ1昇格の裏側
 
長崎は2013年からJ2に参戦して以来、累積赤字が3億円超で、選手に給与が払えない経営状況。
 
そこで、高田社長が「長崎から元気印をなくすのは損失だ」と、V・ファーレンの株式買い取って、自らが社長となり再建に乗り出した、と。
 
で、その再建方法が、海外リーグによくある石油王がチーム買い取ってじゃぶじゃぶ金使って有名選手を集めて…という手法とは全く異なるもの。
 
監督コーチ陣の交代、選手の大型補強は行わず、職場環境の改善に重きを置いた改革。具体的には、スタッフの増員、試合前の家電チャリティーオークション、選手を社長の自宅に呼んでカラオケやBBQなどなど。とにかく社員が働く安心感とモチベーションを高める取り組みの数々。
 
【参考】J2長崎、ジャパネット参画後の劇的変化。人員増加、職場環境の改善…着実に進められる改革
 
この記事の時点では、シーズン真っ只中でもちろんJ1昇格なんて決まってないわけですが、約4ヶ月後の11月11日高田社長就任から約7ヶ月あまりで見事、J1自動昇格を決めたわけです。
 
チーム主将はこの環境改善に関して「この人のためにも戦おうという雰囲気になった」と。
 
一方、高田社長はこう語っています。
「私がやったことは本当に大したことないんです」
 
「ただ一つ言えるのは、やっぱり人の心が変わると不可能が可能になる。…私の意思とか情熱が監督やスタッフ、選手、長崎県民にも伝播し、『J1になろう。再建しなきゃいけないんだ』と」
 
「もちろん精神論だけではなくて、監督が素地をしっかり作ってくれ、いろんな人の助けや偶然が重なったからこその結果です。だから、昇格を決めた日にも言いましたが本当に『長崎の奇跡』だと思います」
 
 
ちなみに監督は「ドーハの悲劇」世代には懐かしいあの"アジアの大砲"こと元日本代表FWの高木琢也氏。2013年から高木監督に就任し、数年かけて地道にチームを成熟させてきた素地なしにはJ1昇格はなかったでしょう。
 
しかし、2013年から6位→14位→6位→昨年なんて15位です。ちなみに、プレーオフの末に一年出戻りJ1昇格を決めた「3位名古屋グランパス」とは戦力や資金ともに雲泥の差なわけで。
 
長崎が「シーズン2位」で自動昇格するなんて、シーズン当初に誰が予想したでしょうか?
 
高木監督が作ってきた素地はもちろん、プラスして高田社長の皆の力を一つに集める」経営手腕がなかったらいろんな人の助けや偶然を重ねた奇跡は起こらなかったと思います
 
そして、高田社長は語りをこう続けます。
 
「商売って、売り上げとか利益ばかり求めていても面白くないですし、スポーツも勝った、負けただけでは長くは続かない。その先に何をもたらすかという方向に進んだ時、すごいエネルギーが出てくるんじゃないかと思います。つまり、それはミッションです」
 
「…V・ファーレン長崎の社長になってから、企業を再生しなきゃきけないってことで、一つひとつ課題を潰していった結果として、J1に昇格しただけ」
 
「…J1になることも、試合に勝つことも、目標じゃないんです。やっぱりサッカーというスポーツを通じて、世の中の人たちに元気と生きがい、夢、感動を伝えていく。さらに今掲げているのは、長崎は広島と共に被曝した県ですから、『平和を発信するクラブである』と。だから、あくまで勝つことやJ1昇格は手段なんです」
 
「…私は結果論者みたいに言われることがあるんですけど、そうじゃない。結果は重視しません。一番はプロセスです。プロセスで手を抜いている人や組織は絶対に目標を達成できない。いま目の前にある一つひとつのプロセスに集中する。それを重ねていくことで、最終的な人生の目標に到達できるのではないでしょうか」
 
こんなことを社長から語られて「力になりたい」「がんばろう」と思わない方が無理ですよね。しかも、たぶん高田社長はゴリゴリ押し付けるのではなく、ワイワイした雰囲気の中でやんわりじんわり、あの甲高い声で語るんです、きっと。
 
 
●LSWに置き換えると…
この高田社長の経営プロセスは、僕のLSW導入プロセスのイメージとピタリと重なるんです。
 
LSWって現在の子どもの適応うんぬんじゃなくて、子どもの未来や将来の投資的な意味合いが大きいと思うんです。つまり、それは直後に子どもが「荒れた/落ち着いた」先にある組織の「ミッション」なんだと思うんです。
 
ただし、忙しく余裕がない組織にゴリ押ししても反発が起きるだけなので、まずは人の話を聞く余裕が持てる職場の環境作り、モチベーションを高められる仲間作り、そして一致団結できるビジョンや未来を語り合う「ステップ/プロセス」が必要だと思います。
 
やっかいなのは『子どもの最善利益』と言う言葉で、見てる時間スパンが「今」と「10年先」の人では、まるでビジョンは異なるんですよね。もちろん必要なのは"両方"なんですけど、まず展望する時間の幅が共有できないと対話がずっと噛み合わないなぁ、と思います。
 
将来こうなって欲しいから、高卒までには、中卒までには、今はこれが必要なのではと言う話です。今と先の姿がきちんと繋がるようなイメージや語りの共有が支援者同士でされないと、僕の中では「LSW実施」はあり得ないです。
 
そこで手を抜くとロクな事にならないですし、悪気なくても回り回って「子どもの不利益」になります。それは、大人同士が内部分裂して、悪者を作って協力せず、結果的に一箇所に過剰な負荷がかかり子どもの揺れを抱えきれなくなる負のスパイラル、行き着く先は「望まない措置変更」です。
 
でも、その子の将来を考えるなんて、仮に親なら当然のことで、子どもの育ちを支える身としては「大したこと」ではないと思いますが、実際はそういうマインドになれない人もいる。だいたい自分自身に余裕がなくてフォローもあまりなくて、視野が狭くなっている場合が多いと思います。
 
そして児童福祉の専門家であるなら、社会的養護という一般家庭とは異なる状況下で育った子どもの自立後の理解、知見やフォローの緻密さにおいて、人とは違いを出せないと、とは思います。
 
 
で、対談が進むと、さらにLSWに重なった話になっていきます。
 
■企業のブランド力を磨き高めるには
 
さらに、高田社長は、変化を乗り越えて発展する会社の条件について、こう語っています。
 
「やっぱり時代がどんどん変化しても、ブレないミッションを持つことでしょうね。誰のために、何のためには企業は存続するのかというミッションがしっかりしていれば、時代が変化してもお客様の心に届くんじゃないかと思います」
 
これは時代の変化によって、役割や方針がどんどん変化する、率直には現場が振り回されていると言っても過言ではない【児童福祉】にピッタリの言葉ではないでしょうか?
 
さらに、
「私はテレビ番組を長年やってきましたけれど、最後まで見ていただくのは大変なんですよ。毎回闘いでした。そこで一番大事なのは、最初の10秒なんです。面白いなという誘導ラインが最初になければ、なかなか見てもらえません」
 
「30分の番組でポーランド産の羽毛布団を販売した時、私はスタジオでただ商品を説明するのではなく、ポーランドまでスタッフを12名連れて行きまして、卵が孵化するところから親鳥になって羽毛を刈るところまで、全部の工程を見てきました。そして、30分の中に現地で働く人の苦労、羽毛布団づくりに懸ける思いを表現して伝えたら、何十億円と爆発的に売れたんです。
   一つの商品に込められた努力や思いを伝えていく。それがブランド力を高めるのだと思います」
 
 
もちろん、それで品質の悪い物が届けば、ブランド力も信頼も失います。品質には絶対の自信がある、あとはそれをどう伝えるかプレゼンテーションだ!という話しですが、高田社長は小手先の喋くりスキルじゃなくて、多少不器用でもお客様に思いが伝わる「人柄」重視でTVショッピング販売員を選んで来たと。
 
おそらく、それは「自分自身の言葉」で語れるかどうか。そして「人柄」も「言葉の重み」も一つひとつの実体験の積み重ねによって形作られるものではないかな、と僕は思います。
 
児童福祉で相手にするのは、人への不信感で支援を受ける気なんてサラサラない大人や子どもたちです。「なんか今までの大人とは違うぞ」と思ってもらえないとコチラの話は聞いてもらえない。「人柄」って重要な要素ですよね。TVショッピングと違う点は、自分が話す前に、まずは相手の話を十分に聞く必要があるということ。
 
そして、安心感や信頼関係が作れてきたら、客観的なアセスメント(情報収集+心理検査結果)から、これまでの生い立ちから子どもが感じて来ただろう気持ち(=見立て)、そして我々が心配していること、今後お願いしたいことを丁寧に伝えていく。
 
ケース会議、施設入所の説明、家庭引き取り等々場面で、関係機関や家族とそれぞれの場面でやる、上記の「やりとり」とそれに至る準備「プロセス」は、どれも本質は同じだなぁと思っていましたが、高田社長の語るブランド力を高める方法とも共通点がこんなにあるものかとビックリしました。
 
 
さらに、共通点の極めつけは次の話。
 
■フューチャーマッピング
 
対談相手の神田氏が、経営コンサルタントを始めて10年くらい経った時に、自分の仕事を振り返り、今までやったプロジェクトのうち、うまくいったものとそうでなかったものを全部棚卸しして、必ず上手くいっていた手法があると。
 
それが「フューチャーマッピング」という手法。
 
ポイントだけの説明を引用すると、
「120%幸せで満ちたユーザーさんの顔を想像し、詳細に思い浮かべて、そこから逆算してどのような行動をしてくかを考える思考プロセスです」
 
「自分事で考えてしまうと、目先の選択肢しか出てきませんのでぶれるんです。ですから、自分とは関係のない他の誰かを思う、利他の気持ちを抱いて、そちらの方向にゴールを設定していくと、選択肢が広がりますし、短期間で結果が出やすくなります」
 
高田社長は「まさに私と同じ考え方です」と述べ、現在フューチャーマッピングは学校のキャリア教育で導入され、高校生20万人に配られている手帳の1番初めに掲載されている、と。
 
で、このマッピングの形を見てびっくりしました。
Googleの画像検索で「フューチャーマッピング 」見てみてください。
 
LSWや将来展望の面接でよく利用される
「人生曲線(ライフライン)」とグラフの形
※管理人作のイメージ図

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に、そっくりなんです。人生曲線の場合は左側から書き始めて、今まで主観的人生をどの様に捉えているか、そして将来の希望や展望を聞くのに役立つ手法かなと思います。
 
一方、フューチャーマッピングは考える順番が逆で、まず右側の「望む未来の姿」を具体的に想像し→「その間、自分がやったこと、周りにしてもらったこと」を現在(左)に戻る様に考えるという事ですが、これは、
 
【第34回】フィッシュボール
 
で紹介した[オープンダイアローグ]の中で使われる[未来語りのダイアローグ]で話題を取り上げてホワイトボードに書く順番と全く同じなんです
※管理人作のイメージ図

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からしたら、「フューチャーマッピング」は、ピコ太郎のPPAPばりに、
 
「人生曲せ〜ん」と「未来語りのダイアロ〜グ」を「ヴン!」と合体させた様なものに見えます。
 
フューチャーマッピングは、まず未来の理想の姿を想像するので、当然グラフは右肩上がり、右上には笑顔も書いてあるので、確かに未来の具体的な楽しい姿や、それに至る紆余曲折のプロセスを想像したり表現しやすい仕掛けが多く、参考になる点もあります。
 
ただし情報量が多いので、社会的養護の子の境界域レベルの知的能力や、過去〜現在も繋がらず肯定的な未来の姿イメージが全く描けない子には、ハードルが高い手法かな、というのが僕の一見の印象です。
(ちゃんと講習会を受ければ、そうではないと言われるのかもしれませんが)
 
だけど、将来の希望、なりたい姿をきちんと言語化するというのは非常に大切はプロセスで、言霊とかピグマリオン効果に表されるように「言葉には力がある」と僕は思います。
 
それは、人間の可塑性で「こうなる」と思えば、脳もそのように適応していくし、どうせ無理と限界設定した時点でそれ以上のことは起こらないし、良くも悪くも頭で思い描いたイメージに脳が近づこうと適応しようとする部分はあるだろうと。
 
そういう意味では分野を超えて、今自分がやっている実践と似たことを同時期にやっている人が居るというのは興味深いです。
 
■さいごに
今回言いたいことは、社長も経営コンサルタントも児童福祉とやってることはたいして変わらない、って言うか本質は全く同じじゃん!ということです。
 
そして、神田氏が大切にしている事として、
コンサルタントとして一番重要なのは、いま抱えている痛みをどうやって和らげ、それを幸せの方向にどう転換していくか。なので、人の痛みを理解する力、ここに尽きると思います」
 
と語る、心構えや志が、まさに児童福祉マインドそのものと重なっている所に驚きを隠せませんでした。
 
LSWは、まずはライフストーリーを整える「過去〜現在志向」の作業イメージが強いですが、本来はその先にある「未来志向」のフューチャーマッピングのような取り組みまでセットになるべきなんだろうし、その方法や手法は他分野からも学べるのではと思います。
 
経営コンサルタント分野の考え方や手法が、もっともっと他にもLSWに応用できたり、ヒントになることがあるのではと、好奇心を掻き立てられる対談でした。
 
V・ファーレン長崎、少しずつ補強を始めましたが、まだまだ戦力的には降格一番手。新シーズンJ1での戦いに注目です。
 
あ、またサッカーの話題になってしまいました。
 
ではでは。