LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第57回】心理療法の系統的選択

メンバーの皆さま

こんにちは。管理人です。

たまには、ちゃんと(?)臨床に近い話題でも書かないとなぁ、と思いまして。

で、今回は少し前に読んだコレから。

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なぜそれぞれのクライエントに最も適合する心理介入を選択するのか』

ラリー・E・ビュートラ博士は、国際臨床心理学会2期に渡る元会長で、米国心理学会心理臨床部門と臨床心理研究部門の元会長で、長い間アメリカの臨床心理研究誌の編集長も務めていた方のようです。

で、紹介されているのが、ビュートラ博士が40年以上臨床心理研究をモニタリングし、様々な臨床研究を統合して開発した方法。

【Systematic Treatment Selection:STS
                                    (心理療法の系統的選択)


例えば、世界には1000種類以上の心理療法があるが、うつ病には認知療法というように、診断名と心理療法を一致させた治療効果がきわめて低いことがわかっている、と。

そして、治療効果を高めるのは、心理療法のブランド名より、セラピストとクライエントの治療関係要因やクライエントの特性や性格に適合した心理的介入である、と。

STSはその治療原則を表したもので、エビデンス的に治療効果のないものを除き、200以上の心理療法をクライエントに最も適合した形で選択することができる、と。


ここまで紹介されたらメッチャ気になりますよね。
だけどSTSの邦訳書はないようで…。

さすがに英語の原書は値段がちょっとお高いですし、買っても読み切るまでに心折れそうなので、webにアップされている本の一部らしきやつを、少し前に頑張って読んでみました。

で。まぁ概要は上の通りなんですが、わかりやすくて興味深いのが、こんな内容。

STSは、経験的に開発された手順である。

このアプローチには、2つの基本的なもの仮定がある。(a)すべての間者で良好に機能すること治療法またはモデルはなく、(b)ほとんどの治療法は一部のクライエントでうまくいく。

〜厳密には、STSは「統合的心理療法」ではない。つまり、理念的な概念を組み合わせたり、統一的な理論的アプローチを導き出しすことを試みてはいない。

〜"技術的な折衷的"アプローチというラベルは不正確である。STSは特定の技術セットを決めていないので、むしろセラピストの変化と影響の横断的な原則(例えば、治療的変化が起こりやすい、治療法がクライエントの抵抗を引き起こさない)と一致する特定のアプローチを手順に使用することを可能にする。

そして事例を絡めて、クライエントの
・機能レベルの評価
・コーピングスタイル
・抵抗のレベル
・動機づけと主観的苦痛

の解説が続きます。英語の論文読むなんて、院生以来10年ぶりですが、Google翻訳がホント優秀で、思ったよりスイスイ読めました。

まぁ単純化すると、万能な方法なんてないから、しっかり相手を見て、相手に合ってる方法で支援してね。本質は、それだけの事と思いました。

しかし、世界中の心理療法を把握している人物が真面目に35年〜40年間研究したプロセスの結果、この結論にたどり着き、公に発表してくれていると言う意味を考えなければいけません。

これは心理だけではないと思いますが、きっと心理療法の世界では長らく(今も)「どの心理療法が優れているか」なんて背比べ的な議論が絶えないのではないでしょうか。

アプローチの切り口がたくさんあるのは良い事だと思います。しかし、もっと大事なのは「本質を捉える力」。特定のアプローチは何を扱うのに長けていて逆に何が弱いのか。そして、クライエントの内面外面では何が起こっていて問題の本質を見抜く。そして、

                本質
              /         \
     支援者    ー    クライエント

特定の手法は、本質をクライエントと問題や世界観を共有する「手段」に過ぎないわけなので。

良いマッチングのためには、まず自分を知り、相手を知り、方法を知っていること。心理療法を1000もマスターして選ぶ必要はありません。要は、自分も相手も「安心してわかりやすく問題を扱える」ことだと僕は思います。

なので、アプローチの数というより、切り口の角度のバリエーションがあると相手に合わせられる幅が広がるし、知識や技術を補完するような組み合わせの支援も可能になりますよね。例えば、


「生物ー心理ー社会」

「認知ーこころー身体」

「生活臨床(日常)ー面接臨床(非日常)」


みたいな。もしかしたら、STSはこの辺をわかりやすく整理されているのかも知れません。ただし、

〜厳密には、STSは「統合的心理療法」ではない。つまり、理念的な概念を組み合わせたり、統一的な理論的アプローチを導き出しすことを試みてはいない。

特定のアプローチに固執しない考え方は、LSWと非常に近いのではないかと思います。どうしても、人は困ると藁をもすがる気持ちになってしまいますが、誰もが幸せになる万能な方法なんてないわけです。そもそも「幸せ」の意味や価値観自体が多様なので。

つまり、目の前の人と考えたり悩んだりして「支援者とクライエントが一緒に変化する」プロセスは、LSWに限らず対人援助全般に言える原則的なものだと思うんです


で、【セラピストに最も大切な資質】についても雑誌の中でビュートラ博士があげているのがコレ、

(1)セラピストの柔軟性
(2)セラピストのスキル
(受け答えの円滑さと治療介入による有効な手助けを提供する力)
(3)よりよい治療関係を築けること
(4)共感や感情移入、温かさ

そして「セラピストがクライエントに対してより知識を持ち、より気にかけることができるようになると、より効果的にクライエントを助けることができると思います」と。


え?


これって、別に「心理療法」「セラピスト」に限らず、もしかして人と接すること全般、例えば「営業」「経営」「教育」「保育」「子育て」などなどに共通することだし、各分野で語られていることのような気がします。

つまり、本質を捉えれば、異分野、異業種から学ぶことは沢山あるという事。

その道を極めようとする人は、他分野の超一流ともすぐに意気投合しますよね。おそらく本質的なところで分かり合えるからだと思うんです、きっと。

そんな感じの理由付けで(本当は興味の赴くままに)、今年もなるべく他分野の話に触れていきたいと思います。


ではでは。