【第58回】奇跡のレッスン「答えは "波" が知っている」
メンバーの皆さま
「奇跡のレッスン」と言うNHK(BS)番組、
結構前からやってる番組で、様々な世界の「最強コーチ」が、 一見奇抜にも思えるレッスンで子どもたちを見事に成長させ、 そのスポーツの楽しさや醍醐味を体験を通じて伝えていくというの が、王道のパターン。
興味ある分野の時に時々観るんですけど、 今回は正月気分抜け切らない成人の日(1/8祝)に「 いよいよ明日から仕事かぁ〜」「面白いTVないなぁ〜」 と夕飯食べながらボンヤリ眺めていたコレ。
「答えは"波"が知っている サーフィン」
まず番組内容を紹介すると、今回のレッスン対象は、 弱小チームじゃなくて、日本トップの中高生たち。みな「 プロになるのは通過点」「目標はワールドツアーチャンピオン」 と意識も技術も高い子どもたち。
日本の重鎮プロサーファーがインタビューで言うんですね、
「ボクらの時代は、上手い人を観て、 ひたすら波にのるしかトレーニング方法がなかった」と。
で、まず面白かったのが、クレイトン氏がサーフィンの技術を「 理論化」するために取った方法。それは一流サーファーの技術を分析すること。特に参考にしたのは
【Kelly Slater(ケリー・スレーター)】だと。
11度ワールドチャンピオンになっているサーフ界のレジェンドで す。ネタが細か過ぎて伝わりにくいと思うんですが、 何が言いたいかと言うと、以前コラム
【第24回】多職種連携に必要な能力
で、『多職種連携コンピテンシー』というものを紹介しましたが、 そもそも「コンピテンシー」は1970年代で米国で生まれた、 仕事のできる人(ハイパフォーマー)の行動特性を分析して、 人事評価や人材育成に活かすマネジメント用語なんですよね。
あ、これって、クレイトン氏がやった「理論化」 のプロセスと同じじゃん、と。日本の◯◯道における「型」も本質は同じですよね。優れた先人たちの良いところを集約して洗練していったものが「型」のイメージです。
さらに「 ひたすら波に乗るしか練習方法がなかった」なんて、 大した研修もなく新人が荒波(現場) に放り込まれる児童福祉とまさに同じじゃないかと。
…ってことをグルグル考えながら「まだ、これ観るの?」という声ニモマケズ、圧ニモマケズ、 番組にのめり込んでいく僕。
さらに、クレイトン氏が言うんです。
「サーフィンは難しい、魔法の様に思われるかもしれないけど、 そうではない」
「ケリーは、 さぞかし凄い道具を使っているのではないかと思って、 板を見せてもらったことがあるんです」
「しかし、予想と反して、ケリーの使っている板は、 どこにでも売っている普通の板でした」
「足で波をきちんと掴めていれば、 サーフィンは出来るということです」
「大事なことは、 それを誰もが知っている感覚に置き換えて伝えること。 そうすれば誰だって簡単にサーフィンが出来る様になります」
そこでクレイトン氏が課した練習は、 まずサーフボードの後ろに付いているヒレみたいな板を取って波に 乗ること。
きっと船で言うと「舵」みたいな役割の板ですから、 当然少年たち「え⁉︎どうやって波の上でボード動かすんですか」 的な反応。
クレイトン氏「 足の裏で波を掴めていれば板と一緒に動けるはずだ。 その感覚を掴む練習だ」と。
で、 ジュニアで日本一になってるプロ予備軍の少年たちが四苦八苦して いるわけです。
さらに翌日には陸地へ。リンクのHPにも写真あります「 スケボー場」で練習。クレイトン氏によるとスケボーは、 サーファー達が海に出れない時の遊びから始まったと。
それで、自転車で曲がる時は、 曲がる方向に身体を斜めに傾けるでしょ( 極端に言うとバイクでコーナーを攻めている格好)、サーフィンも一緒。 身体を傾けて重心を移動させれば勝手にその方向に動いていくんだ 、と。
で、 スケボーに乗りながら自転車のハンドル持った格好で上半身は前を 向いて、身体を斜めに傾けると…。 足の力や身体をネジらなくても勝手にUターンしていきます。
クレイトン氏が言います「普段、 道具を使って波の上で無理矢理に板を動かすことに慣れすぎている 。もっと波を見て、波を感じて、波を掴まえて」
「主役はキミじゃない。主役は "波" だ」
日本トップの少年たちが「こんな事教えてもらった事がない」 と口ぐちに言って、意識がみるみる変わっていきます。
これで冒頭20分くらいですかね。内容濃すぎるでしょ。 頭もお腹もいっぱいになってきたのと、 少年個別の話になってきたし、空気読んで(ニマケテ?)、 この辺でTV番組を変えました。
察しのいい方はピンと来ているかもしれません。児童福祉分野は、 法律や制度、養育ビジョン改正で結構ゴリゴリ素早く施設入所・ 里親委託を進められる整備が進んでいます。
確かに無理矢理に舵を切れることも緊急事態では必要です。 しかし、舵を切れる事に慣れすぎて、目の前の人との対話の"波" に乗ること、また子どもや家族の想いを「主役」 にする感覚やスキルの大切さが忘れ去られ失われていくのではない か、という心配や危機感が僕の中ではあります。
まさにLSWって、 子どもの過酷な人生という荒波を振り返ってきちんと捉えて一緒に ライドオンしていく感じですよね。
さらに施設入所や措置変更にリアルタイムに関わる児相職員の立場や経験を、サーフィンに例えると、 子どもやその周辺のざわざわっとした雰囲気を「 これは大きな波が来そうだ」と事前に察知して、 乗り遅れない様に準備するなんて事を普段からしているな、 と思いました。
コレって、波の分析の話と似てて、 どんな措置変更に関わる波が来そうか見極めるポイントって、 結構「なんとなく」の感覚感性的な経験則のもので、 どこを見ろみたいな「理論化」はされていないなと。
話のシーンを変えると…
僕自身7〜8年前に、 一度だけ先輩に連れられてサーフィンをしたことがあるんです。
で、一応「あの辺が動いたら、数秒後に波が来るから、 パドリング始めて…」とは教えてもらうんですけど、 タイミングがいまいち掴めないんです。
先輩と同じタイミングで動き始めても、 僕のパドリングは全然前に進まないので、結局、 波に追い越されて乗るトライすらできずに終わっちゃう。
そもそも、 サーフポイントに行くまでに結構な波をくぐって行かなくちゃいけ なくて、そこで波にボードごと飲まれて押し戻されちゃって、 海水飲んで…なんてやってるので、 だいぶ体力も持っていかれます。
たぶん2〜3時間、海に入っててトライできたのは、 片手の指程度の回数。一回だけ立ち膝で少し進めましたが、 最終的には先輩も波乗りに夢中になってるうちに僕は沖の方まで流 されていて、足も釣っちゃって、 先輩に助けてもらいながら上半身でなんとかかんとか必死で泳いで 砂浜に戻るみたいな。
今、冷静に考えたら、割と笑えない状況で、先輩も
「管理人くんみたいに、 普段から運動してない人だったらヤバかった」
と言ってました…。
でも、普段から児童福祉の現場では、 こんな感じでとりあえず波乗りさせられて、 知らず知らずに自力で帰ってこれないヤバイ所まで引きずりこまれ てる職員さんはたくさんいるのではないか、と思います。 ホントに。
なので、LSWに限らず児童福祉分野の研修は、「最強コーチ」 クレイトン氏のように、
①上手な人の行動分析をして「理論化」
〉②日常の中の「体験」に落として感覚を掴む
〉〉③本番に即した形で「練習」
という具合に、 伝え方とトレーニング方法を整理して磨いて行く必要があると思う んですよね。
ちなみに静岡県では随分前から「面接スキル研修」 という①の講義だけじゃなくて③の練習をセットにする研修スタイルの歴史があります。そこに加えて最近、浜松の仲間と自主開催している面接スキルの研修会で、さらに②「体験」要素も取り入れた研修にチャレンジし、ある程度の手応えを感じています。
LSWに関しては実践の蓄積が少なすぎて① の段階がまだまだ足りないかな、と思いますが、将来的には①②③ が揃って、
「児童福祉臨床でやることは、そんなに難しいことではないです。 皆さん普段やっているコノ感覚と同じなんで。 じゃあ練習しましょう」
なんて言える理論化+トレーニングが構築ができたら「奇跡のレッスン」 になるんでしょうね。
私の知り合いで、LSWについての① のような研究に取り組んでいる方もいらっしゃるので、 結果がとても楽しみです。
最後に、個人的な話を。
ケリー・スレーターは、 素人目でも凄いとわかる技術の持ち主で凄くカッコいいんですけど 、
僕的には、先輩から事あるたびに「 人生で尊敬してやまない人物はケリー」と聞かされ、 先輩の車に乗せてもらうとケリーの波乗り映像がエンドレスリピー トされている刺激にさらされ、かなり印象に残ってたんですね。
なので今回の番組の中で「ケリー」の名前が出ただけで、「お!」 とサーフィンと先輩との思い出が色々蘇ってきて、知らず知らず「 ケリー」好きになっていたかも、と。
で、改めてケリー・スレーターのことを調べて思ったことは…
先輩の顔と髪型が"ケリー・スレーター"そっくり。
(ケリー本人。ウィキペディアより)
日本人ですよ、先輩は。
耳で聞かされた話より、観させられた映像より、
「そうか。先輩が好きだから、ケリーも気になるのか」
人生どんな気づきがどこであるかわかりませんね。
先輩…、元気にしてるかなぁ。
ではでは。