LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第60回】「ストレス」と「心拍変動:HRV」

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
いや〜、それにしても関東の雪の影響はスゴイですね。コラムをご覧の方の中にも、あの電車遅延や高速道路の封鎖の混乱の煽りをモロに受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 
あのニュースをしてしまうと、都会の便利さと脆さは表裏一体と言いますか、当たり前に回っている日常がちょっとしたことで簡単に非日常に崩れ落ちるんだな、と感じてしまいます。
 
静岡も何十年もクルクルと言われている「東海地震」来たら、ヤバイんでしょうけど。
 
で、今朝あるニュース見ていたら「雪の上の歩き方」をフリップを使って説明してまして…。内容は、
 
・歩幅は小さく
・足の裏全体で着地
・手はポケットから出し、手袋などを装着
・自転車には乗らない
 
などなど「The雪国・新潟県出身の僕からしたら「幼稚園児か!」みたいな内容をホント大真面目に説明してるんです。でも、コレ笑えなくて、関東で雪が積もると必ず転んで骨折する人が多発するじゃないですか。
 
雪国の人は小さい頃からいかに「雪と共存する」感覚を養っているのかよく分かりますし、先人たちが過去の苦労を糧に生活に困らない知恵や生きる術を知らず知らずの内に身につけているんだなぁ、と。
 
逆に、なんの準備もないと積雪20cmで酷い被害を被るし、過去に経験した事のない大人に、当たり前の感覚を認知的視覚的に説明しようとすると、確かに「雪の上の歩き方フリップ」みたいになるよなぁ〜、と。
 
「育ち環境」×「感覚」の違いは本当にあって、年末年始は新潟に帰省してましたけど、僕の中じゃ積雪100cm以下なら「今年はあんまり積もってないね」って感覚なんです。
 
で、12月に浜松で2時間くらい瞬間的に吹雪いた時がありまして同僚に「やっぱり雪見ると懐かしい?」とか、昨日には職場の方に「管理人さん、やっぱり新潟でも雪降ると嬉しいんですか?」と聞かれました。
 
静岡はホントに雪が積もることがないので、別に僕が雪国出身でイジられているわけでなくて、真面目に聞かれるんです。しかし僕は、雪が面倒くさくて静岡に住んでる人間なので、雪を見てテンション上がったり懐かしんだりは無いんですね。降るのが当たり前のものでしたし、寒くて大変、足冷える、車出すのが面倒臭くなる(駐車場と車上の雪を払わないといけないので)って感じです。
 
こんな感覚や想いの違いも、強引かもしれませんがLSW的ですし、今回のストレス話に後に通じますので、長い前段ですが呟かせてもらいました。
 
 
で、さらに本題までが長くて申し訳ないですが、もしかすると、前回のコラムで誤解を与えてしまったかなぁと心配になったので、まず前回の補足を。
 

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それは、前回使ったこの図だと「セロトニンはあればあるほど落ち着くようなイメージも出るかもという誤解の心配です。
 
おそらく日常生活の活動の中でセロトニンが増加する範囲なら大丈夫なんですが、「うつ病セロトニン不足」という判断でセロトニンを増加させる抗うつ剤の摂取しすぎると起こる「セロトニン症候群」というものがあります。
 
具体的には、精神症状(イライラ、不安、意識障害など)や自律神経症状(発熱、発汗、心拍数増加、腹痛など)などが出るようです。
 
これは「普通のうつ病」と「非定型うつ病」の話で、次の図で言うと、
 
【普通のうつ病】は、元気が出ない、やる気が出ない、不眠で朝起きれない、食欲もなく頭の回転が鈍くぼんやり〜ぐで〜とした[下]グレーエリアのイメージなんですけど、
 
【非定型うつ病】は、ちょっと前に若者に見られる「新型うつ病と言われているやつで、憂鬱だけど好きなことは出来る、寝れるんだけど寝足りない、夕方から元気がなくなる、食欲はむしろ過食で、イライラして落ち着かない[上]赤いエリアのイメージに近いです。
 

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セロトニン症候群の症状を見ると、赤エリアの状態と重なりますから、まさに【第57回】心理療法の系統的選択http://lswshizuoka.hatenadiary.jp/entry/2018/01/16/080849)の中で、
 
うつ病には認知療法というように、診断名と心理療法を一致させた治療効果がきわめて低いことがわかっている」
 
と患者の中で起こっている本質を捉えることの重要性の指摘があった「お薬バージョン」の状態なのかな、と。
 
まごのてblog」の読者の方ならお分かりと思いますが、セロトニンも例外なく極端に振り切るのでなく、何でも「ほどほど」で「バランス」が取れている状態がやはり良いということですよね、きっと。
 
で、社会的養護の子って、どちらかと言うと「赤エリア」つまり「非定型うつ」の状態の子が比較的多い印象を受けます。もちろん施設や里親宅で安心した途端に「グレーエリア」の不登校とかになる子もいますけど。
 
虐待環境に居ると、いつもスイッチオンの敏感な戦闘モードにいないと身を守れないので、心拍数も常に上げる状態、『漫画ドラゴンボール』で例えるなら常に「ハッ〜ぁ!」ってエネルギー放出して気を上げている状態なので、1日の途中でエネルギーが切れちゃうんですね。
 
なので、120%オン状態からエネルギー切れた瞬間に一気に0%オフになって、やる気や集中力が維持できない、寝ても寝ても食べても食べてもエネルギー足りないなんて、燃費が悪い不器用な身体になっちゃってるんです、きっと。
 
だけど、ドラゴンボール界王拳とか超サイヤ人も経験を積むと、攻撃や守備のインパクト時に瞬間的に気を上げたり、抜くとこは抜くと言った「省エネ」調整を学んでいきますよね。
 
この「気」の上げ下げの調整を一般的な地球人に置き換えると、「交感神経」「副交感神経」という話しになるのかな、と。

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[赤]=交感神経(アクセル、活動アゲアゲ系)
[青]=副交感神経(ブレーキ、落ち着かせる系)
 
とすると、日中は交感神経が活発でヤル気や集中力を持って活動して、寝る頃には副交感神経が働いてリラッ〜クスして休み、また日が昇って目が覚めて活動してというのが一般的な規則正しい普通の生活ですよね。
 
ですが、交感神経と副交感神経のリズムやバランスが崩れると、例えば、お昼にテンション上がり過ぎてて、夜も何だか落ち着かないが、電池が切れたように急に眠るみたいな子っていませんか?
 
この例は交感神経が優位過ぎる場合と思いますが、バランスの崩れのイメージはこんな感じ。

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酷くなると、昼は交感神経働きすぎで、副交感神経が働くはずの夜にもテンション落ちないだけじゃなく、寝ぐずり」の赤ちゃんみたいに疲れてても眠れなくて、仕舞いにはイライラしてトラブルになるので、睡眠の質を確保するために眠剤を処方せざるをえない社会的養護の子は決して珍しくありません。
 
しかし、これら自律神経の問題は一般成人の「疲れ」「冷え」にも関係しているようで、決して被虐待児だけけの人ごとの話ではありません。
 
ちなみに、順天堂大学小林弘幸先生が自律神経のバランスを4分類でわかりやすく解説してくれています。
【参考】「疲れ」「冷え」は自律神経の乱れから⁉︎その対策には、太い血管を意識した温活を!
 
現代人は、アクセル(交感神経)もブレーキ(副交感神経)も効いていない疲れ度・冷え度ともに高い「ぐったりタイプ」が断トツに多いみたいです。
 
 
で、話は変わりますが、前回コラムからセロトニンとか色々言われても、「じゃあ、そのアンバランスな状態をどう測るの?」と思われる方もいると思います。
 
なので、実はここまでが長〜い前置きで申し訳ないのですが、その測定方法の1つを紹介、というのが今回の本題。
 
それが題名の後半にある、
 
【心拍変動:Heart Rate Variability、HRV】
 
です。心拍変動とは脈と脈の間隔が速くなったり遅くなったりすること。
 
脈拍って一定のリズムを刻んでいるように思いますが、その間隔はストレスによって変化するんだそうです。で、その間隔がバラバラで一貫性がないと言う事は、つまり交感神経と副交感神経のバランスが乱れている状態だと。
 
逆に言えば、HRV(心拍変動)が一定に保たれているということは、ストレス刺激がないか、ストレス下でも交感神経と副交感神経のバランスがちゃんとコントロールされていると言うことだそう。
 
で、そのHRVを1分くらい指先に当てるだけで、測定できちゃうのが、上のリンクで紹介されている(画面右上の三本線を押すとメニューが開けます)
 
エムウェーブ emWave】
 
という商品。別に私は業者の回し者ではないので、詳しくはHPを見てもらいたいのですが、簡単に言うと指先や耳たぶに測定器を挟んで、PCや携帯の画面でリアルタイムでHRVが分かる仕組み。
 
そうすると「呼吸法」とか「リラクゼーション」が身体に与えている影響をリアルタイムで確認できるので、きちんと正しいリラックス法を実行できているかどうか、リラックス前後の身体感覚をセットで覚えることができます。
 
この身体の生理学的変化を見て取る方法は「バイオフィードバック」と呼ばれるもので、現場の臨床家が感覚で察知していることを科学的に数値化・視覚化するものです。バイオフィードバックがいい所は、客観的な自己点検がセルフで出来るという点。
 
どういう事かと言うと、過度のストレスに侵され過ぎると、感覚が麻痺してくるので、自分がおかしくなってることに自分で気付けなくなるんですよね。
 
 
例えば、個人で言えば、僕の場合ストレス過多になると、頭が鼻水詰まった時みたいにボヤ〜ンとなったり、舌の感度が落ちて何食べても味気なく感じたり、肩甲骨あたりが誰かに掴まれたように痛くなります。
 
一応、僕は心理士なので、これはストレス反応で重いケースから被曝している反応であることも頭では理解しています。でも、頭で分かっててもモヤモヤする身体反応からなかなか抜け出せない時があるんです。
 
大概は風呂や食事で忘れられるんですが、どうしても眠る前までモヤモヤが取れず思考に入り込んでくる時はTFT(つぼをトントンするトラウマ処理)などで簡単なセルフ処理します。よっぽどのことなので、年に数回ですけど。
 
 
また集団の視点で言うと、数年前に職場のメンタルヘルスが壊滅的な時期がありまして。でも、みんな感覚が麻痺してるのか、分かってても何したらいいのかわからないのか、組織的にしばらく手立てが打たれないことが続いたことがありました。児童福祉の中でも重いケースから被曝を受けやすい児相、施設、病院などの組織には、よく起こる事態かと思います。
 
どうにも言葉だけでは理解してもらえない(もしくは余裕なさすぎて頭に入らないor否認)ので、仕方なく文章化して職場全員に周知できる形にまで根回しを重ねて持っていったことが過去にあります。健康度がある程度あれば自分の身に何が起こっているかを知る[心理教育]的アプローチだけで、問題を言語化して内面から取り出して客観視できるので随分とストレスを軽減できるんですよね。
 
幸いにも職場全体には、リアクション出来る人が何人もいて、その後に手立てが打たれるようになったので良かったのですが、もしそれでも響かない程に組織全体が麻痺してたら、いよいよバイオフィードバックを個人導入して「数値化」してプレゼンまでしないとダメだな、と本気で考えていました。
 
感覚や経験のない人には、数値化したり何か整理された理論に乗っけないと伝わらないし、そもそも話を聞いてもらえないんですよ。
 
だけど、エムウェーブ emWave】はちょっと高くてですね。iPhone用で約3万円、PC用だと何人かで使えて5万円くらい。個人で手が出せなくもないけど…という絶妙な価格設定なんです。
 
そうこうしているうちに、なんと無料アプリが配信されるようになりまして。すごい時代ですよね。ご存知の方も多いと思いますが、それがこの2つ。
 
【ストレススキャン】
【COCOLOLO(ココロ炉)】
 
 
とりあえず、この2つを数ヶ月試してみたんです。通勤の行き帰りに毎日計測。すなわち[行き]→[仕事]→[帰り]で計測で仕事をサンドイッチして、仕事によるストレス反応をチェック。
 
結果は、確かにキツイ時期にストレス度は高く、あまりに高い時はセルフ処理すると、数値が落ちます。感覚的なものと数値はそんなに違和感ない。
 
ただ一つ問題がありまして。それは【ストレススキャン】と【COCOLOLO】の結果が割と違う(笑)
 
さすがに「ストレス100%⇄絶好調」程の差はないですが、同じ時刻で「ストレスフル/普通」くらいの差は出ることもある。どちらも携帯電話のライトの所に指先当てて測定するんで、誤差は出ると思います。まぁ無料ですしワガママ言ってはいけません。さっきの[心理教育]じゃないですけど、どっちかの測定結果を確認しただけでストレス軽減したのかもしれませんし。
 
あとアプリだと測定に2分くらいかかるので、リアルタイムにリラクゼーションの効果を確認するまでは出来ない。やれてビフォー&アフターの計測。
 
まぁ、そういうことで理屈的には、LSWの前後やリアルタイムまた生活場面でHRV測定して、「なんかストレス高くなった。生活に戻る前に処理しておくか」「普通って言ってるけど数値高いぞ。何があったんじゃない」なんて会話も出来なくもないですが、絵面を想像すると、実験とかウソ発見器みたいでなんか嫌ですよね(苦笑)
 
でも、「雪の上の歩き方」と一緒で、児童福祉臨床にどっぷり浸かってる人は、そこまでしなくてもその場のやりとりで相手を見てればなんとなく感覚的にわかるでしょ、思うかもしれません。
 
しかし、これまでそういう環境や経験がない人からしたら、「雪の感覚の掴み方」なんてわからないわけで。場合によっては「大丈夫でしょ」といつもと同じ様に歩いて転んで大怪我するわけなので、経験や感覚の積み重ねのない人にとっては、数値や視覚化は非常にわかりやすいわけです。
 
だけど、現場のケアワーカーや心理士たちは、今回ツラツラ数値化できると書いた内容を、子どもの何気ない表情や雰囲気を捉えて「なんか変じゃない」と巧みに察知する感覚を持って、日々の支援・臨床を行なっているハズなんです。
 
これは、かなりの「専門的技能」なハズですが、理論化や言語化、数値化がしにくい分野なので、暗黙知というか、その重要性や専門性が注目されたり、トレーニングして磨くという話しにまで至らないな、と。
 
また、ストレスも雪も、どれだけ積もったら不便に感じるか、それは準備と慣れによる所も似てるなぁ、と思います。僕みたいに雪が嫌で新潟から出る人もいれば、その雪がいいんだという人もいるし、出たくても色んな事情で出られない人もいる。これは仕事でも同じだな、と。
 
そんな風に地元や職場のこと考えると、やっぱり大事なことは自分の状態や感覚を「自覚」して受け入れて、最終的には人から強制されるストーリーでなく、そこでやっていく「覚悟」や「意味づけ」が自分の中で出来るかかどうかなのかな、という所にやはり着地しますね。
 
今回の内容をあえて東洋文化的に言うなら「気」や「場の流れ」「雰囲気」を感じる察するという類の話だと思うのですが、そのようなことを西洋文化の「バイオ(生物)」「数値化」的な視点に振り切った切り口で説明してみました。
 
 
長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。今回はこれで終わりです。
 
ではでは。