【第63回】「アンカリング」で考えるLSW
メンバーの皆さま
こんにちは。管理人です。
前回コラムで扱った【視線】と【脳のつながり】について、 一晩寝たら、
「もっと、シンプルに考えたらいいんじゃない」
と思いました。
つまり、 今までコラムで扱ったり僕が知っている内容とリンクさせて考えれ ば、そんなに目新しいことでもなかったかも、と。 そんな整理プロセスを今回コラムで少しまとめてみます。内容は、
①時間志向性
②NLPの「アンカリング」
③トラウマのフラッシュバック
④感覚統合
あくまで管理人イメージなので、「全然シンプルじゃない」「 むしろややこしい」ということもあり得ますので、ご了承を。
■時間志向性
時間志向性は【第19回】ジンバルド時間志向テストhttp:/ /lswshizuoka.hatenadiary.jp/ entry/2017/07/27/080618で取り上げた[ 過去ー現在ー未来]のどこに思考が向かいやすいか、 その割合やバランスの話しでした。
僕の中では、こんなイメージ。
どこに意識や興味が向いているか。そして、[過去ー現在ー未来] の間に重なりやつながりがある状態が、僕の中での「 時間的展望がある」「時間の連続性がある」イメージ。
しかし、LSWを想定するような児童は、 生い立ちや過去にあいまいな喪失があって、 昔のことが気になってモヤモヤしている状態。うまく言葉にする記憶、手がかり、言語化する力も乏しい。
時間を志向するエネルギーの総量が決まっていると仮定して、 バランス的に過去志向に注意が持っていかれているイメージ。 なので、現在に集中したり、 未来まで考えるエネルギーが残っていない感じ。なので、 昔のことでスッキリさせることが安全で問題ないことはスッキリさ せて、 現在や未来に向けるエネルギー割合を増やすのが、 喪失体験の悲嘆(グリーフ) を癒すことを狙ったLSWイメージです。
まず、この考えが僕の中ではあります。
■アンカリング
例えば、昔に流行ってた懐メロを聴いて、 当時のことを思い出すみたいな。これが聴覚アンカー。
アンカリングとは、船がどこかにフラフラ〜 と行かないように重石となる「アンカー」を置くように、 気分や調子が良い時のアンカーを見つけて、 安定的な状態を保ったり調子を整えるのに利用するもの。 良いアンカーにリンク(つながる)って感じでしょうか。
例えば、 スポーツ選手が本番直前に平常心を保つためにお気に入りの音楽を 聴くとか。
(♬愛はど〜こからやってくるのでしょう…ですね。 いや懐かしすぎる。もう18年も前なのか)
僕のイメージを図にすると、こんな感じです。
アンカー(緑のかたまり)にアクセスすることで、 調子のいい時の身体感覚やイメージとリンクさせて、 その時の状態を思い出して、今の状態を近づけるようにする。
他には[視覚アンカー]で言うなら、 首にかけたペンダントを見たり、 タトゥーや道具に刺繍された名前を見て家族を思い浮かべて、 自分の身体や気持ちの状態を落ち着かせるみたいな。
また[体感覚アンカー]なら、五郎丸選手やイチロー選手のルーテ ィンとかですかね。いつも決まった身体動作を繰り返すことで、 プレッシャーが掛かった状況下でも、 常に同じパフォーマンスを発揮できるように身体面からアプローチ して心身の状態を整える。
シンプルに考えたら、LSWで写真を見たり、 施設訪問するってコレに近いな、と。視覚・聴覚・ 体感覚を利用して身体記憶にアクセスして、 ポジティブ情報が少ない人に対して、 今後プラスのアンカーになりえる資源(リソース) を膨らませたりまず探す感じでしょうか。
また、この考え方に前回の[視線]を組み合わせて、 ネガティヴな情報からの切り替え、 切り離しを行うことがあります。
例えば、プロのゴルファーがミスショットをしてしまった場合。 次はミスできない状況で、 何度も素振りをして練習通りのフォームを再現しようとするわけな んですが、どうしても、 さっきのミスショットのイメージが頭に残って、 そちらに意識や身体が引きずられてしまう。
なので、プロゴルファーは、ネガティヴイメージから離れるために 、視線を下に落として深呼吸して、身体感覚にフォーカスして、 身体が覚えているハズのフォームを再現できるように意識志向のバ ランスを整えるそうです。
また座禅は、まず視線を少し先の斜め下におきますけど、 普段の雑念やイメージから、身体感覚に意識の志向を向けるための 視線誘導にも思えます。
ルーティンでも、五郎丸の[両手を合わせるポーズ] やイチローの[ バットを持った右手をピッチャーの方に伸ばしているポーズ] が印象に残りますが、ルーティンはボールをセットする時、 バッターボックスの中から始まる一連の動作であって、よく見ると 動作と一緒に視線も動かす順番や位置も決まっています。
つまり、前回こんな表を作りましたが、
【過去】 【現在】 【未来】
視覚 |
↖︎ ↗︎ |
視覚 |
聴覚 |
← 👀 → |
聴覚 |
身体感覚 |
↙︎ ↘︎ |
身体感覚 |
ポジティブな状態を膨らませたい時には、 それを想起しやすい刺激(アンカー) にアクセスしやすい状態に脳を動かすために視線を動かし、
逆に忘れたい情報にアクセスしてしまっているときは意図的にその 方向から視線を外すと、切り替え易くなる、 ということが言えるのでは、と。
もっと単純にすると、
・イメージを浮かべたい時は[上]
・耳をすませたい時は[横]
・身体の感覚を感じたい時は[下]
を向くと、脳の状態もそっちに向けられるみたいな。
位置を覚えられない人は、 左下の図を大きな顔と身体と思ってください。
目 目 →[視覚]
耳 (鼻) 耳 →[聴覚]
(口) ・嗅覚
身体 →[体感覚]・味覚
・触覚
ちょっとブサイクですが、方向のイメージはこんな感じ。 自分の眼球、耳、身体の方向(上、横、下) に意識だけでなく目も向ければいいだけ。 身体とこころの方向を一致させるように。
視線の話を除けば決して特別なことではなくて、例えば、 会社の上司に、めっちゃムカつくこと言われて、 顔を思い出すだけでも腹が立つなんて時があったとします。 とりあえず美味しいもの食べて忘れよう、 なんてこと日常生活であると思います。
これだって、ある意味、怒られたイメージ(視覚情報)とか、 その時の言葉(聴覚情報)が残っているチャンネルから、 注意を体感覚チャンネルにズラして切り替えをしている、 と言えると思うんです。水を飲んで、 気分を切り替えて落ち着くやつです。
しかし、いつも手元に食べられる物があったり、 仕事を終えて別の事ができるわけではないですから、例えば、 落ち着くための深呼吸する時に、視線も意識して下げることで、 より効果を高めるということに応用できるのでは、と。
■トラウマのフラッシュバック
この怒られる状況は、最近、 全国的に警察通告で急増しているDV目撃などの「心理的虐待」 の状態に当たります。直接、殴られてなくても、 大人同士が殴ったり怒鳴り合ったりすることを見たり聞いたりする [視覚情報][聴覚情報]が怖い感情とリンクして残ってしまう。 なので、その場から離れて映像と音を遮断して、[体感覚] に注意をそらす深呼吸して安全、大丈夫、落ち着きましょう、 という切り替えです。
しかし、「身体的虐待」「性的虐待」の場合は、直接、 触られたり殴られたりするわけなので、[体感覚] と怖い感情がリンクして残ってしまう。なので、 トラウマ治療では、トラウマを扱って処理をする前に「 安全な場所のイメージを作る」ワークで、 もし過去を思い出して怖い感情感覚が湧き起こっても、その人がほ っとできる安全な場所を想像して練習をしますよね。 想像しやすいように、イメージカードを作ったりなんかもして。 これも恐怖の[体感覚]が出てきた時に、[視覚情報・イメージ] にチャンネルを切り替えている、とも捉えることもできます。
でも、そもそも「安全な場所」が全然思い浮かばない、 想像できない人もいるんですね。
例えば、[図上]の丸が[過去→現在→未来] を志向した時の全体イメージだとして、現在や過去において、 ポジティブ体験(喜・楽)とネガティヴ体験(怒・哀) の天気予報で言う「晴れときどき雨」くらいの割合であれば、 将来も「悪い事もあるけど良いこともあるさ」と思えます。
しかし、[図下]今も昔も「雨ときどき曇り」 みたいな主観的な楽しい体験、 うれいし体験が相対的に少ない状況ならば、当然[未来イメージ] も似たような状況を予想しますし、 過去が気になって仕方ない状況で、 そんな悲観的な未来のことを考えることにエネルギーは向かないで すよね。
安全な場所すら思い浮かばない場合の多くは、現在の資源( リソース)が乏しい状態。つまり、今の生活の中で「安全感」 を十分に感じることが出来ていないと想定されるので、[過去] を扱う前に、まず[現在]の安全安心を高めて、せめて現在は、
ポジティブ体験>ネガティブ体験
の割合になるような支援を考えましょう、 ということになるわけです。
僕の中でのLSWは[現在]→[過去]→[未来] の順で主観的体験のポジティブ割合を増やすプロセスのイメージで すが、 それはトラウマ治療の前のリソースを増やす作業にも通じるな、 と。
僕のイメージだと、アンカーが過去の[良い身体状態・感情・ 感覚]を引き起こす刺激だとすれば、 トラウマのフラッシュバックは、ある刺激によって過去の[ 怖い身体状態・感情・感覚]が引き出されている状況。
アンカー⚓️が「安定した」 イメージから名付けられているのだとしたら、 逆にトラウマを想起させる刺激は「不安定」を引き起こすもの。" 地雷"的な感じですかね、 踏んだり触れたりしたらマズイみたいな。
しかし、恐怖場面の[映像の想起] をすること全てをフラッシュバックと言うわけではなくて、 たとえ怖い出来事を思い出しても「これは昔のこと」「 現実ではない」 とイメージの中で一定の距離が置ければ大丈夫なわけです。 夢の中で「これは夢だ」と気づくみたいな。
しかし、被害体験とリンクする視覚・聴覚・ 体感覚のどこかの刺激スイッチによって恐怖感情が想起され、 心拍数が上がりアドレナリンが分泌されるなど、現在の体感覚に直 接入り込んできて影響すると、あたかも[現在] 起こっているかのような感覚に陥って、 過去か現在かの区別つかなくなる。 頭で思い出そうとしてないのに身体が勝手にアクセスして反応しち ゃうから。
トラウマ治療の前に、まずリソース(資源、 つまりポジティブ体験)を増やす作業が必要な理由は、 揺れた時の安定感、起き上がりコブシの重しの部分を作ること。 その上で安全安心を思い出して[安全な場所]や[アンカー] を準備しておいて、 たとえフラッシュバックでドキドキして多少揺れたとしても、「 それは昔の出来事」「今は大丈夫」 と距離を取ってコントロール出来る感覚を回復させていく。
で、ようやく前回の内容につながるわけですが、 このフラッシュバック感覚と距離を取るときに、 アンカーを思い出したり、 視線で感覚への注意をそらす感じが応用できるだろう、と。
【過去】 【現在】 【未来】
視覚 |
↖︎ ↗︎ |
視覚 |
聴覚 |
← 👀 → |
聴覚 |
身体感覚 |
↙︎ ↘︎ |
身体感覚 |
前回の表、まさにこの感じだよな、と。
僕はEMDRもブレインスポッティングの研修も受けてないので、 知識レベルの想像ですけど、 脳が何処かでフリーズして滞っている処理を、 身体でいうストレッチやリンパマッサージ、鍼灸のように、 脳の回路がスムーズに流れるように視線を動かしたり固定したりし て、ほぐすイメージなんだろうと僕は思っています。
【第18回】「cure」と「care」の違い
で触れた「heal」のイメージです。
■発達障害と感覚統合
なので、健康的な状態イメージを図にすると、 僕の中ではこんなイメージ。
LSWで意図しているのは、イメージの[横]つながり・ 循環が滞りない状態にする感じ。 頭の中で過去や未来をイメージしたり自由に想起想像したり現実に 戻ったりアクセスのいい感じ。
(時間志向性のバランス、時間的展望)
[縦]のつながりは、視覚・聴覚・ 体感覚が適度なバランスで働いてリンクして物事を統合的に感じら れている感じ。マインドフルネスのイメージに近いのかなぁ…普段、意識しない感覚にもフォーカスにて感覚を呼び起こすみたいな。
一般人だと、縦の[視覚・聴覚・体感覚]の割合は、得意不得の違いはあってもだいたい[5:3:2] くらいで情報を同時処理しているところ、
発達凸凹系はどこかが突出して[7:2:1]とか、 ゼロってことはないんでしょうけど、 割合的にどこか突出し過ぎて、 強いこだわりや突っかかりが出来ちゃって、流れが悪いイメージ。
LSWで扱おうとしている[過去ー現在ー未来]の連続性って、 目に見えない内的なイメージの世界ですから、 やっぱりイメージのチャンネルが弱い人は厳しい。
ASD(自閉スペクトラム症)が強くて、 あまりに感覚の感度に差があり過ぎると、 五感がつながって統合している感じ、 エネルギーや気が身体全体に循環している感じに乏しいので、 良くも悪くも浮世離れしてるというか、 一般人とは違うなんとも言えない独特のフワっとした雰囲気を持っ ている人はいるな、と言うのが僕の感覚。
で、酷いトラウマだと[解離]と言って感情・ 感覚がどこか麻痺しちゃって、本当にどこかがゼロで、 ブツッと流れが止まってるイメージ。 五感の流れがないので現実感や地に足がついて[ エネルギーや気が循環している]感覚が持てない。
なので、トラウマ治療は安全感を高めて、 服薬やワークを使いながらトラウマ症状を和らげて、 トラウマ処理をして感覚統合を目指しましょう、 ということになる。
そこで、 EMDRとかブレインスポッティングとかで視線を利用するという ことだと思うんですけど、 発達障害の感覚統合や脳の使い方のアンバランスを整えて流れ良く しましょうみたいな感じが「ビジョントレーニング」なのかな、 と。あくまで想像ですけど。
例えば、最近「アイトラッキング」 という視線を可視化して色んな分野に応用する研究が進んでいます けど、自閉スペクトラムの人は、相手の顔や目ではなくて、 口元や身体などに視線を向けやすいことが、 まだ有意差までは出ないみたいですけど言われています。
これを見ても、ASD(自閉スペクトラム症) の人はやっぱり視線が動きにくかったり、 うつむき気味で視線が下に向きがちだなぁと思うのですが、「 視線の動き」と「脳の機能」が下向きという事と、 想像力が乏しいとか、身体感覚に過敏さがあるとか、 表情や雰囲気を読めずに文字通りに受け取るとかは、視覚・聴覚・ 体感覚を司る脳の使い方のバランスや繋がりの悪さ・不器用さと、 僕的には重なるんですよね。
この図で言うと、 下向きのチャンネルばかりにアクセスしてるイメージです。
【過去】 【現在】 【未来】
視覚 |
↖︎ ↗︎ |
視覚 |
聴覚 |
← 👀 → |
聴覚 |
身体感覚 |
↙︎ ↘︎ |
身体感覚 |
■まとめ
[横]のつながり(時間志向性・時間的展望)と
[縦]のつながり(視覚・聴覚・体感覚の統合)
あ、そうか、このことか、と。
以前【第56回】ジャパネット流「企業再生術」
http://lswshizuoka. hatenadiary.jp/entry/2018/01/ 10/231141で取り上げた「フューチャーマッピング」も「 未来語りのダイアローグ」も、また福祉の世界では有名になった「 SoSA(サインズオブセーフティ)」も「3つの家」も、 共通してみ〜んな右上が未来の理想の姿、左が過去の位置づけにな っている。 確か描画テストの解釈も右側が未来ではなかったでしたっけ?( 心理司のくせに、そこが一番自信がない…)
これらが初めから視線や脳のつながりまで意図して作られているか は定かでは無いですが、 おそらくケースを積み重ねると概ねの人が話しやすい位置というの が自然と位置に共通して収束していった、 自然の摂理の結果なのではないか、と。
「話しやすい所に自由に位置(左右)変えてもいいよ」
と相手の反応と主体性によって、 こちらが相手の話しやすい形に合わせられる柔軟性を持っていれば 済む話かな、と。
対人支援の本質は、たとえ話しの題材が「生い立ち」「 トラウマ症状」「困り事」と変わったとしても、 それを一緒に眺めて一緒に考える、いま目の前にいる相手との「 やりとり」の過程だと僕は思っています。
まず相手のペースに合わせ、 その後に共同作業するという原則を考えれば、 脳の部位とか難しいこと考えて「視線誘導せねば!」 なんてとらわれを捨てて、相手とスムーズなやりとりが出来る流れ に身を任せれば自ずと視線の位置もそうなっているだろう、と。
ただ健康度が落ちていたり、元々のバランスや循環が良くない人相手だと、 多少の枠付けがあった方がスムーズに健康的なやりとりが出来るの で、今回つらつらと綴った配慮が必要なのですが、例えば、 健康度が高い大学生のキャリアカウンセリングとかなら、きっと視 線やマッピングは概ね、
【過去】 【現在】 【未来】
視覚 |
↖︎ ↗︎ |
視覚 |
聴覚 |
← 👀 → |
聴覚 |
身体感覚 |
↙︎ ↘︎ |
身体感覚 |
こうなっているんだろうな、と。
はじめにも断りましたが、これは根拠まで突き詰めていない、あく まで僕の臨床感覚と知識を重ねたイメージなので、そのつもりで。
【第48回】の神田橋先生のセリフみたいに、もう数年したら「 あの話はやっぱりウソでした」なんてこともありえますから、 いち現場職員のつぶやき(にしては長いですが)と思って下さい。
ではでは。