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静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第71回】もぐもぐタイムに見る「チームの土台」

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
あっ、という間に終わってしまいましたね、平昌オリンピック。
 
数々のメダリストが誕生した今回の五輪で、おそらく一番引っ張りだこになりそうなのは、女子カーリング🥌で銅メダルを獲得した「カー娘」こと「LS(ロコ・ソラーレ北見」の皆さんではないでしょうか。
 
話題になった「そだねー」「もぐもぐタイム」は早くも流行語大賞にノミネートされそうな勢いですよね。
 
ということで、今回は今一番ホットな話題な「コロ・ソラーレ北見」に関するこの記事から。
 
世界が驚くカーリング女子。チームを作った本橋麻里「8年前の想い」
 
 
この語りには、チームワーク・連携とは何ぞやという要素が非常に詰め込まれています。
 
これからLSWを実施しようとする場合、これから組織にLSWへの理解を広めていこうとする場合のプロセスとして、非常に参考になると思います。
 
是非、原文もご参照ください。
 
 
内容をかい摘んで紹介すると、ご存知の方も多いと思いますが、今回の女子カーリング代表チーム「ロコ・ソラーレ北見」のバックアッパーとしてチームを影で支えていたのは、アノ本橋麻里選手。
 
2006年トリノ五輪2010年バンクーバー五輪の日本代表で当時は「チーム青森所属の「マリリン」の愛称でカーリングBOOMの火付け役となったアノ方です。
 
現在の所属である「ロコ・ソラーレ北見」の監督も「本橋の実力は、いま出ている選手と全く遜色ない」と言われる力を維持しながら、何故バックアッパーとしてチームを後方支援する道を選んだのか。
 
そもそも当時の国内最強「チーム青森」を離れ、何故2010年、北海道の地で「コロ・ソラーレ北見」を結成するに至ったのか、8年前の本橋麻里選手の想いが語られているインタビューです。
 
 
僕が注目したのは、
世界王者スウェーデンとの差はメンタル
チームの土台の重要性。自分の内面にチーム作りのノウハウがないんだ』と気づいた。
 
という2点です。
 
 
①メンタル面
当時、本橋選手はメダル獲得を期待され、ある意味で勝利を義務付けられた「チーム青森」での活動を「余裕がなかった」と語っています。
 
かたや平昌オリンピックでも金メダルを取った「スウェーデン🇸🇪」は、2006年トリノ五輪で金メダルを取った後にほとんど試合に出てこない。しかし2010年バンクーバー五輪に出てきたかと思えば、しっかりピークに仕上げて結果を残してくる。
 
「何なんだ、この人たちの調整力は⁉︎」
 
と本橋選手は衝撃を受けた、と。また、
 
「また、選手村に入ってからの過ごし方にも日本との差を感じました。ものすごくリラックスしていて五輪を楽しんでいるんですよ。そうしたことも含めて、アイスの上(の技術)だけでない、メンタルの部分での見直しが必要だと痛感しました」
 
と。この辺りの話は、今回のオリンピックでの「LS北見の姿と重なる所が多いですよね。五輪だからと言って無理に飾らず、ありのままのいつも自分たちを表現する、五輪という[非日常]の時間空間を楽しもうとする姿は非常に印象的でした。
 
その一部が、地元の方言であったり銘菓であったりしたんだな、と。緊張するなという方が無理がある4年に一度の[非日常]の中に、いかに平常でいる[日常]の想起できる仕掛けを組み込むか。
 
特に、注文殺到している、もぐもぐタイムで食べていた「赤いサイロ」は、ただの糖分補給ではなくて、選手たちが後半のプレッシャーがかかってくる場面で、ホッとできる慣れ親しんだ味で、硬くなりそうな思考や感覚を切り替えることにも繋がっているのではないでしょうか。
 
(参考【第63回】「アンカリング」で考えるLSW
 
あれを「なんだ五輪なのに、あの砕けた、ふざけた態度は。けしからん」と思う声も実際あったそうです。この辺りは、日本の必死で歯を食いしばって頑張ることこそ「美徳」とか「最大の成果」が出るとか、という固定観念が一般的な強さが垣間見れます。
 
「ピーキング」や「緊張とリラックス」の使い分けの考え方が普及してないんですね。是非、下のブログがわかりやすくまとめられていますので、参考にして欲しいのですが、
 
「緊張orリラックス」パフォーマンス発揮に役立つ心理学
 
例えば、野球選手が絶好調の時に「ボールが止まって見える」なんて言う、最大限にパフォーマンスが発揮させる極限に集中力が高まっている状態を「ゾーン」「フロー」とか言いますよね。
 
その状態は「緊張とリラックス」が良いバランスで両立している状態です。矛盾しているようですけど、緊張感を保ちながらリラックスしているんです。緊張なくダラダラするのとは違うし、でも緊張してガチガチになっているのとも違う。
 
そして、競技によって適した「緊張とリラックス」のバランスは微妙に違うと言われる。例えば、陸上・水泳などは程よい「緊張感とリラックス」のバランスが適していますが、格闘技で求められるのは「戦闘モード」ですからより高い緊張感が必要ですし、逆にアーチェリーのような正確さが求められる競技ではより高いリラックス状態が適しているそうです。
 
 
以前に紹介した【第59回】「セロトニンドーパミンノルアドレナリン」の話しに似てますね。

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おそらくカーリングも身体的な負荷と言うより繊細さが求められるアーチェリーに近い競技ですから、正確なパフォーマンスを発揮するために「リラックス」寄りの状態が求められるんだと思います。
 
「緊張感とリラックス」の程よいバランスを仕事に置き換えるなら、雑念なく目の前のやるべき事に集中している、そんな状態なのかな、と。
 
ガムシャラにだけ頑張れば、右肩上がりに上手くなったり結果が出るのは初心者〜しばらくの時期だけです。その後は、自分が身につけた力や技術をどう上手くパフォーマンスに反映させ安定させるか(波がなくアベレージを高める)も大事な「スキル」であり、そこには「メンタル」の問題も大いに関係してきますよね。
 
参考)
【第32回】現役目線「プロとしての成長とは」
 
 
緊張感の溢れる[非日常]空間の中で、いかに[日常]のリラックス状態を同居させるか。これは、単に「経験」だけで済まされる話ではなくて「訓練」する必要があると思うんです。
 
俗に言う「メリハリ」をつける訓練です。集中する時は練習でも実戦と同レベルの緊張感を保ち、終わったら一気にリラックス状態になる。この振れ幅か大きい程、感覚的にスイッチを抜く入れるの経験値が増えていきます。
 
最近の10代若手アスリートのメンタルを見ていると、だいぶスポーツ指導者の意識や考え方は変わってきたのかなと感じますが、「抜く=サボる」の固定概念に囚われてダラダラ長時間頑張らせ続けることのみが成長する道と思い込んでいる人は、一般には結構な割合でいると思います。
 
厳しい言い方をすると、ただやみくもにダラダラ頑張ることは、自分の成長のために選択した行動ではなくて、「頑張っている姿を見せないと周囲が怒る、納得しない」から周囲を喜ばせるために踊るピエロ、思考停止して感じたり考えるをサボって見た目だけ頑張ってるアピールしてる状態だと、僕は思います。
 
今回大活躍だった女子スケート陣の報道でも、スケート大国オランダでのトレーニングは、心拍数を上げ過ぎないトレーニング(おそらく正しいフォームを維持する訓練)を続ける紹介がありましたが、まさに実践を考えた理にかなったトレーニングだと、観て思いました。
 
要は「主体性とビジョン」の明確さ。自らの意志で考えて目標としてる姿に向いて能動的に動いているのか、ただやらされているのか。これが何の意味があるのか、自分で考えて納得して感じながら試行錯誤しなければ、残念ながら実戦の刻々と変化する状況を、自分で察知して修正する力は養えないと僕は思います。
 
失敗しないこと、崩れないことに固執するのではなくて、修正したり立て直せる柔軟性を身につける。そして、これは「レジリエンス」や「アタッチメント」と対人援助や臨床の世界では表現されるものだと僕は思います。
 
完璧な姿を崩さないことを目指すのではなくて、何かあっても起き上がりコブシのように良い状態に戻れる力、回復する力をつける。それにはブレない軸や重石が重要であると思います。
 
 
②チームの土台・チーム作り
本橋選手は「チーム青森」での2006年トリノ五輪2010年バンクーバー五輪の惨敗を振り返って、
 
「五輪で生じたギャップや違和感を修正することが出来なかった」
 
「もっとお互いの弱さを知るべきで、お互いの強みを讃えるべきだった」
 
そういことを考えれば考える程『あぁ自分の内面にチーム作りのノウハウがないんだ』と気づかされた。
 
という事で、殻を破って自分が成長するために「チーム青森をチームを離れ、地元の北海道北見市常呂町で新しいチーム「ロコ・ソラーレ北見」を結成し、チームビルディングから始めたということが語られています。
 
 
話は逸れますが、そこに至るには北見市常呂町カーリングを普及させた恩師・小栗祐治さんとの約束、その後の苦労の連続があったそうです。
 
(参考:「道つくる」恩師との約束刻み、チーム創設 快進撃支える本橋
 
 
 
話を戻すと、結成当初から、みんなに「何でも言い合っていこうね」と伝えると年下のメンバーから「何でも言うからね」と返えしてくれる。
 
また「チームってこうだよね」という具体的な体験やイメージを皆が話してくれる。なので、私から何か伝えると言うよりも、私が皆から学ぶことの方が大きい。
 
「それが将来的に、ブレない土台からのチーム作りにつながると信じています」
 
これはまさにチームのBeing。どう在るのかのチーム哲学。英語で言うフィロソフィーですよね。苦しい時にグラグラ揺さぶらせた時に支えとなる軸や重石は、やはり「そもそも何を大事にしてきたのか」と言う原点なんだと思います。
 
そのチームが8年の年月をかけて培った姿や成果はご覧の通りです。これ、日本代表のエースとして、五輪で入賞している当時の話しですよ。この謙虚さと自己内省は凄いなと思いつつ、逆に「このままじゃダメだ」という危機感もあったと思うんです。
 
おそらく本橋選手は自身の失敗談や後悔を惜しみなく伝えながら、試合後の自主練習は一切怠らず、何かあったら私が出るからと言う姿勢を背中で見せて、メンバーが精神的に伸び伸びプレーできる環境作りをする立場に身を置いた。後方支援するバックアッパーとして。
 
僕の妄想推測ですが「こんな環境、こんな人が傍にいてくれたら」というチームの精神的支柱の重要性を痛感した当時の自分の姿と重ねながら。
 
このブログを書いている途中に、男子カーリング界に一石を投じるこんな記事も出てきました。
 
両角友佑が語るカーリング界のリアル「今の強化方法には限界がきている」
 
 
この記事を読むと、きっと女子カーリング界も似た現場だから本橋選手がサポート役をかって出たんだろうなぁと想像しますが、内容はホント「児童福祉あるある」ですよね。
 
環境づくり、人材育成は基本的に個人任せ全体を取りまとめるハズな協会は、現場で起こっている現実を受け止めているのか、その業界の未来や将来を真剣に考えているのか、そもそも何を目指して、自分たちで何とかしようといるのか、そんな疑問や想いがヒシヒシいやビシビシと伝わってくる文章です
 
最近よく思うんですね。ほとんどの人が「チーム作り・組織作りのノウハウ」を全然知らないし経験値も足りないのでは、と。たいていの人は誰かが何とかしてくれると思ってる。
 
今ある環境がどのような歴史を経て整備されて、どのように維持されているのか、興味がないように見える。それはきっと、すでに出来上がったチーム・組織に入って、そこに適応することしか経験してきてないから。
 
確かに小中学校から学級・各行事の生徒会、部活などなどで実行委員やチームリーダーとして組織作りに携われる人はほんの一握り。だいたいいつも同じ人がやらされてましたよね。
 
でも別に、学校という枠でなくたって、近所の友達が集まって遊ぶ、親戚の集まりで子ども同士で遊んで待ってる、なんて「何も決められていないんだけど」とにかく皆んなで一緒に何か遊んで楽しんだ方がいい時間ってありましたよね。最近はないのかなぁ。
 
僕は新潟出身なので、例えば、雪はあるけど「じゃあ何する?雪合戦?かまくら?滑り台?」みたいに遊び方自体を考えてみんなで決める体験。でも小さい頃から習い事でビッシリ日課スケジュール埋まっていたり、遊ぶでもゲーム機やスマホゲームと言った「枠」があり1人でも遊べる生活が普通になってきてますね。
 
でもだんだん大人になったって、バンドでも、サークルでも、飲み会でも、バイトでも家族関係でも何でもいいんですけど、特定の正解の形がない中で、今いるメンバーとイチからお互いに納得できる関係性を築いていく場面はいくらでもある。
 
それが関係作り、チーム作りだと思いますし、それにはお互いの良さや価値観を認めながら、チームの形を模索していく。
 
こんな遊びや趣味の世界から、日本代表クラスであっても「チームの土台づくり」の核は、安心して率直に話せる関係性、オープンな対話なのではないでしょうか。
 
チームワーク・連携・関係性づくりの大切な原点は、やっていることや競技レベルに関わらず、「人の集まり」という点において普遍的なものがあると思います。
 
そして、その関係性の積み重ねの歴史を「文化」と呼ぶのではと思います。なので、本橋選手が感じたように、既存の組織で既に出来上がっている文化を変えるより、イチから作り上げた方が簡単だし手っ取り早いのは確かです。
 
しかしながら、LSWに関わる担当者や関係機関を総とっかえする事は現実的に不可能ですから、出来ることは今いる大人同士で地道な対話を重ねていくことなんだろう、という頭では理解しているけど「う〜ん」と思う結論に戻ってくるわけです。
 
この辺りの悩みは尽きませんが、組織における考え方の多様性も大切なので仕方がありません。
 
そんな時に支えになってくれるのは、やはりわかってくれる仲間の存在だなぁと思います。
 
チームというのは、作るのは難しいけど、出来たら心強く頼もしいものにもなるようなぁ、なんて各年代でやってきた自分のチーム作りの取り組みを改めて振り返らせてくれるインタビュー記事でした。
 
今後もカーリング界、注目ですね。
 
ではでは。