LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第77回】人生のバランスを整える仕事

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
いよいよ今年度も今週で終わりです。早いですね。
 
来年度に向けた準備で、バタバタ忙しくしている方も多いのではないでしょうか。
 
そして「まごのてblog」も気がつけば【第77回】。
次にラッキーセブンが並ぶには、あと700回更新が必要ですから…何年後ですかね。
 
こんなくだらない事を言うような、全体的に落ち着かずフワフワした雰囲気が、毎年この時期から5月くらいまではあるなぁと思います。
 
そんな感じも春らしいなぁ、と。
 
 
で、今回はアメリカの大学スポーツの記事からの話なのですが、バスケ歴25年の僕からすると、嬉しい日本人の話題を少し。
 
アメリカの大学スポーツは人気面、興行面ともにプロスポーツ顔負けの規模をほこりますが、その中で今シーズンはかつてないほど「NCAAアメリカ大学バスケ)」のニュースが日本で取り上げられていました。
 
その理由は、この2人の存在。
 
渡邊 雄太(わたなべ ゆうた、22歳、206cm)
八村塁(はちむら るい、20歳、203cm)
 
2人ともこのサイズでありながら身体能力も高く、ドライブ有り3ポイントシュート有りの日本規格外オールラウンダーで、高校時代の無双っぷりは日本バスケ界では有名でした。そんな若者が今アメリカの大学一部リーグNCAAで注目される存在に。
 
現在、渡邊 雄太はジョージ・ワシントン大の4年。このサイズに加えて長い腕、俊敏性で相手のガードからインサイドまで抑えられる「ディフェンダー」として評価が高く、3年時からはチームのエースとして活躍。惜しくもNCAAトーナメント本戦出場ならずしてシーズン終了してしまいましたが、来年以降の活躍の場が楽しみな選手。
 
ちなみに、ジョージ・ワシントン大は2016年8月に来日し、日本代表と琉球ゴールデンキングスと親善試合をしていますが、日本代表もキングスも主力抜きのジョージ・ワシントン大にボコボコにされています。
【参考】
 
 
そして、八村塁の活躍とポテンシャルはさらに上をいっています。現在ゴンザガ大の2年ですが、すでにU-17世界選手権で得点王、昨年U-19世界選手権でも日本を過去最高10位に導く得点ランク2位の実績。さらにゴンザガ大1年目は出場時間こそ少ないもののNCAAトーナメント準優勝を経験し、2年生の今年は本戦ベスト16で敗れはしましたが、シックスマンながらチームの得点源としてチームを牽引。
 
ベナン人(父)と日本人(母)のハーフである八村は、アメリカ人の中に混ざってもトップクラスの身体能力を示していて、すでに来年3年生のシーズン終了時の「2019年NBAドラフト」で全体5位指名を予測するサイトもあるほど全米から注目される選手に成長しつつあります。
 
そんな2人に当然メディアや国民の期待が膨らむものですが、しきりにゴンザガ大のHC(ヘッドコーチ)は「日本の皆さんが期待するのは分かるが経験を積む必要がある」「塁には、まだ時間が必要」とじっくり育てる必要性を訴えています。
 
確かに、英語もわからず文化も違う異国の地での生活は、想像以上にストレスフルなはず。世界中から有望なアスリートの金の卵が集まるアメリカの大学ではその環境適応や競技に集中するためのメンタルサポートへの意識に余念がありません。
 
競技でのハイパフォーマンスを維持し続けるには、技術だけはなくメンタル面の安定、さらにはベースとなる私生活での安定が必要であるということです
 
前置きが長くなりましたが、今回コラムはこのような選手への「メンタルサポート」はプロだけでなく大学レベルでも浸透しつつある、という記事の紹介から。
 
そして、この4月から新しい職場に異動する方も、新任さんを受け入れる先輩たちにも、是非ぜひ気にかけて欲しい内容です。
 
 
米スポーツ界とメンタルセラピー。
恋人と別れる時期が競技成績に影響?
 
この記事は「プロチーム、五輪代表チーム、そして大学レベルでもスポーツ心理学者やセラピストが常駐するのをご存知だろうか」という問いから始まります。
 
スポーツ大国アメリカの4大スポーツ(NBAMLBNFLNHL)やゴルフ、五輪チームでは早くからスポーツ心理学がパフォーマンスに取り入れられていて、ここ10年程でスポーツ強豪大学でも専属の心理学者やセラピストが雇れるようになっていると。
 
ご存知の方も多いと思いますが、アメリカだけでなく、ヨーロッパや南米の各団体球技の代表チームには専属のメンタルコーチやセラピストが帯同するのは割とメジャーになってきてますよね。
 
日本では、ラグビーW杯で「五郎丸」ブームが沸き起こった時、あの "ルーティン" をメンタルコーチと一緒に作り上げていった話しは何度もTVで取り上げられていました。
 
メンタルコーチとは、どんな仕事なのか?その内容は浸透しておらず、一般的イメージは、悩む選手と共に密室にこもって何やらコソコソ話を混むような得体の知れない仕事ではないでしょうか。
 
その点、この記事で紹介されているセラピストの仕事の説明は非常に簡潔で分かりやすい。
 
「人生というのはバランスによって成り立っていて、1つが乱れれば、ほかの部分にも影響してきます。悩みがあれば練習や勉強にも集中できないし、食欲や睡眠にも問題がでますから」
 
これは決してトップアスリートに限った話ではないですよね。我々のような一般社会人でもそうですし、社会的養護で暮らす子どもたちだって誰だって、人間誰しも当てはまると思います。
 
そしてセラピストの仕事は「人生のバランスを整える仕事」だと、この記事では紹介されています。
 
 
なるほど。
 
 
僕はLSWに関わる児童福祉の心理職として10年働いていますが、僕が普段から考えて実践している仕事の感覚やイメージに、この紹介文はピタリとハマると言うか、とてもしっくりくるんです。
 
自分の普段の仕事について、一般の人にもこのように説明すれば、わかりやすいのかもしれませんね。
 
 
そして、
〜学生の悩みは多岐にわたる。スポーツで成功したい本人のプレッシャー、成功してほしいと願う家族からのプレッシャー、怪我による焦り、学業との両立、コーチ、チームメイト、教授、友人との人間関係など。こういった事がパフォーマンスに影響してくるという。
 
こんな状態って、日本の部活やスポーツ少年団に所属する子どもでも普通にありますよね。このような様々なプレッシャーや焦りの中で子どもが日々生活しているという事を、子どもに関わる援助職の大人はしっかり想い巡らせて想像できなくてはいけないと思います。
 
しかし日本の部活だと「メンタルが弱い」→「根性が足りない」→「メンタルと根性を鍛え直す」と休みもなしに過酷な練習を課すアプローチしか頭にない"スポ根"コーチも未だにいるようです。
 
児童福祉に携わる人なら、いやいや学校の先生でも、スポーツのコーチでも「その子」「その人」全体をしっかり見ている人は、自身のポテンシャルや集中力を発揮できない理由の1つに、愛着や家族関係の葛藤、日常的な心のモヤモヤがある事を肌感覚として知っていますよね。
 
そして、社会的養護の子どものモヤモヤのうちの1つに「自分の家族・過去を知らない」という"曖昧な喪失"があるということ。もちろん在宅の子どもだって、急にお母さんがいなくなったり、新しいお母さんがやってきたり、いきなり引越しがあったりしたら当然混乱はするし、何があったのと疑問に思います。
 
しかし「子どもだから」とろくな説明もされず、戸惑いや悲しみ等の感情が適切なタイミングで扱われなかったり、「知りたい」と言う機会も与えられずモヤモヤした状態が放置されているケースが実際はたくさんあるという事。
 
 
〜「あるバスケットの選手は、子供の頃の問題が心に刺さっていて、それが解決できていなかった。家族を呼んで話し合いをしたところ心が軽くなったようで、プレーが見違えるようによくなり、得点率が高くなったケースもありますよ」
 
〜「五輪の年に、新しいことへの挑戦は基本的に勧めません。大きな飛躍を求めてコーチを代えたり、練習環境を変えたりする選手がいるけれど、成功例はとても少ないです。今までやってきたことを続ける方が効果があります」
 
人生のバランスとは、こういう事ですよね。スポーツをしている数時間だけでなく、24時間365日、人生◯年の生活をトータルで考えて、何が必要な支援かを考える。
 
僕はこれが「見立て」であって、スポーツや児童福祉といった分野を問わず"その人"を支える対人援助として共通した姿勢や考え方のような気がします
 
そして、その延長線上の支援の選択肢1つとして「LSW」があるに過ぎない、僕の感覚はそんな感じです。
 
 
そして、LSW実施のタイミングについても参考になりそうな話が続きます
 
〜「もしどうしても変えなければならない部分があるなら、シーズンインする前に解決しなさい、とアドバイスします。コーチとどうしてもソリがあわず変えたい場合は冬季練習の前に変えなさい、と。恋人やパートナーとうまくいっていなくて、『そのうち別れたい』と思っていたら、今すぐ別れなさい、と伝えます。五輪選考会の前にもめて別れるなんてことになったら、目も当てられない状態になります。今別れられないなら、五輪が終わってから別れなさい、と言いますね」
 
〜競技外での人間関係は競技には直接関係ないけれど、競技に集中する環境を作るためには、「確かに」と納得してしまうアドバイスだ。
 
LSWも似たようなことだと思うんですよね。一年や人生トータルで考えて、LSWで過去や現在の家族関係についてどの程度の内容を扱うのが良いのか。例えば、高校受験とかシーズンインしちゃってからガチャガチャやることが人生トータルで考えて、その人のプラスになるのか。
 
場合によっては、あえて今はステイ。人生にとって大事なことだから、現実のこれがひと段落してから、焦らずじっくり取り組もうという話し合いや決断も時として必要だと思います。
 
「人生のバランスを整える仕事」ですから、当然大事なことは、物事を捉えるバランス感覚。細かい部分に気を配りながらも全体的なバランス配分にも気をつける、一つの見方に凝り固まらないように「ミクロとマクロ」「主観と客観」の視点の切り替えを左右に揺れる振り子のように何度も何度も僕は繰り返します。
 
 
前置きでも触れましたが、生活環境や家族関係、友人関係、恋人関係が変わる時というのは、その人の人生にとっての転機、大きなライフイベントであるはずで、他人が思う以上にその精神的負荷や疲労プレッシャーは重いと思っておいた方がいい。
 
「安全第一」と言いながら、そんな大事なコトが何の前触れもなく起こるのは、子どもにとって相当な負担であるということを、里親委託や施設入所を勧める立場の人は、絶対にわかっていないといけない。
 
社会的養護(里親・施設)関係者は、たとえ善かれと思って里親委託したり施設入所させたとしても、子どもにとっての大切な家族や友達、慣れ親しんだ家や地域を喪失しているし、それをケアする(=悲しむ・惜しむ)必要もある意識を常に持っていて欲しい。
 
そして、これは児童福祉関係者だけでなく、阪神中越・東日本・熊本とあれだけの大地震を立て続いて経験し、今でも仮設住宅で住み続け、家族や自分たちの街を喪失した人を抱えている日本の社会全体で、もっともっと共有していかなけばいけないことだと僕は思います。
 
もちろん話した時には理解を示してくれる方も多いのですが、やはり自分自身に余裕がないと相手を想いやりケアすることは難しい。なので、まずは自分が安全で安心で癒されていること、頑張るためには頑張らない時間も必要、オンオフの切り替え、セルフケアの重要性がもっと強調されていいハズ。
 
自分自身に安全安心の感覚や適切なバランス感覚がない人が、人に安心感を与えたり、他人の人生のバランスを整える仕事が出来るとは、僕には思えません。
 
人に安心感を与える仕事をするのなら、まず自分自身、そして自分の仲間に安心感を与えたり維持すること、つまりは自分自身を大切にすることの重要性がもっともっと強調されていいと、僕は思います。
 
こう言う話をすると、どうも[自己犠牲的な考え方]と[自己中心的な考え方]のどちらかに極端に振り切ってしまう人が少なくないよなぁ、と感じることがあります。
 
最近なんだか社会全体が色々と窮屈で寛容性が乏しくなりつつある気がしてしまいますが、知っていても出来る余裕がない事と、全く念頭になくて何の配慮しない事では、個人の細かい所作やその積み重ねによる全体の雰囲気や空気感は全然違ってきますので、今後も来年度も地道に発信を続けていこうと思います。
 
 
人生のバランスを整える仕事。
 
 
来年度も継続します。
 
ではでは。