LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第82回】はじめてママ&パパの「しつけと脳育」

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
前回コラムでは、

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こんなイメージ図を使って、子どものアセスメントについて書きました。
 
僕の頭の中では、次回は「自分の気持ちを言語的に表現できるようになる」まで、そもそもどんな発達段階があるのか(樹の絵でいうアタッチメントの上矢印部)について、こんな表を使ってのイメージ共有や整理がいいのかな、となんとなく考えていたんです。

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自分の気持ちを言語的に表現できるようになるのは、通常に育って[3歳]くらいだから、そもそも3歳以前の発達課題が残っている子どもは、LSWで過去や生い立ちについての感情表現うんぬんの以前に、全般的に自分の気持ちを語れる力が未熟ないわけで、まずそこを育てないといけない。
 
そして、社会的養護の子どもって、そもそも0〜2歳の時期に受けるべきお世話、ニーズを十分満たされていない子が本当に多い。身体的には中学生だけど、感覚や情緒の発達段階は1歳前の[快/不快]レベルなんて子が、社会的養護じゃゴロゴロいます。これは大げさでも冗談でなく本当に。
 
なので、社会的養護の仕事は「育て直し」なんて言われることもあるわけですが、そもそも一般的な0〜2歳はどう育ち、親はどう育てているの?というベースラインを知らない大人に、「身体は大きいですけど、こころ(情緒)は2〜3歳児だと思って接してください」と言う子育てアドバイスは何の意味も持たない訳です。そもそもを知らないわけなので。
 
しかし、社会的養護の関わる子どもの保護者は、その生い立ちを聴くと、その保護者自身が0歳〜2歳までに当たり前に受けるお世話を受けていない、育てられていない、なんてことはよくありますよね。だから、相談に乗る側としては、具体的な行動レベルで保護者に伝えられないと「結局どうしたらいいんですか?」と言うところに戻ってきてしまう。
 
それは、新米里親や現場の若手ケアワーカーに対しても同様なのですが、実は相談乗る側も実際の子育て経験がないなんてことはよくあるし、実際に子育て経験があったとしても「気持ちの言語化を獲得させるためにコレやってました!」なんてことは恐らく少なくて、何か意識する訳でもなく普通に子どもに接していたら、いつのまにか育っていたというのが通常の子育てかと思います。
 
なので、よくある言って聞かせるペアトレや躾うんぬん以前の、もっともっと小さい0歳〜2歳くらいの言語獲得前の養育、言葉のやりとり以前の情緒を育てるプロセスって?いう感覚的なところをどうわかりやすく伝えるか、と言うところに支援者は四苦八苦していると思うんです。
 
なんてことを前回コラムを書きながらムニャムニャ考えながら自宅に帰ったところ、家に何気なく置いてあった本に衝撃を受けました。
 
それはコレ。

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主婦の友社の「はじめてパパ&ママ」シリーズは写真が多くてわかりやすくて、一歳の息子がいる我が家でも「離乳食」や「病気」編はお世話になっているんですよね。
 
その「しつけと脳育」編がコレなんですが、そのコスパたるや半端無いんです。ちなみに内容はこんな感じ。
 
 

内容紹介(Amazonより)

大ヒットシリーズの最新刊。 
子どもの“脳力"を最大限伸ばすために、0~3才でできることをまとめた、一家に一冊の保存版! 
 
●巻頭特集 
「0~5才まで見通せる! 心と体の発達カレンダー」 
「実例・脳を育てる 1日の過ごし方」 
 
●第1章 0才からの脳育てルール 
●第2章 時期別 発達と脳育てのコツ 
●第3章 もう迷わないしつけの方法 
  早寝早起き/公共マナー/イヤイヤ期の困った! /正しいおはしの持ち方/ 
  歯みがき/手洗い/着替え/トイレトレーニング 
●第4章 頭のいい子が育つ食事 
●第5章 カンタン! 親子遊びで脳育て 
●第6章 家庭教育と習い事 
英語教育/習い事人気ランキング/手作り知育おもちゃ/入園までにやっておくこと 
 
【専門家のスペシャルインタビュー】 
佐々木正美先生(児童精神科医)/高濱正伸先生(花まる学習会)/菅原裕子先生(コーチング) 
 
 
2017年3月初版なんですけど、これまで専門書を何冊も読んで勉強したのが馬鹿らしくなる程のわかりやすさ。写真や図解がふんだんに使われて、ここまで広範囲をカバーして、このクオリティーで1300円は正直、破格だと思います。
 
Amazonで初めの数ページ無料で見れますし、レビューのコメントも是非見ていただきたいんですけど、通常のお母さん視点からすると、子育てで何気なくやっていたことがこんなに脳を育てることにつながっていたんだという「整理」「確認」「安心」につながるみたいです。
 
具体的な本編の内容的には、そもそも脳の作りは、
 
(2階)おりこうさん脳(大脳皮質、小脳)
(階段)こころの脳(大脳皮質の前頭葉
(1階)からだの脳(大脳辺縁系、脳幹)
 
という2階建てなのだから、まず育てるのは1階の生命維持に必要な「からだの脳」。1階が不安定な家に重厚な2階は作れませんよ。脳の発達には段階や順番があって育脳の目的は「バランス脳」ですよと、よくある早期のお勉強的な知育に警鐘を鳴らすような内容が、専門用語を使わず図解と写真をふんだんに使って説明されています
 
そして、どの時期に子どもとどんな遊びをして、どんな刺激を脳に与えてあげることが必要なのか、現実場面の「しつけ、遊び、食事、TV、習い事」の取り扱いや困り感に対してどのように考えればいいのか、本当にわかりやすく説明されていて勉強になります。
 
これらの内容って、前回コラムで小難しい理論を大した説明なくサラっと載せたコレ、

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の話しですけど、こんな難しい言葉で覚えなくたって、この本1冊が手元にあれば全て解決!というレベルなんです。
 
脳育的には、3歳までは五感【視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚】を使って脳に刺激を与える「体験型」の育てが必要だと。見て・聴いて・触れて・嗅いで・舐めてという感覚や蓄積体験です。習い事や脳トレとか言って机の前に座ってお勉強はソノサキの段階であると、わかりやすく明確に説明されていますし。
 
また、専門家のインタビューと名を打って、
〇何よりまず親が笑顔で楽しんで生活すること。
〇親は見守る、転びそうになったらサポート。
〇0〜3歳までに手をかけなくても、実はすぐには困らない。困るのは大きくなってから。
〇子育ての目的は「自立」させること。
 
等々、子育てやアタッチメント形成で一番大事な親の心構えや精神状態、子育ての長期的展望などの本質的で大事な要素が、実例も合わせてわかりやすく書かれています。
 
子育て中のパパママが参考になるのはもちろん、社会的養護の現場にいる支援者にとっても非常に参考になるし、支援者チームで押さえておきたい共通理解しておきたい根っこになる内容がふんだんに散りばめられています。
 
 
ちなみに2018年6月には、本書を監修している成田奈緒子先生の最新書、
「子どもの脳を育てるペアレンティング・トレーニング育てにくい子ほどよく育つ」
が発売されるそうです。どのような内容になっているのか要チェックですね。
 
つまり何が言いたいかというと、LSWにおいて感情を表出を伴う幼児期の語りが出来ることが治療的なわけですが、そもそも「気持ちを言語化できるようになる」以前の段階の子どもたちには、五感全ての感覚的な刺激による「からだの脳」の育成、そして非言語的な視線や表情の応答による「こころの脳」の育成ステップや支援が必要ということ。
 
それが仮に小学生でも中学生であったとしても、この土台づくりのステップをすっ飛ばして、2階にある認知的な「おりこうさん脳」を大きくしようとしたって、そりゃ頭でっかちでバランスが悪い不安定な感じになっちゃうし、やっても積み上げに限界があるから効率が悪いんです結局。
 
例えるなら、昔の古いバージョンのスマホに最新アプリを入れようとするようなもの。スマホの性能に対してアプリの容量が大きすぎて、逆に動きが悪くなりますよね。「身の丈(1階の土台)」に合わない「頭(2階)」でっかちの脳トレはそんな感じかなと。なので、やはり大事なことは脳の育ちのバランスなんだろうと思います。
 
だから社会的養護に来る理由はさまざまですが、0歳〜2歳の間にネグレクトであった子は、脳のネットワークが爆発的に増える時期に刺激不足にあるわけですから、後々に本人や周囲を悩ませる「自己コントロールの問題への影響は本当に大きい。
 
社会的養護で代理養育を担う施設現場の方々は、たくさんの子どもを見る中でこのことを日々実感していると思いますが、委託率を増やせ増やせと言われている里親の多くは一般的な順調な子育てイメージを持っていて、子育ての比較対象が地域に住む一般家庭の子ども達になってしまいますから、子育て上手くいかないのは自分たちの対応が悪いからだと思い込みやすい。
 
実は、胎児期から0歳〜1歳のあいだ育っていて欲しい脳の部分が十分に育っていないがための影響の可能性が多分にあるにもかかわらずです。育てる側は残っている発達課題の「育てなおし」の視点をどこまで受け入れられるかですし、お願いする側はきちんと説明できるほど子どもの状態をアセスメントできるか。
 
何より一番は社会的養護を必要としないで家庭で子育て出来ることがいいわけですから、子どもへの早期支援、そして乳幼児期に子どもを育てる養育者への支援が大切。それは産まれてからだけでなく胎児期からの母胎内での育てを含むので、産前産後ケア、産前のパパママ教育、もっと言うとパパママになる前の教育もそう。「そもそも人ってこう育つんだ」の共通理解は、中高生くらいでやって全然いいと個人的には思います。テレビやスマホの脳の影響なんて、全然考えていないと思いますし。
 
この時代、テレビやスマホ抜きには生活できませんが、どうしたって視覚や聴覚に刺激が偏ることをソレを使い与える大人側は承知しておかないといけないですよね。
 
本書では「子どもの"ボンヤリ時間"をキープ」と説明がありますが、暇そうだからとTVをつけると、頭の中で空想したり思考をつなげたり前頭葉(創造性・こころの脳)を活性化する時間を奪うことになることが書かれています。
 
大人の世界の「効率第一・コスト削減」世知辛い時代流れですが、大人になったら困るだろうと時期尚早にアレコレ忙しく詰め込むのは、かえって脳育的には逆効果ということです。
 
だから、子どもにとって「暇な時間、ボーッとする時間」ってとても意味があることだし、それを奪ってしまうと自分で何も考えない、想像力が乏しい、好きなこともやりたい事もわからない人間に育っていくんだろうな、と思います。
 
対人援助の専門家として以上に、いち父親として、とても勉強になる一冊でした。
 
ではでは。