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静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第98回】職種による「チームワーク」の認識差

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
JaSPICANおかやま大会に向かっています。移動でまとまった時間があるので11月二度目の更新。
 
約一年前、2017年末コラムで勝手に掲げた「来年で更新100回」の目標まであと3回。何とか年内に区切りをつけて、晴れ晴れした気持ちで2019年を迎えたいたいものです。
 
という事で【第98回】コラムは、前回に引き続きLSWに欠かせない「チームワーク」について考えてみます。
 
今回紹介するのは、この論文。
 
 
チームワークの認識に関する研究ー自記式質問紙を用いた専門職間比較ー (松岡、石川 2000
 
 
【論文紹介】(by管理人)
まず筆者はチームワークを、
「専門職間連携の一方式」で「主体性を持った多様な専門職間にネットワークが存在し,相互作用性,資源交換性を期待して、専門職が共通の目標達成を目指して展開するプロセス」
 
と定義した上で、メンバー間の「チームワーク」モデル認識のズレがチームワークを阻害する一要因として働くことを指摘。
 
そして、
・専門職として社会化される過程で独自の文化(考え方)を身につけていく
・各職種が実践している組織環境の相違
(例えば、医療現場と比べると,社会福祉現場では職員の対等性が強調される傾向がある)
 
によって各職種の「チームワーク」モデル認識がズレがあること検証したというのが研究内容。
 
 
ちなみに「チームワーク」モデルはこの3つ。

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●マルチモデル(権威モデル)
発祥は医療領域。医師が中心となって他の専門職からの情報を受け取りながら治療に関する意思決定を行う。原因ー結果という直線因果的な問題に有効。職種間の「 階層性 (ヒエラルキー) 」が存在。いわゆるトップダウン型。
 
●インターモデル(相互モデル)
発祥はヘルスケア領域。慢性疾患や高齢者ケアなど心理ー社会的な多問題を抱える領域に適している。多職種が平等な立場から相互に意見交換し、チームメンバー全員で意思決定を行うプロセスを踏む。
 
●トランスモデル(縦断モデル)
乳児・幼児療育や障害児教育の場面から生まれてきたもの。「役割の解放性」が特徴で、例えば家族が看護者の役割を担ったり、教師が教育という本来の役割を超えて一部の理学療法を行ったりと専門性をシェアして学び合うモデル。
 
そして、成人の介護施設
  1. 看護職
  2. 介護職
  3. 生活指導員ソーシャルワーカー)
の職種間で「チームワーク」 に対するモデル認識の差を調べたら…
 
 
◼️結果→考察
看護職:「インター・トランス」モデルを想定
・医師の強いリーダーシップの下でチームのメンバーとして機能する「マルチモデル」をそのまま施設場面にも持ち込む予想とは違う結果。
→介護は多職種との連携や協働する形へ変化し、そこではすべての職種が「同じステージ」 で仕事をすることが求められていることが反映された?
 
介護職:「マルチ」モデルを想定
・看護職と正反対の認識傾向を示す。
→看護職と介護職の軋轢、介護中心の職場でありながら介護職が看護職の 助言・指導を受けつつケアを行っているという実態が反映された?
 
生活指導員:看護職と介護職の中間モデルを想定
ソーシャルワーカーという職種が持つ「連絡・調整」機能は、日常業務の中で大きな位置を占めるものの一つで、調整役として中立的な立場にあることが求められることが反映された?
 
その他:
インター・トランスモデルが混合されて認識
→トランスモデルはインターモデルから派生。理論的に把握されるようになった歴史も浅く、障害児教育という特殊な分野で発展してきたため、今回の調査対象であった成人施設職員においては馴染みがなく区別が不可能であったのではないか。
 
 
【コメント】
初めて読んだ時は、心の中の「あるある」が止まらなかったですね。
 
「連携!連携!」と仕切りに言ってはいるけれど、各々が想定している連携の形、チームワークの形がそもそもズレている気がするって事、あなたの組織、あなたの地域でもありませんか?
 
何でこんなに分かってくれないんだ!って、それぞれ思っているわけです。そりゃ、いつまでも噛み合わないです「目指している形」が違うんですから。
 
この研究は2000年の成人施設職員での結果ですが、僕が児童福祉の世界に足を踏み込んでからのこの10年、ホントに個人間、職種間、組織間の「連携・チームワーク」の認識のズレに苦しんできたんですよね。
 
 
では、現在2018年の児童福祉はどうでしょうか…?
 
差異がないなんてことはないと思います。
 
 
思うんですよね。おそらく、この認識の差異はいつの時代もなくならない。育ってきた環境が違うから。時代と共に問題と求められる形が変わるから。むしろ考え方や文化の多様性は、状況変化に対応する強みにもなり得る。
 
だから考え方を均一化する方向ではなく、ギャップがある事を前提として、ギャップを認めながら共存する形を模索すること、その際に生じる衝突・葛藤に対処するスキルを伸ばす方向性、つまり「ファシリテート能力」にもっと焦点を当てていく必要があるのだろうと。
 
この数年、児童福祉施設の中堅〜ベテランの職員さんから、「昔は力で抑えていたけど、今は時代が違うので」という内容を耳にする機会が増えたなという感覚が僕にはあるのですが、児童福祉分野はちょうど支援観・価値観の移行期にあるのかなと思っています。
 
発達障害系の児童の割合が増えているのは教育現場も福祉現場も同様。母子世帯、貧困世帯、ステップファミリーと多問題を抱える家族背景を抱えるケースに山積する中で、「マルチモデル」は通用せず→「インターモデル」→「トランスモデル」への支援形態の移行が時代の流れと共に求められているのかなと。
 
だけれども、個人も組織も柔軟性に差はありますから、時代の流れにスムーズに乗れる人、昔のスタイルに固執する人、変化しようとしても思うように出来ない人、それぞれがいるはずなんです。
 
それは児童福祉分野に限らず、2010年代に入って以降、経済界各所で「VUCA(ブーカ)時代」が到来した呼ばれるように、経済、企業組織、個人のキャリアにいたるまで、ありとあらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況になっている時代の流れかなと。
 
・Volatility(変動性)
・Uncertainty(不確実性)
・Complexity(複雑性)
・Ambiguity(曖昧性)
 
VUCAはもともと1990年代にアメリカの軍事領域において用いられてきた言葉で、一言でいうと「予測不能な状態」を意味していて、現代のカオス化した経済環境を指す言葉です。
 
ちょうど日本で児童虐待が扱われ始めたのも1990年代ですし、児童虐待分野の支援者にとって「予測不能な状態」は当たり前の日常ですし、今更それ言うか感すらありますが、軍事領域において用いられた言葉が当てはまると知った時は、やはり「戦場」なんだなと思いが一層強くなりました。
 
現代社会に合わせたベンチャー起業は、とにかくスピード感を大切にしますし、やればやるだけ利益が出た大量生産大量消費の時代から、いかに時代のニーズに合ったサービスを提供できるか、企業も明らかにモデルチェンジが求められていると思います。
 
そんな時代の変化に伴い「ただ決められたことをきちんとこなす人材」よりも「主体性を持って考え柔軟に行動する人材」が求められていますし、組織のあり方も「マルチモデル」から「インターモデル」「トランスモデル」的なものが求められている気がしますが、その変化に人や組織の方が付いていけてないのかな、と。
 
受験スタイルにしても、リーダーシップにしても、急な変化に適応できる人は出来るけど、できない人は出来ない。2020年に学習指導要領も変わりますが、適応できる人と出来ない人の差がより一層はっきり現れると思います。特に児童福祉に多い発達障害系の人は「変化に弱く」「曖昧なことが苦手」ですから、そんな社会に適応できないと見なされた人達がどんどん来る。
 
しかし、それを支援する側のチームワークで求められる「トランスモデル」の特徴である「役割の解放」は、悪く言えば「役割の境界が曖昧」になりやすいので、よほどチームメンバーがそれぞれの自分の役割をきちんと自覚して実行できないと、役割の押し付けが始まったり、結局できる人に負担が一極集中したりと、「柔軟性」と「不安定さ」って表裏一体。
 
子どもの事は「何でもかんでも児童相談所に」と通告が増え過ぎて、時間制約上かえって出来る役割が限られてしまっているし、上記の衝突葛藤も各地で起きている、現代日本の児童福祉の流れはまさに移行期の混乱やバランスの悪さを象徴している気がします。
 
ただ決して、マルチモデルが劣っていて、トランスモデルが優れているとかいう単純なものではなくて、要はある問題に対して適切なチームワークを適応できるかという戦術的柔軟性の問題。
 
当コラムでは、よくサッカーの例えを出しますけど、対戦相手や戦況、残り時間によって効果的なフォーメーションは異なりますし、チームメンバーの特性や能力によってもフォーメーションの合う合わないはありますよね。
 
これはLSWにおいても同様で、刻々と変わる子どものニーズや状態だけでなく、支援する施設や児相の担当者も年度で刻々と変化する。
 
例えば、暴力や自傷他害など「安全に関わる」早急な問題の対応判断は「マルチモデルのトップダウン的対応」が必要ですし、生活場面で日常的に行われる成長を促す関わりやケアは、各々の立場や経験、専門性をシェアして力を合わせる「インターモデル」「トランスモデル」が必要なんだろうと思います。
 
その戦況に合わせた柔軟なフォーメーション変化を「監督コーチの指示なし」で「ピッチに立っている選手同士で対応しろ」というのは、余程の各々の経験と戦術理解度が高く、阿吽の呼吸で通じ合えるような関係性でないと難しいだろうと思います。けれど、僕が現場で連携がうまくいっているなと思う時ってそれが可能なメンバーが集まっている時なんですよね。だいたい。
 
それは、前回コラムのGoogleの研究結果で言う、
・メンバーの人の気持ちへの感受性の平均値が高い
 
ということなるのかもしれませんが、それだけではなくてメンバーの発言量がだいたい同じ」になるような雰囲気づくり、つまり心理的安全性を高める」ファシリテート能力というは、天性のセンスに頼るだけでなく、そのコツみたいなものを皆で共有してシェアしていくことが今後は必要だよな、と思っています。
 
 
ということが、僕が学生として今研究でまとめようとして、全然まとめきれていない事の一部です。
 
来年3月までにまとまるのかな…。
 
 
ではでは。