LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第105回】エネルギー・マインドセット・アクションの三段階

メンバーの皆さま

おつかれさまです。管理人です。

5月なのにすっかり「夏」の暑さですね。

先日、北海道で39.5度なんてニュースになっていましたが、各所で5月の最高気温を更新しているようで、今年も異常気象の予感…。

皆さま、熱中症にはお気をつけください。



そんな今回取り上げるのは、もうすぐ日本でワールドカップが開催され、競技的なイメージも熱い"アノ"スポーツの話題から。


勝敗を決するもの

致知2019.6月号より)

の対談から、今回注目するのは、帝京大学ラグビー部の岩出監督が語る「チームづくり」について。

大学ラグビーの伝統校といえば早稲田・慶応・明治が有名ですが、それら伝統校を差し置いて、平成最後の大学選手権を準決勝で破れるまで、前人未到の全国大学選手権"九連覇"を果たしていたのが帝京大学ラグビー部。

もしかしたら、"平成"世代の方は早慶明のラグビー部が強かったことすら知らないかもしれませんよね。それくらい帝京大学は平成の終わりに勝ちまくった絶対王者なんですね。

そして、大学スポーツは毎年主力選手が入れ替わるので、連覇し続けるっていうのは偶然できることではなくて、「大切なのはいかに『チームカルチャー』を築いて、選手層を厚くしていくかだと思います」と岩出監督は語っています。

そして、コーチ陣に徹底して共有しているのが、
・やる気の元になる「エネルギー」
・行動を生むための「マインドセット
・成果に結びつく「アクション」
の順番で、選手にアプローチすることだと。

岩出監督はマズローの欲求階層説を引き合いに出していますが、これってラグビーに限らず全ての対人援助に共通する原則的なものですし、LSW実施の際に、子どもの状態として、支援者チームの状態として是非気に留めて欲しい視点なので、順番に紹介します。


やる気の元になる「エネルギー」
なんと言っても有名な帝京大学ラグビー部の功績は、それまで学生スポーツで支配的だった上下関係、根性論を廃して強いチームを作ったこと。

体力的に未熟な下級生(1〜2年生)にグラウンド整備など雑用をさせる上下関係を撤廃。掃除や食事当番も最上級生(4年生)が行い、食のサポート、最新理論に基づいたトレーニング、さらに定期的な血液検査も実施して疲労状態を検証し、休養を与える等々。


岩出監督に言わせると、

〜選手たちが自分を信頼するといいますか、自信を積み重ねていくのはそう簡単なことではありません。やっぱり自信や心の余裕がない状態では、どれだけフィジカルやスキルを持っていても試合で力を発揮できないんですね。
 
〜毎年毎年、先輩たちからたくさんのサポートを受けつつ、自信のもとになる心の余裕、体の余裕、プレーの余裕を一・二年生は学ぶ。先輩から後輩へ経験値や考え方を伝承し、共有する。そういう文化を心掛けてつくってきました。

ということ。その中でも僕が特に印象的だったのが、地方から出てきた一年生なんか生活環境もガラッと変わって大変なわけだから、早く安心できる生活を送れるようにして、いちはやく練習に集中できる環境を整えてあげることがまず大事、という話。

高校で全国レベルの実績を残してきたムキムキの大学生ですら、このような安全安心な生活への配慮サポートが必要で、それによって持っているポテンシャルが十分に発揮できると。

このblogの読者の皆さまならご察しと思いますが、では様々な家庭事情(多くは虐待)によって親元を離れて里親・施設で暮らすことになった成長期の子ども(乳幼児・小学生・中学生)についてはどうでしょうか。全く同じことが言えますよね。

ましてや、施設における子どもグループの集団力動ってかなり体育会系。僕も運動部で上下関係はずっと経験してきましたが(特に中高は先輩が怖かった)、施設も似た構造がありますよね。新しい環境で、新参者は周りに気を遣いますし、それだけで気疲れしてまうのは子どもも大人も一緒です。

それでも頑張ろうと思う、やる気の元になる「エネルギー」って、安全基地として頼れる人やホッとできる場所があって、はじめて自分の内側から自然と湧いて出てくるものだと思います。

だけど例えば、息をつくハズのお家で、過剰適応や過緊張を強いられている子は、ずっと力を入れている状態で、さらにコレも頑張れと言われる。けどエネルギーが残っていないから、やる気が起きないし踏ん張れない。だから、より怒られ厳しくされるの悪循環って割と起きてますよね。

学校の勉強を頑張る、自分の課題に向き合い行動修正をはかる、そんなためにはエネルギーが必要で、エネルギー不足では新しいことに前向きに、主体的に取り組むことなんて難しいですよね。

そして、よく「オンオフの切り替え」とは言いますが、ずっと「ON」だとOFFの感覚がわからないから、切り替えなんて上手くなりっこない。頑張らせる踏ん張らせる感覚を身につけさせるためには、あえて"抜く"、そのギャップを経験することも必要と思います。

集中力ある人って、みんなとは言いませんが、実は結構サボり方がうまいかったりしません?バレないように省エネタイムを作って、ここぞって時にエネルギー溜めてたりする。部活の練習とかで監督にそれが見つかるとスゲー怒られますけど(苦笑)

でも、実際に試合で相手に勝つにはそういう"したたかさ"は必要。監督に頑張る姿を見せるために試合してる訳じゃないですから。監督に怒られないように顔色伺っているうちは、同等かそれ以上の力を持った相手には絶対勝てないし、成長はないと思います。使うべき所に、エネルギーを使って出し切ってないわけですから。

ただ当然「OFF」から「ON」に入れることも始めか上手くできるわけではないので、やる気を「ON」にする訓練、枠組みやサポートも同時に考えなくてはいけないと。

その一つが、モチベーションを上げるとか、動機付けとかになると思うのですが、そんな話が次の話題かなと思います。



行動を生むための「マインドセット

そもそも「マインドセット」とは。
【mind set】
経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態。暗黙の了解事項、思い込み(パラダイム)、価値観、信念などがこれに含まれる。

マインドセットという言い方は、人の意識や心理状態は一面的なとらえ方はできず、多面的に見てセットしたものがマインドの全体像を表しているということから来ている。
【引用】グロービズ経営大学院 MBA用語集


なるほど。これを踏まえて、岩出監督の話し。

〜細かなことを挙げればたくさんあるんですけど、我われコーチングスタッフが学生に教え過ぎていないか。彼ら自身が悩み苦しみながら答えを見つけていくアプローチができているか。

〜無理な課題に挑戦して挫折するのではなく、最適なレベルの課題に挑戦し、ちゃんとやり切れているか。そういったことをお互いに、もう一度見直しています。ですから、三月は練習時間を大幅にディスカッションに割きました。

技術よりも考え方の部分を重点的に。

〜はい。成果に結びつくアクション、行動を生むためのマインドセット正しい考え方を身につけることが必要です。ただそれだけでは不十分で、やる気のもとになるエネルギーも高めねばなりません。逆に、エネルギーやマインドセットを抜きにいきなりアクションを求めてもダメ。

〜この「エネルギー、マインドセット、アクション」という三段階を我われコーチングスタッフも選手たちも理解して、急がずに余裕を持ちながら取り組んでいます。


なんか、この辺りのくだりだけ読むと、もはや子育て論、教育論ですよね。これがプロではなく学生スポーツの醍醐味かもしれませんけど。

忙しくて余裕がないと、どうしても「どうしたらいいんですか?」と即解決策、即方法論に飛びつきたくなるんですけど、それってその人の人間的な成長につながるのかということを考えさせられます。

子どもの習い事もそうですけど、極論で言えば学生はプロではないので、ラグビーをしなくても生きていけるし、卒業後はラグビー以外の仕事で生きていく学生の方が圧倒的大多数

もちろん、チームスポーツなので全員がレギュラーになれるわけでも、試合に出られるわけでないでもない中で、「なぜ自分はラグビーをやっているのか?」「試合には出られないが、チームの勝利に貢献する自身の役割をどう受け入れるか」。

そんな自問自答の意味って、対人援助のケース会議と似ているなぁと思いまして。

例えば「役割分担」ってよく言いますけど、人から「コレやれ」って他人から言われた事ってあんまり質のいいアクションに繋がらないことを経験則で僕も実感しています。

たぶん、自分の中で腑に落ちていないと「いつやるのか」の判断が主体的に行われないので、効果的なタイミングかどうかはさておき「やったか、やらないか」に焦点が当たる傾向があると思います。しかし同じ事をやったり伝えたりしたとしても、その流れや意味づけによって、印象や受け取りは全然違うものになりますよね。

逆に、自分で考えて「コレやります」と自分の口から出たアクションはやはり実行の質が高い。おそらく主体性のあるアクションは、軸となるマインドセットがしっかりしているので、状況に応じた微調整や応用が効くんだと思います。

支援者の中で「何を目指しているのか」は自分の中で整理されていれば、「どうするのか」の方法論や道筋は柔軟に変更できるし、当事者とそれを対話しながら決めることができるから。

そうやって、相互性を大切にやりとりの中で意思決定するプロセスって、まさにチームとしての「何を大事に」「何を目指して」「どのような協力関係を作っていくのか」を共有していくことなのかなと思います。


〜我われコーチングスタッフが学生に教え過ぎていないか。

でも何も言わないわけでもない。スタッフも選手も監督も、それぞれの役割があるだけで「ある目的」を共有する同じチームの一員ですから、お互いに「果たす役割」について考え、伝えあうこと、対話による相互理解は必要不可欠だと思います。

この関係性って児童福祉をにおける、子ども、養育者、支援者といったチームの構造と似ているよなと対談を読んでいて思ったんですよね。




成果に結びつく「アクション」

素朴に思うのが、"成果"を何と捉えるかによって求めるアクションの質は変わるだろうと言うこと。

例えば、単純作業のようにやればやっただけ成果に結びつくようなことの場合、つべこべ考えずにやる方が良いこともあるかもしれませんよね。

その点で岩出監督は、指導者のマインドセットとアクション、そして成果について興味深いことを語っています。


〜「勝ちたいな」と思っていた時は勝てなくて、「勝たせたいな」と思っていると少しずつ勝てるようになって「幸せにしてやりたい」と思うようになって、一気に優勝が続いたという感じですね。

〜自分が勝ちたいから選手たちを勝たせたい。そして、目の前の勝利だけじゃなくて、彼らを育ててあげたい。こう思うようになったら、勝利が来るようになった。

桶の水を自分のほうに寄せようとすると向こうに逃げてしまうけれども、相手にあげようと押しやれば逆に自分のほうへの返ってくるのと同じで、自分のためにやるではなくて相手のために一生懸命やると、物事はうまく運んでいくのではないかと思います。


〜世の中も変わり、その影響を受けている学生たちも変わっていく中で、どこを変えてどこを変えないかということを押さえながら、チーム全体がさらに伸びるようにする。

〜僕は何連覇という数字にはあまり拘ってなくて、一つひとつの試合で、自分たちがやってきたことの成果を実感できるほうが大切だと思っています。


監督として選手の成長をサポートする視点がこんなストレートな言葉で語られています。

これって養育者、支援者としての正しいマインドセットそのものじゃないかなと。

勝たせることが目的ではなく、選手の成長の延長線上に勝利がある。だから、目の前の勝ち負けに一喜一憂しないし、成果=成長を実感できる方が大切。

しかし、その成長プロセス、成長アプローチは決して一つじゃないですから、自分達の目標は何なのか、それに対するアプローチをどうするのか、それを話し合いながら考える。そして、やってみて振り返る。


話を聞いてもらう、労われる → 【元気になる】
意見を交換する、対話を続ける → 【理解を深める】
やってみて、振り返る → 【より良い行動を探る】


こんなエネルギー、マインドセット、アクションの順番って、児童福祉で行われている生活支援、自立支援、家族支援プロセスと同じだなって思うんですよね。

そして、エネルギーも無いのにマインドセットにアプローチしたり、マインドセットそっちのけでアクションにアプローチしようとして空回りしていることって、結構起きてないかなぁと思います。

おそらくマインドセットを細かく見ていくと、認知、思考、価値観、信念、スキーマ等々の話しになっていくとは思うんですけど、僕の中ではそれぞれの関係性がうまく整理できないと言うか、細か過ぎていまいちスッと入ってこなくてですね。
(僕が勉強不足なだけなんですけど、世間一般に通用しない言葉は大概の場合、他職種には通じないし連携においては変な誤解の元だと僕は思っています)

クリニックのような相談意欲があって通所できる人を対象のベースにした場所であれば、いきなり認知行動でいいと思うんですけど、児童福祉は人に助けを求めない、生活基盤が脆弱、暴力被害に合っている等々といったエネルギーが少ないor消耗が激し過ぎる環境にいる人達が支援対象のメイン。

もちろん、細かく突き詰めるアプローチも必要なんですけど、「木を見て森を見ず」にならないようまず全体を見て、手当が必要な場所や優先順位の当たりをつけて、それから徐々にズームを拡大していくように細部を見ていく。

このようなアプローチの流れの原則的なものって意外と共有が難しくて、「この子の見立てはどうなってる?」と一言でいっても、それぞれの領域や教育課程によってイメージしていることや重点的に考えることって結構バラツキが出ると思います。

方法論として色んな意見が出ることはむしろ歓迎されることですが、共有できる原則的なものは欲しいですよね。根本から話が噛み合わないみたいなことになるので。

LSWで言えば、まずは支援者チームが現在の対応に疲弊していて過去を扱う「エネルギー」まで残っているのか。そして、長期的な子どもの成長や自立支援の視点での検討ができているのかマインドセット)。そのことをどう子どもに伝えて共有していこうと考えるか(アクション)。

次に、子どもに過去に向き合うだけの「エネルギー」が現在あるのか。そしてLSW実施についての動機が本人にあるのか(マインドセット)。その方法を本人と対話をして一緒に決めているか(アクション)。



「人が覚えれるのは3つまで」「物事を3つにまとめられない時はまだ整理が足りない」なんて言葉がありますが、色んな人達とイメージを共有するための合言葉は、
「エネルギー、マインドセット、アクションの三段階」
くらいにシンプルにした方がやはり共有しやすいよなぁ、と思って紹介させてもらいました。

ではでは。