LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第122回】妄想EBPM的養育支援システム

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
 
GWいかがお過ごしでしょうか。
 
僕は12時間のドライブを経て、気仙沼にいます。
子どもを連れて妻の実家へ帰省ですね。
 
普段会えない[じいじばあば+ネコ]に息子は大興奮。
 
核家族の身にとっては、子どもの面倒を見てもらえるだけでもプライスレスなのですが、震災にあった気仙沼の復興を肌で感じられるという意味でもプライスレス。
 
 
 
僕にとっての気仙沼は、日常を忘れながらリラックスできる、貴重な非日常の世界。
 
 
今回コラムは、そんな非日常世界で、ダラダラしながら「日本の養育支援システム」について妄想的に物思いにふけたことをつらつら綴ったものです。
 
LSWとは直接関係ないかも知れませんが、LSWが必要な社会的養護に来る前に出来ること、としてお付き合いください。(いつもながら、こじつけ感がありますね)
 
 
気仙沼の話しに戻ります。
 
昨日、息子が生まれた病院脇を通ったんです。息子が生まれたのは5年前。
 
実は気仙沼病院は老朽化と耐震で、4年前に別の場所に建て替え済み。あと1年出産がズレていれば新築ピカピカな病院での誕生だったわけですが、言い換えれば、気仙沼病院のラストイヤーチルドレンと言えるでしょうか(なんじゃそれ)。
 
で、そんな廃病院である旧気仙沼病院が、いまも取り壊されず残っている。そして、病院周辺のお店、薬局、スーパー、ケーキ屋さん等々が軒並み閉店してたんですよね。
 
当たり前ですが、患者とその家族で売り上げが成り立っていたんでしょうね。お店も移転しただけかもしれまけんが、自分も僅かながらお世話になっただけに寂しさや虚しさを感じられずにはいられませんでした
 
気仙沼は、絵に描いたような人口減少と過疎化が進んでいる地域です。
 
ただ震災があったからこそ、それまで降りなかった国からの補助金が降り、新しい高速道路や橋ができて利便性が増し、観光地のために新しいお店やオシャレスポットが生まれているという皮肉的な現実。
 
限られた国家予算をどこに当てるのか、世間を納得させる「大義名分」がないと、人口が少ないマイナー地域に予算を割り振ることがいかに難しいことなのか、そんなことを以下の記事を見ながら連想したのでした。
 
 
本題はここから。
 
表題「EBPM」って何だ?と思った方も多いと思いますが、出かける前に読んでいたのがコレ。
business leaders square wisdom
 
 
EBPM:Evidence-Based Policy Making
・統計データや各種指標など、客観的エビデンス(根拠や証拠)を基にして、政策の決定や実行を効果的・効率的に行うこと
 
だそう。
 
これまでは政策立案で民意を反映しようとしても、政治家に近い「大きな声」や政治家に「理解しやすい声」を中心に影響が強くなりがちだった、と。
 
よく分かりますね。大きな声では言えないですが、僕もそんなに選挙に行ってないですし(苦笑)
 
最近「日本女性の二人に一人は50歳以上」というニュースを耳にしましたが、日本の総人口も、選挙に行く年齢層も、高齢者に比べて圧倒的に若者は少ないですよね。子どもは選挙権ないですし。
 
なので、子育て支援、養育支援の必要性は誰に聞いても「必要ない」と決して否定されるものではないものの、政策に目に見える民意、耳に聞こえる民意を反映すると、どうしても子育て支援は積極的一番手にはなりにくい。現役の、特に乳幼児期の子育て世代、もしくはその予備軍(若者)は全人口の少数派だから。
 
しかし、これまではこのような少数派の人たちの民意を汲み取るためのシステム構築の予算・スピード・人材の確保が難しかったが、ICT(information and Communication Technology:通信技術を活用したコミュニケーションの普及に伴い、それが解決しつつあると。
 
ビッグデータという言葉は一度は耳にしたことがあると思いますが、ウェブ上の大量データを集めて、人工知能(AI)を使って膨大なビッグデータを整理・分析・解析することは今や実現可能に。
 
すると、今まで一見すると分からなかった市民の意向や傾向を、データ的根拠(エビデンス)として捉えることが可能となって、そのエビデンスに基づいて政策を立案・実行することができる。
 
それをEBPM(Evidence-Based Policy Making)と呼ぶんだそうです。
 
 
ほー、なるほど。
 
イービーピーエムって、イレブンピーエムと語呂が似てるな。ん、イレブンピーエムってなんだっけ?
 
と思って、検索したら「11PMっていう1965年から1990年まで続いていた大橋巨泉のTV番組が出てきました。
 
いや、全く知らんし、こんな番組。1982年生まれの僕が観てた可能性ゼロではないけど、番組終了時で7歳8歳ですから、さすがに観てないでしょ。
 
じゃあ、頭に残ってた「イレブンピーエム」って何だとは思いつつ、結局わからないので、EBPMの話しに戻ります。
 
 
そう、EBPM。
 
これは決してSF的な未来の夢物語なんかじゃなく、今の現代社で現実化しているらしいですね。
 
例えば、ニューヨーク市貧困層の就労者数を増やす政策にEBPMが使用されていたり、
 
なんと日本でも、広島県呉市がEBPMが使って薬剤費削減や糖尿病の重症者数減少に成功している例があるもよう。(※紹介記事参照)
 
 
マジっすか⁈  日本でも実施例があるですね。
 
 
じゃあ、結構身近なこととして、EBPM的な近未来の児童福祉について妄想してみます。
 
 
子ども関連の現在地で言うと、2020年の学習指導要領改定と新型コロナの影響も相まって、小学校でひとり一台のタブレット支給が凄い速度で進みましたよね
 
今のタブレット活用法は、
・調べ学習でネット検索
・体育でICT活用(走り高跳びのフォームを動画で確認する授業が、僕の地域で実際ありました)
・学級閉鎖時のリモート授業
・宿題のタブレット配信
みたいな感じかなと思います。
 
これだけでも、2〜3年前の新型コロナ蔓延前は、想像できなかったので(計画は着々と進んでいたはずですが)、短期間に時代が随分進んだものだなと、個人的には驚きを隠せません。
 
 
では、さらに、この先はどうなるでしょうか。
 
 
インターネット注文って、ごくごく一般的な購買方法になりましたが、ネット上で勝手に関連商品の広告が出てくることって、ありません?
 
ネットニュースの関連記事もそうですね。YahooとかGoogleとかも、自分の好きな分野のニュースばかり集めてきますよね。
 
これって、過去の検索履歴から人工知能(AI)がその人が興味ありそうなものを推測して提案しているんですね。
 
で、これと同じことが、教育分野で近い将来起きてくる可能性があると。
 
 
普及し始めた個人持ちのPCやタブレットは、ネットの使い方に慣れることが最終目的ではなく、最終到達地点はICT端末の使い方、質問とか回答とかが膨大なビッグデータとして収集され、活用されること。
 
 
そして、蓄積された個人データ(何に質問したとか何に間違いやすいかの傾向)から、人工知能AI)がその人の躓きやすいところを予測したり、オススメ学習方法を提案することって、現時点の民間企業の技術力なら、すでに可能なようです。
 
例えば、zozotownが、過去の注文履歴から、その人の好みに合いそうなファッションやコーディネートについて、その年のトレンドを踏まえてオススメしてくるみたいな。
 
ただ過去の類似商品をオススメするんじゃなくて(それじゃあ服は売れません)、何十万人何百万人の購買履歴のビッグデータを解析してディープラーニング(自主的な深層学習)し進化し続けるオシャレ番長AIが、その時々の最適解を提案してくれるわけです。
 
 
で、ここからは完全に僕の妄想です。
 
 
日本では当たり前の養育支援である、母子手帳・赤ちゃん訪問・10か月健診・1歳半健診・3歳児健診・予防接種フォローは、日本が世界に誇れる「養育支援システム」として有名です。
(こんなキメ細かい支援、他国じゃ、実現不可能だそうですよ)
 
もし、このデータをIT化できたとしたら。母子手帳や定期健診の結果が、ビッグデータ化できたとしたら。どんな未来がやってきそうですか。
 
以前コラムで「感情の円環モデル」を活用して、アンドロイドが人間の気持ち(←脈拍と脳波の状態確認)に合わせた対応が可能になりつつあることを紹介しました。
 
この技術がもっと一般化して、ビッグデータに基づくAIが解析が進めば、
 
[養育不安感・困難感 × リアルタイムの気持ち]
 
の両方を考慮して、AIが対応方法や支援サービスの提案をしてくれる時代も全くないとは言えませんよね。
 
さらに言えば、保健師さんが母親の産前に確認している情報、俗に言う「ハイリスク妊婦」情報だってビッグデータ化が可能です。
 
若年出産とか、精神疾患、知的障害、発達障害の情報もそう。
 
もっと言えば、アメリカでは「ビッグ・ファイブ理論」を性格特性に関する数百万人レベルの大規模調査が行われていたりトランプ元大統領が選挙戦の時にビッグファイブ理論を使った分析により州ごとにメッセージの伝え方を変えていた(行動マイクロマーケティング)ことも公表されています。
 
ビッグファイブ理論とは、人間の性格は5つの特性(外向性、神経症傾向、経験への開放性、調和性、誠実性)の組み合わせによって説明できるという理論。五角形のグラフで、どこが強い弱いといった組み合わせです。
 
それぞれ、
 
○外向性(⇔内向性)
対人関係の量と強さ。活動水準、刺激希求、喜びの能力。外向性が高い人は社交的で、活動性や積極性が高く、高覚醒状態(テンション高め)を好む。外向性が低い(=内向性が高い)人は、控えめで過剰な刺激を避け、物静かで注意深く、一人でいる低覚醒状態を好む。
 
神経症傾向
環境からの刺激やストレスを引き起こす刺激に対する敏感さ、不安や緊張の強さ。不安のほか、抑うつ、敵意、衝動性、自意識(劣等感)、傷つきやすさ等で構成される。神経症傾向が低い人は、リラックスしていて、安定感があり(感情的でない)、ストレス耐性が高い。
 
○経験への開放性
知的好奇心の強さ、想像力、独創性、馴染まないものに耐えられる力。開放性が高い人は、自分の感情に価値を置き、心が広く寛容さがある(ルーズでもある)。開放性が低い人は、興味の幅が狭く保守的で、伝統や決まったやり方に従うことを好む。
 
○調和性
共感性、優しさ。思考ー感情ー行動における対人関係の質問。調和性が高いと、他者への信頼感があり、人のために尽くしたり(利他性)、人を許したり、謙虚さや無邪気さを持っている。調和性が低い人は、疑い深く皮肉的、攻撃的で競争を好み、自己中心的で孤独を好む。
 
○誠実性
目標志向行動における気構えと持久力。自己統制力や達成への意志、真面目さ、責任感の強さ。慎重で塾考型。倫理的にしっかりしている。誠実性の低い人は、いい加減で怠け者、あわてもので意思が弱く、快楽的な行動を好む。
 
 
とのことで、これらはどれが高いことが良い悪いではなくて、人間の性格は大きくこの5つの要素の組み合わせで説明できる、という理論です。
 
そして例えば、アメリカで「社会的弱者」にグルーピングされる多くの人は「神経症傾向」が強く、その人たちには恐怖を喚起する広告が大きな効果を発揮したそう。
 
まあ、おそらく不安定型愛着やトラウマを抱えている人が多かったのではないかと僕は推測しますが。
 
この辺りもビッグデータ化されれば、
 
[親の性格特性 × 親の器質的特性  × 実際の養育不安感・困難感 × リアルタイムな親の気持ち…]
 
と言った、あらゆる要因をデータ化してAIが解析して対応してくれる…となったら?
 
親自身の愛着パターン(回避系、過干渉系)によって、子どもへの適度な関わり方や距離感のアドバイスができたり、性格的に家族や親族サポートを頼れそうかとか、外部の養育支援をどれくらい積極的に活用しそうかとか、そのあたりだって解析可能になりそうですよね。
 
いま、人間がアナログでやっている「見立て」ですから。
 
もっと言えば、現在は面接や質問紙によって確認していることも、将来的にはウェブ回答によるデータ化が可能ですし、現在の脳科学精神障害発達障害の脳の不活性部位がわかりつつありますから近未来的には脳波測定さえできれば特性理解にウェブ回答すら必要なくなることだってありえます。
 
 
さすがに、国民全員の知的能力まで測るのは倫理的にアウトな感じがしますが、生育歴や学歴でその辺もマイルドに配慮されて、みたいな。
 
なんか凄いことが起きそうな気がする反面、怖い気もしますね。
 
 
どんなにテクノロジーが進化しても、この仕事はなくならないだろうと思われていた「対人援助」においても、AIが人間を凌駕する「シンギュラリティ」が起きた未来というか。
 
ただ思うに、マイナンバーカードの普及ですらこれだけ揉めるわけですから、「こんな個人情報がデータ化されるなら、行政には相談したくない」と関わりを拒否したり、澄まし顔で虚偽回答をする母親もきっと出てくるでしょう。
 
時代はどんどん変わるので、どんな支援システムを構築しようと、そこに上手く乗れない人、こぼれ落ちる人は、いつの時代も一定数いると思われます。
 
そんな世間的の外れ値への支援を、児童相談所は、昔も今もこれからも求められていくんじゃないかなと思います(それすらAIのディープラーニングが上回ったら、それは完全なるシンギュラリティ、人間の凌駕ですね)。
 
 
このように、EBPMは民間技術的には可能ですが、行政的には壁が高すぎて22世紀でも実現不可能ですと、わかりやすくぶった斬ってくれるのが、最近TVに出まくっているイェール大学の成田悠輔教授。
【参考】成田悠輔の半熟仮想切り抜き
 
内容も面白いし、話術も非常に参考になります。
 
あと声質がズルイ。これは1つの才能ですね。
 
 
で、冒頭の気仙沼の話しでも触れましたが、こんな養育支援のデジタル化、ビッグデータ化なんて、今の日本社会で予算がつくとは到底思えないんですね、残念ながら。
 
成田氏が、講演の最後に、
「22世紀型EBPMは忘れた方がいい」
クリスマスでサンタさんに壁を壊してくれる巨人をお願いしたい」
と最後の最後にユーモア的にボヤくほど、行政の様々な壁は本当に強固で頑固だから。
 
 
 
ただ、僕の働く地域は「デジタルスマートシティ宣言」していて、日本や世界にモデル発信とか言ってるので、ワンチャンないかな、というのが僕の更なる妄想。
 
デジタル化とビッグデータ化を考えたら、例外的な外れ値の集合体である"虐待初期対応"より、子育ての平均値を集められる"養育支援"の方が絶対相性はいいはず。
 
さらに、虐待に至る前の養育支援である虐待予防をガンガンした方が、虐待ケースの減少と経済的・医療的・支援的コスト削減になることは算出しなくたって明白。
 
ロジック的にはそうなんですけど、やっぱり行政の壁はかなり厚そうなんですよね〜。
 
とはいえ、小泉純一郎元首相やトランプ元大統領みたいなリーダーが「○○ぶっ壊す」とか言ってボコボコに壁を壊して、中にいる人が必死で抵抗して、内部対立が生まれて、みんなボロボロになって。
 
果たして、そんな"進撃の巨人"の出現が望む未来なのかと言われたら、正直わからないです。
 
 
何の話かよくわからなくなってきましたが、唯一わかったことは、「リラックスした非日常はとても創造的で妄想的になれる」ということです。
 
コラム執筆中は、子育て完全放棄でしたし(苦笑)
 
こんなことはしばらくないと思うので、GWの間もう少し非日常の妄想を楽しもうと思います。
 
最後までお付き合いありがとうございました。
 
GW空けて、日常生活に戻ったら、ボチボチ本の紹介の続きも書いていきます。
 
ではでは。