LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第24回】多職種連携に必要な能力

メンバーの皆さま


おはようございます。管理人です。


お盆休み、いかがお過ごしでしょうか?


僕は昨日、朝から休日出勤だったのですが、電車の混み具合が凄かったです。久しぶりに静岡〜浜松の1時間15分オール立ちっぱなしでした…帰省ラッシュ恐るべしです。


帰りは帰りで、電車中に袋井花火大会行きの楽しげな浴衣姿で溢れてますし…そんな僕はコラムに現実逃避を求め、サクサク執筆が進んでしまったというわけです。


で今回は、仕事関連で「多職種連携」について調べていたら偶然見つけた、こんな報告から。


『医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー』(2016)http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/mirai_iryo/pdf/Interprofessional_Competency_in_Japan_ver15.pdf


序文に「この資料は、日本における医療保健福祉分野の多職種連携教育および実践における、職種を超えた共通コンピテンシーについて包括的に記載している」とあり、児童福祉やLSWのチームアプローチや多職種連携を考える上でも非常に参考になります。

 そして「この資料は無料で、その一部ないしは全体を査読、要約、複製、翻訳してよいが、商業目的で用いたり、販売したりしてはならない。使用時には適切に引用を行うこととし、改変した場合にはその旨がわかるように記載を行う…」とあるので、遠慮なく引用して紹介しようと思います。


僕なりに単純要約すると「自分の役割をしっかり自覚して全うして、異職種への理解を示し、協働のための対話を深める」といった感じですが、興味ある方は是非、原文で読んでみてください。


●内容紹介

◆日本における多職種連携の教育

まず「本邦での多職種連携教育は、未だ黎明期にある」とのこと。現状説明として「医療保健福祉の各専門職は、各自の専門性の確立と社会化に力点を置いた教育を受け、連携に関する教育内容や方法は軽視されてきた」「大学ではセクショナリズムが浸透し、他の学部と協働の学習機会を作ることは難しい状況が続いた」と単一の職業アイデンティティを高める(◯◯士の立場や地位を高める)教育や縦割り教育の弊害的状況が説明されています。

また「日本は高コンテクスト文化であり、 阿吽の呼吸が重視されるなど、チームと連携という概念の違いが顕在化していない」と本コラム的に言えば日本人の即興性に頼った日本の連携状況も指摘しています。


「そこで本プロジェクトでは、専門職の連携協働を円滑に進めるための能力のなかでも、特に協働的能力に焦点を当て多職種連携コンピテンシーを開発した」ということです。以下に説明を加えていきます。


コンピテンシーとは

コンピテンシー(Competency)とは「専門職業人がある状況で専門職業人として業務を行う能力」。「知識、態度、技能全てを含む包括的かつ永続的な能力」で、それは「もって生まれた能力ではなく、学習により修得し、第三者が測定可能」なもの。


また似た言葉コンピテンス(Competence)は「特定の文脈で、複数の領域あるいは行動(パフォーマンス)の側面を統合した能力」とのこと。


◆多職種連携能力のコア・コンピテンシー

Hugh Barr によると、多職種連携能力には 3 つの基盤となるコア・コンピテンシーがある 。(図は原文を参照)

①他の専門職と区別できる専門職能力(Complementary)。例:医師にとって診断や治療選択する専門能力。

②全ての専門職が必要とする共通能力 (Common) 。例:医療保健福祉に共通する価値観。患者や利用者へのコミュニケーション能力。

③他の専門職種と協働するために必要な協働的能力 (Collaborative) 。

Hugh Barrは「これらの3つの能力が備わることで、専門職間の連携協働が円滑に機能する」と。

そして今回の「多職種連携コンピテンシー」は、この中でも特に③に焦点を当てて、以下に説明する文化的背景を考慮して作成した、とのことです。


コンピテンシーの国際比較

・多職種連携コンピテンシーは「保健医療システムや文化的背景から国によって記載が異なる」とあります。つまり、文化的背景によりコンピテンシーで重要視される要素(言葉)の重み付けが違いがあると。

例えば、

〜カナダでは「協働的リーダーシップ」を一つの領域として用いており、患者/利用者中心の領域ではパートナーという言葉も使用され、英国ではパートナーシップという言葉が頻出する。一方、米国・オーストラリアではリーダーシップやパートナーシップという言葉はあまり使用されない。

〜「リフレクション (省察)」は英国とオーストラリアではみられるが、他国のコンピテンシーではみられない。

〜「患者・利用者中心」という言葉は国によって位置づけが異なっており、カナダやオーストラリアでは多職種連携の中核として位置づけられているが、それ以外の国ではコンピテンシーには含まれていない。「患者・利用者中心」をコンピテンシーに含まない国では、価値観や倫理という言葉で代用している可能性がある。

〜「コンフリクト解決」は、カナダおよびオーストラリアでは一つの領域として使用している。


そこで、日本では文化的背景を考慮してどのような言葉を使ったら良いか検討したというのが以下です。

◆日本におけるコンピテンシー

〜各国で共通して用いられている「職種理解」「コミュニケーション」は本邦のコンピテンシー領域でも中核を占める可能性がある。

〜プロフェッショナリズムの議論が進行中の日本で「専門職の価値観や倫理」という言葉を用いるか、「患者・利用者中心」という言葉を明示的に使用し、その中に連携の価値観や倫理を含めることにするかは議論が必要。

〜「チーム」という言葉は、大病院や在宅医療では、特定のメンバーからなる「チーム」より、専門職との流動的な連携が必要となる場面も多い。「チーム」と連携との相違が顕在化されていない日本では、そのまま「チーム」という言葉を用いてよいか、慎重な議論が必要。

〜「リーダーシップ」「パートナーシップ」「リフレクション (省察)」は、英語とその日本語訳とで意味やイメージが異なる可能性があるため、英語あるいはカタカナで表現するか、日本語表記を用いるか、 特にコンピテンシーの活用が期待される現場からの意見が求められる。

〜英国で用いられている「異文化理解能力」をコンピテンシーの一つとして用いることは、異文化理解という言葉が国際理解と同義で使用している場合もあるため、国際的な異文化理解だけを取り扱う能力のように誤解されてしまい、混乱を招く可能性がある。また、比較的単一⺠族と意識している日本の医療保健福祉職の中で職種の文化の違いで「異文化理解能力」を使用することの違和感も予想される。


そのような検討の上で出来たモデルがこちら。

協働的能力としての多職種連携コンピテンシーモデル(図は原文を参照)

● コア・ドメイン(中心・核となる領域)

患者・利用者・家族・コミュニティ中心: Patient-/Client-/Family-/Community-Centered

患者・サービス利用者・家族・コミュニティのために、協働する職種で患者や利用者、家族、地域にとっての重要な関心事/課題に焦点を当て、共通の目標を設定することができる。

職種間コミュニケーション:Interprofessional Communication

患者・サービス利用者・家族・コミュニティのために、職種背景が異なることに配慮し、互いに、互いについて、互いから職 種としての役割、知識、意見、価値観を伝え合うことができる。


○ コア・ドメインを支え合う 4 つのドメイン

職種としての役割を全うする:Role Contribution

互いの役割を理解し、互いの知識・技術を活かし合い、職種としての役割を全うする。

関係性に働きかける:Facilitation Relationship

複数の職種との関係性の構築・維持・成⻑を支援・調整することができる。また、時に生じる職種間の葛藤に、適切に対応することができる。

自職種を省みる:Reflection

自職種の思考、行為、感情、価値観を振り返り、複数の職種との連携協働の経験をより深く理解し、連携協働に活 かすことができる。

他職種を理解する:Understanding for Others

他の職種の思考、行為、感情、価値観を理解し、連携協働に活かすことができる。 



●コメント
まず「コンピテンシー」という言葉が見慣れないので、途中で「あれ?どういう意味だっけ」と何度も見返してしまいました(苦笑)

それにしても、国や文化的背景により多職種連携を遂行する力(コンピテンシー)の要素の重み付けが違うというのは非常に興味深いです。

まぁそうだろうな、と想像的には思っていましたが、「連携」や「チーム」の概念の文化差について、このような報告書を僕は初めて見たので、とても面白かったです。

結論的には「多職種連携コンピテンシー」って、文化的背景を考慮した自己理解と他者理解、お互いの価値観を尊重した異文化交流?正直、読んでる途中から「今までコラムで取り上げてきた事と同じだよなぁ」と思いました。

ということは「あいまいな喪失」や「未完の感情」へのケアやレジリエンスの理解を深めると、結果的に「多職種連携を遂行する力(コンピテンシー)」も高めることになりそうですね。これは、なんだかお得な気分になる情報です。

クライエントであれ、異職種であれ、違った文化や文脈を持った人と対話交流していく点においては共通しているので、当たり前と言えば当たり前ですけど。

近接境域の医療保健福祉分野で、あれだけの数のドクターが集まったプロジェクトの中で、コラムと似たような事がきちんと真剣に議論されていると思うと、非常に励まされますし、同時に同じような視点を持つ人が他にいることに安心しました。


●ちなみに
紹介したプロジェクトのスライド(春田、2016医療推進協議会)もウェブに上がっています。
報告書にない情報も若干載ってますし、僕みたいな視覚優位の方にはわかりやすくてオススメです。

ではでは。