LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第139回】心理職の役割と現実のギャップ

こんにちは。

 


本格的に梅雨入りし、スッキリしない天気

が続いている今日この頃。

 


仕事的なやりとりで、スッキリしない気分

が続いている管理人です。

 


皆さまは、いかがお過ごしでしょうか。

 

 

そんな季節に、紹介する図書はこちら。

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ご存知の方も多い、日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)の学術雑誌の最新刊です。

 

 

 

ざっくり内容をまとめると、

 


虐待を扱う分野における心理職への期待は、

①心理教育、②コンサルテーション

 


言い換えると、

虐待やトラウマの心理的影響について、

・チーム内の他職種に事前説明(心理教育)

・相談者に起きている事を共有(コンサル)

 


をして当事者にも支援者にもトラウマインフォームドケアの考え方を広めていきましょ!

 


と言う事かなと。

(もちろん他にも色々と書かれていますよ)

 


ただ、児相、市区町村、病院、施設、里親支援どの分野においても概ね似た内容が指摘されていたのが印象的で、改めてトラウマケアの時代なんだなと感じました。

 

 

 

虐待を扱う以上はトラウマの扱いは避けて通れないですし、その過程で支援者の二次受傷(傷ついた人に関わる支援者が負う傷つき)は必ず起きるんですよね。残念ながら。

 


言い換えれば、支援者の二次受傷が大きければ大きい程、相談者が負っているダメージが大きいという事なのですが、支援者も人間ですし、まず支援者が守られることも重要になってくる。過去に自分がやられたから他人を傷つけていいという事にはならないので。

 


対応は「肉を切らせて骨を断つ」と言いますか、クライエントの虐待的な対人パターン(支配ー被支配関係)の変容に取り組むには、「お前もどうせそうなんだろ!」と“試し行動“的に挑発しかけてくる相手に、「そのパターンは知ってる」と間に受けずひらりひらりと調整的やりとりしていくと、「何かコイツは違うな」「ちゃんと話しを聞いてくれるぞ」となって、相手の防衛的な攻撃性が減少していく。

 


こんな見通しや心構えを支援者側が持てているか、もしくは支援者を支える人(同僚やSV)が気づかせてあげられるかで、相談者との関係はもちろん、支援者のメンタルヘルスが全然違ってくることは言うまでもないですよね。

 


こんなトラウマあるあるを職場で事前に共有しておいたり、面接の振り返りやケース会議等で「あの人は○○という経験があるから、他者から責められるのが不安で攻撃的になっているんだと思いますよ」と話し合ったりすること、これがトラウマインフォームドケアの普及であり、虐待分野の心理職に期待されている役割かなと思います。

 


また、

 


LSWにおいても、虐待やトラウマを受けた過去の扱いをどうするのかは、頭を悩まされる問題ですよね。もちろんトラウマだけでないですけど、目に見えない心理面の影響について、他職種にわかりやすく説明して、支援者や支援チームに安心感を与えるような存在、心理職がそんな貢献をできるといいなぁ。

 

 

 

そんなことを思いながら、雑誌の記事を読んでいた訳ですけど、以下は現実の話し。

 

 

 

スッキリしない“もやもや“エピソードです。

 

 

 

 


最近ですね、

 


関係機関(学校、病院、施設、警察等)から

 


心理検査結果を教えてください!」

心理検査を早く取ってください!」

 


と言われることが割とあります。昔もありましたが、最近より増えた印象があります。

 


まぁ心理職以外の方にも「心理検査というものがあって、どうやら役に立ちそうだ」と認識されてきたと言う事なのかもしれません。

 

 

 

回答としては、まぁ個人情報なので、

「本人や保護者の了解があれば」とか、

「正式な依頼文章があれば回答できます」

 


という感じにはなるんですけど、

 


「やった検査の種類、全部教えてください」

 


とか聞かれるパターンもあって、

 


(名前だけで何の検査かわかるんかな?)

(そもそも、それ知ってどうするの?)

 


と思いながら、

 


「WISC-Ⅳ、バウム、人物画、TSCC-A、PARS-TR、ADHD-RSと…」

 


って検査名をツラツラと答えるとですね、

 


「よく分かんないんで、WISCだけ」とか、

「数値が出る検査だけ後で教えてください」

 


という返事が返ってくることが、偶然では

片付けられない程の色んな場面で出くわすんですよ。

 


で、何回も対応したおかげで、"ある法則"を

発見してしまったんです。

 

 

 

それは、

 


心理検査=知能検査」

心理検査=WISC」

 


と、思われがち。ということ。

 

 

 

これがどのような誤解かと言うとですね、

 


「外国=欧米」

「外国=アメリカ」

 


みたいな感じ。認識に癖あり過ぎというか、

メチャクチャ偏りがありますよね。

 

 

 

そんなバカなと思う方もいるかもしれませんが、これが起きているのが現実なんです。

 

 

 

TVの海外ニュースは、欧米、中露ネタがほとんどですが、世界にはスポットライトが当たらない色んな地域が世界にはありますよね。

 


心理検査も同様です。WISCばかりにスポットライトが当たっていますが、WISCでわかることには限界があるし、むしろ心理状態そのものは知能検査ではわかりません。

 


知的能力はその人が生きる世界を知るための重要な手掛かりのひとつではありますが、それは多くある要素の一部に過ぎないです。

 


誰しも、それまで歩んできた歴史(生育歴)があり、その積み重ねや連続性の中で今の心理状態や認知傾向が出来ています。その心理状態や認知傾向を知ることも心理検査の重要な役割で、その歴史の積み重ねと現在地の「材料」があって、その人がこの先どういう歴史を刻んでいく事がいいのかという将来について考えることが出来ると、僕は考えています。

 


これはLSWの支援にも通じるというか非常に近い考え方かなと個人的に思いますが。

 

 

 

しかし、実際の支援の現場において、

 


目に見えない、数値化もできないような心理的要素には、あまり重きを置かれなかったり、重きどころか、そんなよく分からないことに配慮した対応なんで出来るかという反発すら受けかねない、そんなことが現実にあると思います。

 


補足すると、

 


そのような心理的配慮を否定しようとする人ほど、トラウマ(二次受傷)のダメージが重いと言うか、他人の感情を扱う以前に、自分自身の感情を扱う余裕がない場合が多いと僕は理解しています。

 


逆に健康度の高い方ほど、その職種に限らず相手の心理面の話しについてすんなり理解してもらえる、そんな印象を持っています。

 


支援者自身の状態や健康度が、いか「対人援助において重要かを表す良い指標かもしれません。

 

 

 

 

 

 

話しを戻すと、

 


前半紹介された「心理職に期待される役割」

 


つまり、目に見えない心理的影響やクライエントの心理状態の見立てについて、他職種にわかりやすく伝えて共有する役割ですが、

 


後半のエピソードからわかる通り、「現場では、そんな期待されているとは限らない」という事。

 

 

 

それは言い換えると、

 


他職種に心理職が何ができるか十分理解されていなきから、わかる範囲での期待しかされない場合が多々ありますよね、と。

 


当たり前と言ったら当たり前の話し、決して

心理職に限った話しではないですよね。

 


心理職が関わると面倒臭いし…ではなくて、

期待されているだけ、だいぶマシです。

 

 

 

なので、心理職が、

 


児童虐待分野における心理教育やコンサルテーションの貢献をしようとするなら、

 


トラウマの知識や見立てを伝える以前に、

 


まず「心理職はそのような事が出来ますよ」という共通認識を周囲に持ってもらうための宣伝活動や営業活動を一生懸命やる必要があるだろうな、と。

 


相手のニーズが無いところに訴えかけても、

ただの押し付けになってしまったり、偉そうにものを申しているように相手側が受け取ってしまいますから。

 


そんな必要がない文化が醸成されている職場は、きっと前任の心理職の方々が、そういうベースの耕し作業を地道に頑張ってくれたんだと思います。

 


また心理職は配置人数が少ないので、良くも悪くもその職場にいる心理職個人のイメージが、職場全体の心理職イメージに結びついてしまう側面がありますね。構造的に。

 


日常の影響の大きさと言いますか、先ほど例に挙げた「心理検査=WISC」という方程式は、もしかすると身近な心理職の方からそんなイメージを刷り込まれている可能性だって十分ありますから。

 

 

 

日本で児童虐待問題にスポットライトが当たり始めたのが1990年後半以降ですし、もっと言えば日本でトラウマインフォードケアの重要性が言われ始めたのは、この10年くらいの話しで、まだまだ普及し始めの段階。

 


僕が学生だった約20年前に、現在知っているようなトラウマの話しを、少なくとも児童虐待に関するトラウマの話しを聞く機会はなかったですし、今リアルタイムの児童虐待対応の、更にはトラウマの話しをできる大学教員の方は日本でもかなり限られると思います。

 


つまり、

 


児童虐待に関わる様々な分野(行政、病院、施設、里親支援など)のトップランナー達は、心理職にはトラウマインフォームドケアの心理教育やコンサルテーションでの貢献が必要だし期待すると言いながら、心理職なら誰しも標準装備としてトラウマの知識を持っている訳ではないと言うのが現実だと思います。

 

 

 

なので、

 


他職種の方々が、心理職にトラウマインフォームドケアの心理教育やコンサルテーションを期待しないなんて当然と思いますし、逆にそんなこと依頼されても出来ないし困ります、という心理職の方も相当いらっしゃると思います。

 


サッカー選手でも足元のテクニックに長けている選手もいれば、足の速さや運動量を売りとしている選手がいるように、心理職でも得意不得意分野がありますから。

 


でも、児童虐待分野に関わるならトラウマのことは学んで貢献して欲しい、これが始めに紹介した雑誌の筆者の方々の想いではないかなと思う訳です。

 

 

 

 


そして、最後に、

 

 

 

何を話したのではなく、何が伝わったのか。

 

 

 

他職種の状態や認識を見立てた上で、他職種の方にとって、そしてその方が対応するクライエントにとってプラスになるような声かけを、タイミングを測りながら、説明の長さや内容を調整して伝える配慮が現実求められます。

 


これはカウンセリングでも、心理教育でもコンサルテーションでも、もっと言えば営業や教育でも、相手に何かを伝えるということはそう言う事なんだと思います。

 


相当手間ですけど、実際そうですよね。

 

 

 

なので、

 


トラウマインフォームドケアへの貢献。

 


言うは易し、やるは難し。

 

 

 

心理職の役割と難しさについて、考えさせられる今日この頃でした。

 

 

 

ではでは。