LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第91回】「LSW」×「パターン・ランゲージ」の可能性

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
今回は、久しぶりの書籍紹介です。
(ホントに長らくぶりですね)
 

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7/20に出版されたばかりのこの本。
 
冒頭には、本書の特徴について、
 
“「オープン・ダイアローグ」と「パターン・ランゲージ」という2つの実績のある方法を組み合わせることで、対話の本質を理解し、その力を磨くということができる確かなかたちでまとめられていることです”
 
と説明されているように、コラボ作品。
 
オープン・ダイアローグについては、すでに、
【第86回】オープンダイアローグ対話実践ガイドラインhttp://lswshizuoka.hatenadiary.jp/entry/2018/06/15/074852
で紹介したのでソチラを参照いただくことにして、今回の注目は、太字にした後半部分「パターン・ランゲージ」というまとめ方について。
 
 
本書によると、パターン・ランゲージは、
成功している事例やその道の熟練者に繰り返し見られる共通パターンを抽出し、抽象化を経て言語化することで、よい実践の秘訣を共有するための方法」
 
と言うこと。
 
 
 
おや?
 
 
 
 
コラムを以前から読んでいる方ならピンと来たかもしれません。これって、以前のコラム、
【第24回】多職種連携に必要な能力
【第58回】奇跡のレッスン「答えは"波"が知っている」(※なぜか最近アクセス急上昇)
 
で取り上げた『コンピテンシー
・1970年代で米国で生まれた、仕事のできる人(ハイパフォーマー)の行動特性を分析して、人事評価や人材育成に活かすマネジメント用語
 
の発想と非常に似てますよね。
 
 
さらにパターン・ランゲージは、その良い所取りの抽出方法というか、上手な人の「コツ」をみんなで共有しやすい形に情報整理して名前をつける「やり方」を体系化したのも、と言ったところでしょうか。
 
 
本書は、オープンダイアローグの肝となるような「キーワード30」が表紙のような可愛いイラスト付きで見開き1ページにつき1つずつ説明されているような構成になっています。
 
 
直感的にわかりますし、何より短時間でサラッと読める。
 
 
パターン・ランゲージは、もともとは1970年代に建築家クリストファー・アレグザンダーが、住民参加型のまちづくりの支援のために提唱した方法のよう。
 
彼が目指したのは、都市計画がトップダウンで決められるのではなく、建物や街のデザインに繰り返し現れる法則性(パターン)に共通言語をつくり、誰もがデザインのプロセスに参加できる自分たちで自分たちの街をつくることを可能にすることだったようです。
 
この発想自体が非常に「ダイアローグ(対話)」的で「市民協働」的ですし、建築やデザイン業界の発想と、精神医療からのオープンダイアローグが、このように業界の垣根を超えてコラボしているもの興味深いです。
 
 
 
加えて、本を少し引用すると、
 
〜実践領域の多くでは、理念とマニュアルの間をつなぐ言葉がありません。このつながりは、その文化に長くいる者には見え、体現できるものの、経験の浅い人には大変難しく、理念に則った日々の行動を行うことはなかなかできません。
 
なのでパターン・ランゲージは、理念とマニュアルの「中空」を結ぶ、抽象的すぎず具体的すぎない「中空の言葉」ということ。
 
 
これ、すごく面白いです。
 
 
対人援助って、マニュアルやプログラムの台本通り読み上げればいいってものではない最たるものだと思うんです。
 
事前の打ち合わせの通り、指示通り、決まったマニュアル通りに言おうやろうとするがあまり、目の前の人との対話がおろそかになって「痛い」思いをした経験は、少なからず誰しもあるのではないでしょうか。
 
組織や上司の「指示」とクライアントの「要求」の板挟み状態です。このコッチを立てればアッチが立たずの葛藤で悩むことってホント多いですし、大概そうやって支援者はクライアントに試されることばかりですよね。
 
そして「対話」は生き物なので、相手の反応や応答を無視した一方的なやりとり、打ち合わせ通りの理屈のゴリ押しは結局うまくいかない事を、私たちは直感的に知っています。
 
かと言って、抽象的な言葉が並んだ理念だけで「あとは気持ちだ」「見て学べ」「その場に合わせて考えろ」と本人に丸投げの人材育成もいまや通用しないというのは、現場の方々はよくご存知かと思います。
 
そこで、暗黙的な知識・情報を組織で蓄積するために、どのように記述し共有するか。
 
そんなかゆいところに手が届く、このblogのテーマそのものに手をつけたのが「パターン・ランゲージ」。
 
それは「これをこの手順でやるべきだ」という1つの大きな枠にはめ込むマニュアルやハウツー本とは違って、「いまの自分のやり方をベースとしながら、少しずつ拡張していくことの手助け」をする、各自の現状を肯定しながら成長していくためのクリエイティブ・メディアであると。
 
これ、離職率の高い児童福祉分野(もちろんそれ以外でも)で求められる人材育成の方法そのものではないでしょうか。
 
 
例えば、ひと昔前の経験の共有や伝承って、先輩の酒に付き合って、ありがたいお話しをダラダラ聴きながら、自分でコレぞという話を見つけ出して自分なりに咀嚼して活かすなんて形だったと思うんです。
 
だけど「パターン・ランゲージ」は、その大事なポイントだけギューっと凝縮して、キーワードで直感的にわかり即座に共有できる形にまとめてくれる。
 
昔の人からは「苦労は買ってでもしろ」「そんな甘やかすな」なんて言われそうですけど、入れ替わりが激しくて3年目くらいで後輩を育成する中堅扱いされる職場では、もはや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないと思うんです。苦労しているうちに辞めちゃいますから。
 
新人にはいち早く「コツ」を掴んで、いち早く「戦力」として活躍してもらわないといけない、というかロクな武器も持たされずに現場に放り出されている、というのが多くの現場の現状ではないでしょうか。
 
平成27年7月1日から虐待相談ダイヤル「189」(いちはやく)が開始されて約3年が経過しましたが、それに対応する人員確保、人材育成だって「いち早く」ですよね。
 
そもそも苦労して周囲のフォローなければ3年もせずに辞めるのは当たり前だし、この少子化の時代に替わりの人なんて簡単に見つからないですから
 
 
 
ちょっと最後は脇道に逸れてしまいましたが、施設の小規模化や里親委託推進の流れで、より支援者同士の対話の機会が減ってしまうだろう時代には、LSWにも経験を共有しやすく理論とマニュアルの間をつなぐような「パターン・ランゲージ」は必要であることは間違いないし、非常に役立ちそうな匂いがプンプンします、という紹介でした。
 
ちなみに、パターンランゲージをもっと詳しく知りたい方は、以下のサイトもオススメです(事例や動画も紹介されて本当にわかりやすいです)。
 
・パターン・ランゲージの情報サイト
 
Cocooking:パターン・ランゲージ事業
 
 
ではでは。