LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第113回】対話文化とチームの調整力

みなさん、こんにちは。

冬季北京オリンピックも残すところあとわずかですね。

日本時間の夜にやってる競技は、なるべくリアルタイムに観戦したいなーと思ってTVを付けるのですが、22時、23時と夜が更けるうちに意識がウトウト…。

カーリングの大事な終盤に決まって記憶が途切れ…、気がつけば勝敗が決している(日本の大逆転劇を見逃す)ということを連日繰り返しております。

ちなみに最後まで見終えたカーリングの試合は未だゼロ。決して内容がつまらない訳ではないんですけど、なぜなんでしょう(苦笑)。

ありがたいことに、カーリング女子は決勝まで勝ち上がったので、「決勝だけはラストまで見届けたい!」と思う今日この頃。


そんなこんなで見事、決勝進出をはたしたカーリング女子日本代表「ロコ・ソラーレ」。今回コラムで取り上げるのは彼女たち。

皆さんご存知の通り、ロコ・ソラーレは前日の予選最終戦で敗れたスイス(予選1位)を準決勝で破っての決勝進出だったのですが、

「大大大金星!カーリング女子、決勝進出」

と各紙が報じている中、準決勝が行われる前に
「ワールドチームランキングでは力は拮抗」
「短期間に2回戦うと、二連敗より一勝一敗となる確率が高いのでは…チャレンジャーで臨めるのも追い風」
「勝率は60%くらい」
と予想していたキレ者の解説者がいます。

それがこの記事。

本気で敗退と勘違い→大喜びの「2度の涙」藤澤五月も吹っ切れた? カーリング解説者・金村萌絵「決勝トーナメントにピークがきた」

(Number web 2022/2/18)

とりあげたい記事の内容は2点。
苦しい展開になっても悲壮感を漂わせないチームの精神的強さ、リスク管理の高さ
②藤澤選手は「うまく周りを頼れるようになった」


「準決勝の前に『今日の課題は鬼コミュニケーション』と話していた」という報道も一部でありますが、おそらく「鬼コミュニケーション」とはドーピング問題で物議を醸し出している女子フィギュアROC(ロシア)の鬼コーチみたいなことではなくて、試合中にメチャクチャ話し合いをしようということ。

きっとチーム内で、準決勝で外したら負けという絶体絶命のプレッシャーがかかる危機場面があるはずだから、という話し合いがされていたはずです。

そんな危機場面を想定した話し合い、そして危機場面に直面した時にしっかりとした話し合いができるチーム作り、深掘りしたいポイントはそこです。


記事で紹介されていた危機場面と対応はこんな感じ。

〉第7エンドのラストショットの直前、少しミスが続いていたスキップの藤澤五月選手が「そろそろ決めたい!」と言ったときに、吉田知那美選手が「さっちゃん、時間あるから大丈夫だよ。ゆっくり投げて」と声をかけましたよね。そこで藤澤選手が2点をとるショットを決めると、吉田知那美選手は「あはははは!」と大笑いしていた(笑)。16日のアメリカ戦でも、第7エンドに4失点して追いつかれた場面について、藤澤選手が「明るい言葉をかけてもらって救われた」と話していました。そうしたところからも、彼女たちの結束の強さがよくわかります。


これって、吉田選手の人柄の良さを紹介するエピソードでしょうか。無論、それだけではないという話しです。

それは、当時「チーム青森」で、2006トリノ五輪(7位)、2010バンクーバー五輪(8位)で女子カーリングブームを引き起こしたマリリンこと本橋麻里ロコ・ソラーレ代表が、2010年のバンクーバー五輪後に地元の北海道でチーム「ロコ・ソラーレ」を立ち上げる経緯にまで遡ります。


詳しくは、2018平昌五輪の時に「ロコ・ソラーレを取り上げたこちら↓

【第71回】もぐもぐタイムにみる「チームの土台」
(自分で読み返していて途中で飽きてしまう長編です)

を参照いただきたいのですが、2006トリノ五輪後、「チーム青森で次のオリンピックまでの4年間ガチガチの強化スケジュールで望んだ2010バンクーバー五輪本橋選手がプレッシャーで普段の力が発揮できなかった目の前で、一年間公式戦出場がなかった前回トリノ女王スウェーデンがバンクーバー五輪で見事連覇。そんな彼女たちの「調整力」と「マインドセット」を見て、今のままでは五輪で勝てないと立ち上げたのがコロ・ソラーレ。

当時のスウェーデン選手の中には、トリノ五輪後に出産・育休を経て復帰した選手もいたとのことで、とにかく自分の人生を大切に、自分らしくということを普段から実行していて、そんな彼女は連覇がかかった大舞台で、とても楽しみながら普段通りプレーしていたと。

そんなチームを目指して本橋選手がゼロから立ち上げたチーム「コロ・ソラーレ」に託された想いを、当時18歳だった藤澤選手、吉田選手(現在30歳)が見事に引き継ぎ、女王スウェーデンが見せた「調整力」北京オリンピックの大舞台で体現し、ついに明日、金メダルに挑む、ということなんです。

話しをLSWに近づけると、準決勝前に打ち合わせた鬼コミュニケーション=危機場面で対話する能力って、虐待が関わる児童福祉分野にとても通じる能力ですよね。

フィンランド生まれの「オープンダイアローグ」がまさにそんな感じだなぁと書きながら考えていましたが、「ロコ・ソラーレが目指したチームが北欧のスウェーデンというは偶然ではないと思います。

スウェーデンは女性の労働率が70%を超えていますし、男性育休が必須になっているのは有名ですよね。

前回コラムでは、国家の家族政策がその国の「社会的養護」の形にかなり反映されているということを紹介しましたが、家族政策の形って、スポーツ文化、チーム文化にも表われるな、と世界大会を見ていると感じます。

対話文化が浸透している北欧と、国家権力の圧力が強いロシアの文化差が色濃く露呈したなぁ、いうのが今回の北京オリンピックについての僕の感想です。

何が言いたいかと言うと、危機場面での対話、危機場面に向けたリスク管理の対話というのは、どちらか一方を責めるという構図になりやすいので、本当に簡単なことでないし、その道のりはとてもとても長いということ。

対話文化をチーム内に浸透させて醸成し、自身と相手の感情に気づいてコントロールするトレーニングを重ねて、ようやく本番でチームの誰かが気付いてできるもの。

ミスが続いて焦る気持ちの藤澤選手に、吉田選手がそっと声をかけて、笑ってあげる。誰しもが余裕がないときには出来ないよね、だから、誰かが助けるね。

そんな事前の話し合いや信頼関係がないと、指摘されたことに怒ったり、余計にムキになったりってこと、現実場面でよく起こります。

なので、ロコ・ソラーレの精神的強さ、あえて「精神的しなやかさ」と言い換えますが、ガチガチに固めた強さではなく、しなやかでゴムのような柔軟で耐久性の強い感じ。それって、レジリエンスと呼ばれる倒れてもまた起き上がる力に通じるな、と思います。

そんなチーム文化を作り上げた本橋代表を本当に尊敬しますし、自分のチームもそんな風になれるように、これからも色々やっていかないとな、と刺激を受けました。


さて、明日の決勝の相手は、前回2018平昌五輪の覇者で連覇をめざす世界ランキング1位スウェーデンではなく、そのスウェーデンを準決勝に破ったイギリスに決まりました。

ちなみに日英対決は、前回2018平昌五輪の3位決定戦と同じ対決だそう。前回銅メダルをかけて戦った両者が、今度は金メダルを争うとのこと。


明日こそは、最後まで見届けられる…はずです。


ではでは。