LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第69回】おなはしオレンジリボン🎗

メンバーの皆さま
 
おはようございます。管理人です。
 
今更かもしれませんが『おはなしオレンジリボン』を皆さんご存知でしょうか?
 
虐待NO、アニメで学んで-滋賀発の無料サイト開設 県警とNPO、全国でも珍しい取り組み
 
高校生を対象にした出前の虐待予防の啓発活動で、そういった活動自体は多くの自治体のNPOが行なっているという話しは、ちょこちょこ耳にしていました。
 
しかし、驚くのが、この無料サイト開設の取り組みが「滋賀県警NPOが中心となって作成し、しかもDVDではなく、web上にYouTubeにオープンに公開されていること。
 
児童相談所ではなく、県警ですよ。
 
もはや児童福祉関係者のみならず新聞報道もされて世間でも周知の通り、虐待通告の「件数」をうなぎ上りに上昇させている大きな要因は、警察からの「心理的虐待」通告。
 
警察が夫婦喧嘩やDVで臨場した際に、その家に子どもがいれば「日常的な目撃の恐れ=心理的虐待の疑い」ということで、そのほぼ自動的に児童相談所に通告が来るというシステムになった途端に、爆発的に虐待通告件数が増えているという仕組みです。
 
少し想像力が働く人であれば、お分かりと思います。そのことにより、通告事案の書類を作る警察も、その後に調査訪問面接を実施し、報告書類も作成する児童相談所も、爆発的に仕事量が増えて業務時間が圧迫されて、今まで行って来た通常業務に支障をきたしつつあるのが今現場で起こっていること。だから各自治体で「警察と児相」の連携がホットな話題となっていますよね。
 
ちなみに、虐待対応の6段階(Krugman,1988
(1)虐待を存在することを認めない
(2)虐待の存在を認める
(3)子どもを分離・保護する
(4)加害者の治療に取り組む
(5)性的虐待に対応する
(6)発生予防に取り組む
 
を参考に考えると、90年代半ばまでは体罰容認でしたし虐待通告件数もわずか数千件だったところ、約20年で虐待通告件数は10万件オーバー、かつての10倍以上に膨れ上がっています。
 
僕はこれを90年代半ばまでの(1)の段階から、2000年前後からようやく(2)(3)の段階にスライドし、2010年頃から(4)(5)に本腰入れて取り組む自治体も出てきた、というような印象を持っています。
 
で(6)にスライドしていくのは2020年くらいだろうな、と思ってたんですが、まさか警察がやるとは。そして、このクオリティーとオープンにする太っ腹な態度にも驚きましたし、警察が本気出すとここまで出来るのか、おそらく使える予算規模が福祉やNPOとは全然違う。正直嫉妬するような取り組みです。
 
もちろん、このような事をするには、名プロデューサー仕掛け人がいて、さらに、それを理解して組織を動かせる優秀な人材が集まっているんだと思います。予防って、すぐに結果が数値になって現れないので、余程長期スパンで物事を俯瞰的に観れる経営者がいるタイミングでないと、なかなか単年度の予算で取るのは難しい。
 
このような支援の成果や結果がすぐには現れないし、数値化しにくいし、というのはLSWに通じると思います。機会があれば、是非、滋賀県警NPOの方にプロジェクトの立ち上げノウハウの話しをお聞きしてみたいですね。
 
と、最近は「経営」「仕組みづくり」の方に目が行ってしまいがちなんですが、動画内容にも触れておきます。
 
おはなしオレンジリボン
 
是非、動画を直接ご覧になって欲しいのですが、秀逸なのは1話が3〜4分とコンパクトにまとまっており、最後の1分ほどは[話のポイント]のおさらいまでしてくれること。物語の見せ方や構成、プレゼン方法はとても勉強になります。
 
あえてLSW的に注目する回は、No.7「お母さんと呼ぶこと」ですかね。再婚同士のステップファミリーで子どもが感じる葛藤、きょうだい間差別の状況が見事に描かれています。
 
さらにLSWに特化するなら、それ以前のストーリーとして、
①両親が離婚する前の両親の不和に挟まれ、どっちの味方につくのか思い悩む「忠誠葛藤」
②両親が離婚した時の家族や友人との突然別れや引越しによる「あいまいな喪失」
③そして新しい親(里親を含む)との生活の中で起こる戸惑いや新たな「忠誠葛藤」(前の親の悪口などなど)…。
それらの喪失や葛藤による感情抑圧や感情麻痺が続くことによって生じる、子どもの身体的精神的な不調や現れ、心情。
⑤「あいまいな喪失」がスッキリ晴れた時の、子どもの心情や反応。
 
この辺りをアニメにして、児童福祉にこれから携わる人や子ども本人と共有して話題にできたら、だいぶLSWの実施を検討するまでの支援の質が変わる気がします
 
ただ、トラウマやフラッシュバックのこともセットに加えないと、とにかく教えればいいと単純化されてしまうので、かなりの慎重さ緻密な構成が必要なので難しいとは思うんですけど…。
 
その辺りがクリアされて、LSWなんて単語すら使わずとも、喪失や悲嘆へのケアが自然となされることが本来は理想的な形だと、僕は思います。
 
阪神大震災PTSDが注目されて単語は浸透して早20年経ちますが、現在でのトラウマに対する理解度や支援体制が十分とは決して言えないと思います。
 
そう考えると、東日本大地震グリーフケアが少し注目されましたが、このような喪失体験へのケアが理解されて一般的に浸透していくには、あと20年は軽くかかりそうな気がしてしまいます。
 
なるべく浸透速度を速めることに貢献したいなぁ、とは思いますが、頭で思い描くことを現実に形にするまでには、本当に色んな手続きや段取り・障壁がありますよね。
 
そんなことを考えると、自分の手が届く範囲でできる事というのはほんのわずかだよなぁ、と思います。
 
僕の友人で大手建設会社の現場監督しているやつが、「1つの箱を作るのに3年〜5年かかる。仕事が形になる達成感はあるけど、一つ出来るたびに『定年まで作れるのはあと◯個かな』と考える」
と言っていたのを、ふと思い出しました。
 
これから定年が65歳まで伸びるとしても、残り30年で出来る事って、せいぜい2つか3つなんだろうな、と。そう思うと、現実的に出来る出来ないはタイミング次第でもあり、仲間に恵まれているかの縁や運も必要だな、と「おはなしオレンジリボン」を観てしみじみ感じました。
 
こんな仕事に携わってみたいですね。
 
ではでは。