LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第95回】ライフストーリーの「戦略的な共有」

メンバーの皆さま
 
つい先日までの暑さはどこへやら。
 
そして、また大型台風が来ているようですね。皆さま、お気をつけください。
 
最近は、締切に追われるものが重なっていましてblog更新が滞りがちですが、調べ物する中で、特に気になったものを簡単に紹介します。
 
 
strategic sharing」(FCAA)
 
 
ストラテジック・シェアリングとは、アメリカの社会的養護の当事者団体において、広く共有されている、フォスターユース(施設や里親で育った若者)のための、安全で目的性のある自分のストーリーの語り方ということ。
 
FCAAとは、アメリカの社会的養護の当事者団体
「Foster Care Alumni of America(FCAA)」
のことで、その団体が出している冊子がweb上にあるのをたまたま発見。
 
これを見て、昨年のJaSPICAN(子ども虐待防止学会)千葉大会で、日本のIFCA(International Foster Care Alliance)の方々が「ストラテジック・シェアリング」について説明していたと、参加した職場同僚が教えてくれたのを思い出しました。
 
冊子の分量は、写真も込みの内容で表紙合わせて12ページのコンパクトさ。全部英語なんですけど、シンプルな英文で読みやすい。色んなルーツを持つ当事者が読むことを意識して作られているのでは、と想像します。
 
「これくらいなら頑張って読みきろうかな」と思わせる絶妙な加減。最近はGoogle翻訳サイトが優秀で、本文コピペだけで即座に和訳してくれますので、気が向けば原文も是非チェックしてみて下さい。
 
 
「ストラテジック・シェアリング」を日本語にすると「戦略的な共有」という感じかと思いますが、核となる「戦略」が3つ挙げられています。
 
それは、
①「choose」 :選択する
②「connect」:つなぐ
③「clime」 :主張する
 
3つの頭文字がキレイに「C」で揃っていることに覚えてもらうことへの戦略を感じますよね。
 
僕なりの理解で簡単にまとめると、
 
【第1の戦略】choose
・自分の社会的養護での経験(ライフストーリー)を「なぜ共有するのか?」「誰とどこまで共有するのか?」その目的と範囲を選択すること。
 
【第2の戦略】connect
・聞き手と情報をどのようにつなぐか。
・「聞き手は共有した情報で何をしたいのか?」「観客、イベント、時間、場所は共有に適しているのか?」。聞き手のニーズと自分の目的の一致を確認したり、場の設定について計画すること。
 
【第3の戦略】clime
・自分の経験を主張すること。(日本で俗に言う「クレーム」とはニュアンスは違いますね)
・自分の経験に名前をつけて語るとき、聞き手はあなたが「あなたのライフストーリーの所有権」と「共有の選択権を取得したことを知る。
・また、共有の過程で起こっていることや感情に名前を付けて所有権を取ることも戦略的である。
 
そして、これらを考えて共有することが、効果的で安全な鍵となる健全な境界を確立するのに役立つ、と。
 
 
つまり「誰と・何を・いつ・どこで・どの程度・何の目的で共有するのか」を語り手が明確な意図を持って、戦略的に安全をコントロールしていくことなんだろう、と僕は解釈しました。
 
これはもはや「フォスターユース(社会的養護の出身者)」に限らず、自己開示をするあらゆる場面に共通して言えることだな、とも思いますが。
 
しかしながら、過酷な生い立ちを経験をしているかもしれないフォスターユースにとって、さらに語る場が安全が保障された一対一の面接場面ではなく、多数の聴衆の前でスピーチするような場面を想定すると、「場の安全」は自分自身で緻密に戦略的にコントロールする必要がある、ということなんだと思います。
 
個人的には「所有権(ownership)」という単語が印象的で、確かに「語りの内容」や「語りの場」を自分自身で選択できてコントロールできる感覚は、安全性や安心感においてとても重要ですよね。
 
フォスターユースはこれを自己コントロールしないといけない立場にあるのでしょうが、社会的養護いる最中の子どもとLSWを実施する際には、この「安全な語り」を担保しコントロールする役割は「支援者」にあるはずで、支援者は語りの場における安全性のコントロールについて、もっと戦略的になる必要があるんだろうなと、これを読んだ時に思わずにはいられませんでした。
 
割とこの辺の「安心感」って、非常に曖昧な主観的な感覚で、信頼関係を築くとか、話しやすい雰囲気を作るとか、その通りなんだけど、経験していない人にはイマイチ伝わらない感覚的な表現で説明されてきた気がするんですよね。
 
ただ、このストラテジック・シェアリングは、当事者自身が、安全で効果的に目的性のあるライフストーリーの語りをするために必要な戦略を、
 
①「choose」 :選択する
②「connect」:つなぐ
③「clime」 :主張する
 
にまとめてくれているわけです。これをLSWに活用しない理由はありません。つまり、子ども本人にとってLSWをする場やそのプロセスが「選択する・つなぐ・主張する」の要素を満たすように、支援者が配慮すればいいということ。
 
本人に語りたい意思を確認することはもはや当たり前と思うのですが、共有する目的、誰と何を何のためにどこまで共有するのか、子どもの年齢に関わらず、それを本人と対話の中で一緒に決めたり確認していく必要があると思うんです。
 
ストーリーの所有権は当事者にあるのだから。
 
こう思うと、ストーリーを語るための材料集めは支援者がするにしても、メインはその材料を本人がどう解釈し、どう語るのか、やはりそこに尽きるのだろうと。
 
その時、安全でない感じ(これを言ったら責められる、怒られる、幻滅されないかという不安)や、何でこんな事をしているのかという疑問(目的がわからない)がある状態では、語りの範囲はかなり制限されてきますよね。
 
そういう意味で、この冊子は「語る目的を共有する」重要性について、改めて気づかせてくれたし、今一度考えるキッカケをくれた気がしました。
 
 
ちなみに「ストラテジック・シェアリング」については、IFCAで和訳した冊子もあるようです。
 
機会があれば、じっくり読んでみたいですね。
 
ではでは。