LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第96回】語りの「場の設計」と「エンパワメントの獲得過程」

メンバーの皆さま
 
こんばんは。管理人です。
 
個人的な話しですが、今月から「学生」やってます。別に、仕事を辞めたわけではなくて、
【委託学生】
団体などが学費を支給し、教育機関に指導を依頼する学生。委託生。
 
という、仕事をしながら大学で研究をできる制度がありまして。週一で大学に通い始めたわけですが、10年ぶりの学生って、かなり新鮮です。
 
期間は来年3月まで(つまり半年間)なんですけど、卒論や修論を書いた経験のある人なら想像つくと思うのですが、スタート時点で大学4年・修士2年時の10月ですから、時間的には思った以上に厳しいです💦
(まぁ、知ってて応募してるんですけどね…)
 
ちなみに、研究テーマは「LSW」ではなくて、ざっくり言うと「連携・協働」について。とは言え、LSWはこれまで取り上げてきたように多職種多機関によるチームアプローチになるので、かなり活用できると思っていますけれども。
 
そんなこんなで、つまり何が言いたいかと言うと、
「学生の本分があるので、blog更新のペースが落ちます!」
という宣言的な言い訳なわけですけど、この間にも論文や書籍は読み漁ってますし、これまで扱えていないネタのストックは沢山あるので、今後もLSWのちょっとかゆいところに手が届くようなネタをボチボチのペース更新して行きます、しばらくはという事です。
 
 
で、ここからは本題。前回「Strategic Shearing:ストラジェック・シェアリング」という戦略的なライフストーリーの共有について触れましたが、今回はそれに関連するような論文を二つ紹介。
 
 
精神障害当事者にエンパワメントをもたらす公共の語りの場の設計 語り部グループ「ぴあの」の実践事例をもとにー (栄、2015
 
詳細は原文を読んでもらえればと思うんですが、この論文は題名そのままに、精神障害当事者が自身の体験を語る「場」を、どのようにして当事者をエンパワメントする場として機能させるかということを研究したもの。
 
この語り部がライフストーリーを語ることによって自身をエンパワメントする視点は、社会的養護当事者を対象としたLSWとも非常に重なる点が多いですし、何より「語りの場」の設定や比較を扱っている点は、僕にとって非常に斬新でした。
 
それを表にしてくれているのがコレです。

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(栄、2015より)

 
 
場の設定を「個人的・対人関係的・組織的」次元の三段階に分けて、語り手・聞き手の特徴やエンパワメントの効果について整理されている。
 
これ、非常にわかりやすいですよね。(そうでもなければ是非、原文を読んでみて下さい)
 
表のド真ん中にある「言いっぱなし・聞きっぱなし」の原則は、まさに静岡LSW勉強会の実践そのものですし、聞き手の態度(共感性)によって安全性や語り手の傷つくリスクが変化する点も見事に整理されていて、スッと腑に落ちました。
 
表右の「学校における教育講演会」における
・聞き手のニーズに即した内容
・語り手の一方向性
・社会的貢献の認識、自己統制感の向上
なんて項目は、かなり「Strategic Shearing」と重なってますし。
 
興味深いのは、「みんなの前」で話す前には、「一対一で聞いてもらえた安心感」があって「グループで認めてもらった自己肯定感」の積み上げ土台があって、はじめて大勢の一般の方の前でも語れるようになれるという事。
 
この辺りは続きの論文、
 
公共の場の語りによる精神障害当事者のエンパワメントの獲得過程とその特徴(栄、2017
 
の中で、わかりやすい図になってまして、

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(栄、2017より)

 
 
リカバリーできる自分を信じる」
 
 
素敵な言葉だなと。
 
表現を変えればレジリエンスということなんでしょうけれども、図の右側に積み重なっている「自分を大切にする」「学びあえる仲間ができる」「社会貢献ができる」なんて表現だと、一般感覚で染み込んできますよね。
 
 
改めて思うのは、この「場の設定」や「エンパワメントの獲得過程」って、結局は、養育者が自分を受け止めてくれる安全基地となって、一人遊びや二人遊びが出来るようになって、徐々に学校や一般社会へと世界を広げていくというアタッチメントや社会性の獲得過程となんら変わりはないということ。
 
言葉や切り口は変わるものの、人に関わる、人を支援するということの原則的なもの・本質的なものは、集約していくと似たものになるよなぁ、と思いました。
 
ではでは。