LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第72回】an・an流「思考の整理術」

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
気がつけば3月ですね。年度末ですね。時の早さは恐ろしいです…
 
僕は、4月はじまりの手帳を愛用しているので、2週間程前に来年度に向けて新しい手帳を買いに本屋に行ったんです。
 
すると、一際目立つ本が。
 

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その日はたまたま羽生結弦選手が金メダルを取った翌日だったんです。
 
そりゃ目に留まります羽生結弦SPECIAL】
 
 
ただ、目次を見てみると、オリンピック前の特集で、しかも羽生選手のインタビューや五輪種目の紹介なんかは雑誌後半に追いやられてる…。
 
で、メインの内容を見たら、ほぼ対人支援における心理教育(つまり相談者あるある)的な内容で、クオリティーが驚くほど高い!
 
これが[¥550(税込)]なんて信じられないコストパフォーマンス。思わず即買いしていまいました(笑)
 
ということで、今回はan・an[No.2089]より。【参考:目次】
 
 
まず表紙にもある通り、
 

新しい自分になるための、5つのワーク。

思考の整理術

[論理的思考を養う]
[キャパを拡大する]
[直感力を育む]
[視点を変える]
[発想のデザイン化]
 
え⁉︎、これ職員研修で、しかもある程度の実務を積んだ中級くらいで扱うレベルの内容ですよね。はい…
 
しかも、
・人に流されがち
・気持ちがパツパツでキャパオーバーしがち
・ひとつの考えに固執しがち
・言いたいことはあるのに相手にいまいち伝わらない
・考えがまとまらない
 
なんて、児童福祉現場の相談者(子どもや保護者)の状態そのものであったり、初任者はおろか余裕がなくなった中級〜ベテランの支援者でも結構陥りがちな状態ばかりです。
 
この辺りの凝り固まった思考や視点をほぐす書き込み式ワークがそれぞれ紹介されています。
 
しかも、そのワークの一部なんて、
 
 
「あなたが心地いいと感じる"椅子"を描いてください」
 
「3年後の理想の自分の姿を思い浮かべて、描いてください」
(→解説:未来の予想で、今やるべきことが見えてくる)
 
 
内容やエッセンス的には、トラウマ治療の前にやる「安全の場所のワーク」や、LSW、オープンダイアローグ(未来語りのダイアローグ)で使う質問とほぼ同じです。
 
サラッと書いてありますが、かなりハイレベル。
 
しかも、これはまだ序の口。次なんて、
 
 

不要な怒りやイライラとはサヨナラしよう。

怒り!の整理術

 

日本アンガーマネジメント協会代表理事安藤俊介氏によるリアルガチのアンガーマネジメントの話しです。
 
お題目だけ紹介すると、
STEP1】人はなぜ怒るのか?6大原因を知る!
・自分の心に余裕がないから
・自分の「べき」からは外れているから
・他人のせいにしているから
・事実と思い込みを混同しているから
・怒りが伝染しているから
・思い通りにいかないから
 
STEP2"怒り"を客観化しよう
"べき"3重丸のうち、"まぁ許せる"のゾーンを広げよう》
《「ストレスログ」をつけてみよう》
(自分にとって「重要↔︎重要でない」
自分で「変えられる↔︎変えられない」の整理)
 
STEP3】怒りを抑える行動をしよう
《すぐできる!6秒アクション》
①自分の心が落ち着く、魔法の言葉を唱える
②思考停止する
③口角を無理やり上げる
④目の前のものをじっくり観察する
⑤その場をとにかく離れる
⑥ツボを押す
 
STEP4】怒りを上手に伝えよう
《怒りを伝える時の心構え
①「気持ち」を伝えるのではなく、「リクエストを通す」ことを目標に。
②冷静に、「私」を主語にして伝える。
NGワードを使わない
(過去を持ち出す/思い込みの程度の言葉「絶対、いつも、必ず」/大多数の正しさの主張)
 
 
見事すぎて何も言うことがありません。是非、直接見てみてください。イラスト付きでワーク例も入っていて、下手な専門書より100倍わかりやすい。児童福祉に関わる相談者と対人援助職の人すべてに「an・an」配布してもらいたいです(笑)
 
 
全体の構成を少し臨床的な用語に変換すると、
→一般的な状態・認知傾向を知る(心理教育)
→→自分の気持ちから距離を置いて客観視する
→→→自分の感覚・気持ちをコントロールする
→→→→適切な形でアウトプットする
 
の順番でわかりやすく整理されているし、本コラムで何度も取り上げている、
 
       認知(あたま)
          /            \
    感情    ー    感覚
(こころ) (からだ)
 
のつながりの各方面からの説明も入ってますし、マインドフルネス的アプローチ、表情筋やつぼを使った身体アプローチにも触れられています。
 
そして最後には、
 
怒る基準は「伝えないで後悔するかどうか」
 
と感情を抑圧・我慢しすぎることの不健康さや、うまく気持ちを伝えるアサーション的な説明がしっかりとされています。
 
ここまででも支援者を対象に1日かけて研修するでも十分すぎる内容ですが、an・anは欲張りでまだまだこんなもんじゃ終わりません。
 
 
 

恋にも思考の整理が必要です。

いつもしんどい恋愛はこれが原因!

“執着心”をほどく実践ワーク

 
 
これ恋愛の体を取っていますが、内容は完全に依存や基本的信頼感、愛着(アタッチメント)の話しです。
 
例えば、
「執着してる」ってどういう状態?
→支配したい/周りが見えない/見張っていたい
 
・いまのままでいい、変わるのが怖い
・私には、愛される価値があまりない
・素の自分を知られたら、嫌われる
・大事にされない私、に気づきたくない
 
おやおやって感じですよね。
 
しかも、
「ぎゅっと握りしめた"執着心"のほどき方」
ネガティブな執着をポジティブなエネルギーに変える方法、お教えします!と題し、
 
【STEP1】
「あ、私、いま◯◯に執着している」という事実に気づく。
【STEP2】
「執着してしまう私」を責めずに、自身の一部だと受け止める。
【STEP3】
執着を「消す」のではなく、違うエネルギーに「切り替える」。
 
と紹介されていて、しかも、その執着は過去から来ているので、過去と今を「線」で考えるのではなくて、[過去ー現在ー未来]をいくつかの「点」の連続に分けて、各ステージに色分けして考えてみるようにアドバイスがある。
 
さらに実践ワークとして
「固まった執着心をイメージで溶かす」練習
を紹介されていて、色やイメージを使った気持ちの外在化にまで触れている。
 
 
ホント本格的すぎます。
 
[怒り]や[依存]、それに付随する人間関係での支配感、恐怖感、不安感。

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これまでコラムで何度も触れてきた、ドーパミンノルアドレナリンの分泌過剰の状態の説明と対処法が見事に扱われていると思います。
 
 
で、そんな内容に感心しつつ、なんで一冊にこんなにぎっしり詰め込まなければいけなかったのか、an・an編集部は誰をターゲットにコレを書いてあるのか、とふと考えたんです。
 
「あ、そうか!」と。一般のan・anを手に取る程の社会生活を送れてるレベル人たちの悩みは、この各特集のウチのせいぜいどれか一つか二つなんだろうと。
 
an・an読みながら「一人でこんなに盛り沢山やって大丈夫か?」なんて余計な心配をしたのですが、
「思考がゴチャゴチャでまとまらない」
「怒りのコントロールが効かない」
「依存や支配関係、見捨てられ不安がある」
 
そもそも、これ全部深いレベルで当てはまる人は、世間一般での適応すら難しいですよね。一つだけでも、そこそこ大変な人です。
 
なので、読者のターゲットは、全部に該当する人ではなくて、どれか一つでも気になれば買って貰えるだろうと、購入層を広く捉えて、売り上げを伸ばすということなのではないか、と。
 
そして、ある程度の健康度を持っていて社会資源(家族や友達など)にもつながっている人なら、多少の悩みを抱えながらも一人で書き込み式のワークをしてセルフケアする力があるんだよな、とハッとさせられました。
 
改めて思うことは、児童福祉が直接関わる家庭というのは、基本的に多重問題すぎるし、複雑に絡み合ってる。でも、抱えている一つ一つの問題や状態を個々で見れば、一般の多くの人が抱えている心配や問題と種類や分野は大きくは変わらないんだろう、と。
 
ただ、児童福祉ケースにまでなると、(お金に例えるなら)借金に借金を重ね過ぎて、もはやどこからいくら借りていて、それぞれの月々の返済額がいくらか全然わからないし、過払いなんてズブズブ過ぎて把握も出来ない、どこから手をつけていいのやら…と言う感じになってようやく関わりが始まる感じだよなぁ、と。
 
それでもって仕事も収入も少なくて、身近に助けてくれる人もいなくて、そんな状態を一人だけじゃ回復できないので、一緒に滞納整理したり返済方法を考えたりする[対人援助職]というお仕事が成り立っているんだよな、と。
 
例えじゃなくて、本当の借金問題も重なっている場合も多いですけどね。
 
そのような生活に余裕のない状態で、an・an特集のような[認知・思考][感情コントロール][対人関係]これら全部に問題をを抱えているような人に寄り添おうとすれば、当然、支援者自身が巻き込まれて、それと似たような精神状態に陥ることはよくありますよね。
 
なので、やっぱり対人援助職として仕事として人に関わる人には、一通り起こりうる全て知っておいて欲しい。そして、早めに気づいて、まずはセルフケアして欲しい。
 
こういう心の中で起こることや身体的反応を一般化して事前にガイダンスしておき、実際に我が身に起こった時に、距離を置いて俯瞰的に自分の状態を気づいて見つめられるようにすることを狙うのが[心理教育]と呼ばれるものですよね。簡単に言うと「あるある話し」です。
 
LSWに取り組む前にも、施設入所児あるある、里子あるある、喪失体験あるある話しを子どもに伝えて「自分だけじゃないんだ」「言っていいんだ」「わかってくれるんだ」という体験があった後に、自分の過去を聞くのと、全くガイダンスなしに聞くのとでは、心と身体の準備性が全然違います。
 
これは、大人も一緒です。児童福祉の現場は、普通の家庭内では考えられない[非日常]な出来事が日常的に起こり、日々の業務で疲れ果て、ろくに研修を受ける時間も作れず、必死で頑張って気がついたらバーンアウトしているから離職率が高いのに、新採職員に現場に出てから実際に身体や心の中で起こること事について説明をしている職場がどれくらいあるのか。
 
そして、そう言った児童福祉現場や心理教育の話しを、その分野に関わったことがない関係者や他職種の方に専門用語のまま説明することは、現代人に古文を古文のまま説明しているようなものだと、僕は思います。別世界の話し過ぎて、ピンと来るわけない。
 
難しい言葉での説明は、難しい言葉を理解できる人にしか伝わらない。これは逆に煙に巻く時にあえて利用することもありますが、あんまり気持ちのいいものじゃ無いし、少なくなくとも仲間になる人、仲間になって欲しい人にすることじゃない。
 
材料を提示して自分に起こっていることに[気づける]ことを目指すのか、[自分で対処できる]ことまで求めるのか、またまた難解な説明について[言葉の意味から調べる]ことを課すのか、わかりやすく伝えて[自分なりに解釈する]ことを目指すのか、伝える側はその意図を明確に持って伝える必要があると思います。
 
それは、子育ても対人援助も同じような気がします。その時には、聞いた人がどう感じるのか相手の立場や心情に想いを馳せながら伝える。それがあって「伝える」が「伝わる」になるのかな、と思います。
 
そういう意味では、an・an編集部が一般の人に理解してもらえるレベルに噛み砕いて伝える技術は、とても勉強になります。
 
何とセットに見せれば手に取って読んでもらえる、こういう風かに整理して見せれば理解してもらえるのか、と。
 
「思考の整理術」という特集ですが、他の人の感性や価値観を受け入れる姿勢や感覚って、思考の柔軟性も大事だろうなと思うんです。
 
ということで、最後に紹介するコーナーは、ここ数回コラムでお馴染み(?)の俳優さんの語り。
 
今ドラマをつければ必ず見かける売れっ子イケメン若手俳優たちのインタビューです。その内容が思った以上に内省が深くて勉強になりました。
 
 
……
 
 
なんですが、ちょっと書き始めたら、色々書きたいことを連想していまい長くなりそうなので、今回は一旦ここで終わりにします。
 
この内容の厚み+オリンピック特集で、[¥550(税込)]はやっぱりコスパ半端ない。
 
an・an恐るべし…。
 
ではでは。