LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第33回】Action Inquiry「行動探求」

こんにちは。管理人です。

この3連休は台風がやってくるそうですね。皆さまお気をつけください。

実は僕の中では前回、前々回コラムに「相互関係における自分を見つめる」というテーマを持っていて、今回は第3弾です。

前二回で将棋、麻雀、サッカーと人数規模を広げつつ、それぞれのプロフェッショナルが自分を高めるために何を考えているのか紹介しましたが、

今回はさらに広げて「組織論、リーダーシップ、マネジメント」における自己意識、自己成長についての図書を紹介します。前二回が感覚派とするなら、今回はかなり理論派の話。

正直ちょっと小難しい内容でして、紹介したい気持ちと面倒臭い気持ちが半々くらいで二の足を踏んでいたのですが、前二回を書きながらようやく踏ん切りが着きました。

結局は切り口が変わっても、どの分野の一流もやはり似たような所にに行き着くよなぁ、と言うのが僕の感想ですが、将棋、麻雀、サッカー、ビジネスどの話がご自身とってにしっくりとくるか比較して味わってもらうのも、自己理解に繋がって面白いかもしれません。

それでは。

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【説明】(amazonより)

個人・組織の変革の鍵である「意識レベルの変容」は、どうすれば可能なのか。「行動」と「探求」を同時に行うことでこの問いにアプローチするのが、発達心理学の知見に基づくリーダーシップ開発手法「行動探求」である。独特の観点から人と組織を特徴づける7つの「行動論理」によって、読者は自身・自組織の傾向をつかみ、適した成長の指針を得られるだろう。理論的解説にさまざまなビジネスパーソンの臨場感あふれるストーリーが織り交ぜられていることで、実践の場面を想像しながら学べるはずだ。リーダーシップやマネジメントの力を飛躍的に高めたい人、必読の一冊。


「『行動探求』はビル・トルバートの最高傑作であり、組織の発展と個人の成長、理論と実践、内省と行動、身体と精神を新たな形で統合する。本書を読めば、自分自身の全体性をよりよく感じられるようになるだろう。」
―― ロバート・キーガン(ハーバード大学教育大学院教授、『なぜ人と組織は変われないのか』著者)


【内容】(すごく簡単に要約しています)
◆4つの体験領域
まず、自分の意識や注意が向けられる領域についての整理です。

第一領域)外部の出来事や結果
第二領域)自分の認識する行動・身体
第三領域)自分の内面・行動論理・認知・思考
第四領域)自分の源・進行中の意図・ビジョン

~ふつう、人生の中で、言語を学んだばかりの時期は、体験の第一領域(外の世界)に直接的に対処する方法を学ぶ。より上手に使ったり、競技をしたり…
~その次に、私たちは、十代の友だちや、ときには相談役としての両親を相手に、体験の第二領域である私たち自身の行動そのものにより焦点を当てる…

~大学生か20歳代前半になるまでには、私たちの多くが、認知の領域(体験の第三領域)において創造的な能力または問題解決能力を開発することによって、それが作曲であろうと、会計であろうと、ソフトウェア開発であろうと、医学であろうと、新しい価値を提供することに主な注意を向けるようになる。

もっと具体的にいうと今コラムを読みながら自分の意識が、①物体としてのスマホ・PCの感覚(第一領域)、②自分の呼吸の感覚(第二領域)、③文章の意味の感覚(第三領域)、④体験の他の三つの領域を一度に二つ以上意図的に注意を払う感覚(第四領域)、のどの領域にまで行き渡っているか、ということを言っています。

~個人レベルの行動探求(アクション・インクワイアリー)は、行動の最中に、それと同時に、進展中の状況について学習し、優先順位の高いと思える任務を遂行し、必要であれば、その任務の目的の修正を促す一種のスーパービジョンである。

~ここで提案する注意の訓練は、最初に必要になる「気づき」についてである。前述したように、第一歩は、私たちの通常の注意や意識がどれほど限られたものであるかを認識し始めることである。私たちの内側では、気づかないままに多くのことが進行するからだ。


◆話し方・関わり方としての行動探求
そして、4つの体験領域は、
①個人レベル(主観の注意)だけではなく、
②二者間レベル(相互主観の注意)
③集団・組織レベル(客観の注意)
に関わる時の気づきにも応用が可能とのこと。

例えば、二者間での話し方(問いかけ、主張、説明、枠組み)も自分自身の意識の領域によって以下のように構築されます。

『問いかけ』→私たちを超えた外の世界における、他の人々の経験に対する懸念や自分の行動の結果に対する懸念によって導かれる(第一領域)
『説明』私たちの自身や相手の行動についての私たちの感知に基づく(第二領域)
『主張』→私たちの思考に焦点を合わせる(第三領域)
『枠組み』→私たちの注意に焦点を合わせる(第四領域)

集団の組織化に関わる時の説明は省略しますが、言いたいことは、対人であれ対集団であれ、自分の関わり方は自分自身が意識している領域に影響される、つまり自らの意識の違いによって自分が相手や集団に与える影響も変化するということです。


◆7つの行動論理の発達プロセス
~私たちが変容するとしたら、これらの4つの行動論理(前期)を順に経ながら進歩し、その後にもっと後の章で説明する他の行動論理(後期)へと進むという考え方は、発達理論と研究によって、文化横断的に強く裏付けられる。

(前期)
1.機会獲得型(オポチュニスト)
物理的あるいは外の世界における結果の体験領域(第一領域)を主な現実として扱い、そこで物事をコントロールすることに重点を置く。自己に有利な機会を見出し、結果のために手段を問わず行動する。短期的な視野。物理的な非常事態において有能であることが多い。

2.外交官型(ディプロマット)
自分自身が感知する行動の体験領域(第二領域)を現実の重要なものとして扱い、効果的に行動するために自制心を働かせることに重点を置く。ルーティンや規則、規範を重視し、親しい集団に対して忠実。身分や地位を追求する。面子を保つことが極めて重要。

3.専門家(エキスパート)
戦略の体験領域(第三領域)を主な現実として扱い、経験的に体得した特定の分野を一つ以上習得することに重点を置く。問題解決に関心があり、原因を追求する。効率化を目指す。自分が練り上げた論理を根拠にして自分や他人に対して批判的である。

4.達成者(アチーバー)
目標の達成に情熱を傾ける。自分自身の考え方と相手の考え方との相違に注意を払い、チームワークや、意見の一致によって形成される合意に価値を置く。長期的な目標。イニシアチブを取り、行動のフィードバックを歓迎するが、成果を求める取り組みがなされるのは、自分自身かあらかじめ決めた重点事項についてだけ。行動論理そのものの妥当性を疑問に疑い、行動の最中に出来る限り自分の手法を再構築する準備はできていない。

~本書では取り上げないが、私たちの人生はまず「衝動的な」行動論理という段階からスタートする。そして大部分の人が、3歳から6歳くらいまでの間のどこかで「機会獲得型」の行動論理へと変容する。大多数の人は、通常12歳から16歳までの間に「外交官型」へと変容する。そして一定数の人は、21歳までに「専門家型」の行動論理へと変容するが、それよりはるかに多くの人たちが、働き始めてから十年のうちに、その段階へと変容する。

~大部分の人は、体験領域のうちの戦略・行動・結果を(たいてい6歳から26歳までの間に)一つずつ習得した後は、もう二度と自分の行動論理を変容させることはない。だが、少数派である(約40%)高い教育を受けた熟練した大人はもう一度変容し、達成者型の行動論理になる。

~達成者型の行動論理の段階に達して初めて、異なる対象期間を同時にうまく扱うことを、単に厄介なことと考えるのではなく、マネジメントというものの本質に近いものを理解するようになる。

~あらゆる業界・組織レベルのマネジャー497人の発達段階分布は、機会獲得型3%、外交官型10%、専門家型45%、達成者型35%、以降の行動論理7%

~私たちは、それぞれの体験領域ーまずは機会獲得型として外の世界、次に外交官型としての自分自身の行動の世界、そして専門家型として思考の世界、さらに達成者型としてそれら三つの間の相互作用ーにおけるスキルと制御を順に徐々に高めていくことによって、うまく関係を築く方法を学んでいる。

~(ここまでの)在来型の行動論理が「共通性」と「安定性」を大事にするのに対して、ポスト在来型の行動論理は、次第に「相違」と、行動論理の進行中の創造的「変容」への関与を大事にするようになる。


(後期)
5.再定義型
戦略・手段・意図の一貫性を問いながら独創的に行動する。相対論的な考えをする。現在の状況と過去の状況の両方により重点を置く。対立感情を意識することが多い。判断や評価をしたいとあまり思わない。自分自身の影(と自分自身のマイナスな影響)に気づき始める。意思決定機能が麻痺する可能性がある。

~ポスト在来型的な理解に対する気づきを得始める時期は、私たちにとって混乱する時期かもしれない…だがこれは、それまで味わったそれぞれの経験が一新する時期、私たち自身や他の人たちの独自性への新たな劇的な洞察の時期、新たなレベルの親交に到達する関係を構築する時期、そして世界に対する新たな関心を追求する時期でもあるだろう。

~従来型の段階にある従業員たちの目には、再定義型のマネジャーは、確実性や確固たるリーダーシップがそれほどないようにも映る。これは、再定義型が、現在の状況で幾重にもの階層から成る前提や解釈が働いていることに気づいているためでもある。

6.変容者型
主な特徴は、行動中の自己への気づき。相互性、自律性に高い価値を起き、ある種のタイムリーな行動の可能性に魅了される。正しい意思決定を行い、それを維持するためにはー単なる規則、習慣、例外ではなくー道義、協定、理論、判断が重要であることを認識している。短期的な目標思考と長期的な発達プロセス志向を織り合わせる。衝突を創造的に解決する。さまざまな役割を楽しむ。機知に富み、経験に基づいたユーモアがある。権力の影の側面に気づいていて、それに心が引かれる。

意図を察知し直観的・イムリーに他者の変容を促しながら行動する。絶えず自分自身の注意を働かせ、直観、思考、行動、外の世界への影響の相互作用に対する4つの体験領域へのフィードバックを追求する。個人、グループ、組織、国際政治というあらゆるレベルの発達における類似性に積極的に注意を向ける。明るい面と暗い面、永続的なパターンの反復、以前暗示されていたものの出現を認識して、他者を包括する現在に根ざしている。状況の枠組みを再設定する想像上の出来事を共同で作り出す。仲間を魅了したり、尊敬させて征服させたりするためではなく、協働的な行動探求を行う仲間の意欲をかき立てるために、その人個人の精神的エネルギーである「カリスマ性」を使う。相互的な「自分をさらけ出す力」を行使しビジョンを共有する。

『chang-agent』より
~ビル・トルバート氏が「アルケミスト型」についての理解を促すとき、理論よりもストーリーを多く用います。それは、わたしたちが、言語や論理上の解釈でなく、より想像力や感覚の力をつかってアルケミスト型の芸術的な生き方/はたらきかけ方を掴みとれるようにするためです。

行動探究(アクション・インクワイアリー)とは、「複数のことを同時に行う」ことだと、ビルは繰り返し言います。このことに最も熟練した状態を、アルケミスト型と名付けています。これまでに「4つの体験領域」の紹介をしましたが、それは、いま・この瞬間においてこの4つのどの領域にも意識を持っていけることを練習するためにつくられたフレームです。また、「主観・相互主観・客観」の三者の視点を常にもってその場の真実を探求すること、「個人の統合、二者間の相互性、組織の持続性」の3つのスケールにおける発展、成熟を目指すこともそうです。


●コメント
すみません。最後は上手くまとめきれないのでサイトの引用に逃げてしまいましたが、興味がある方は『chang-agent』サイトに行動探求(アクション・インクワイアリー)の詳しい解説がありますので参考にしてください。

注意していただきたいのは、このリーダーシップの7つの発達段階は、進んでいるから「良い/悪い」ではなく、ただ自分はそういう段階なんだ、と理解を深めるだけだそうです。必ずしも発達段階が進んでいることが幸せとは限らないと。

これは納得です。広く深く理解できてしまうが故の苦しみ。見えてしまうが故に感じる葛藤や孤独感、出来るが故にどんどん負担が増えていくジレンマ。本書によると、この発達段階は組織の成長にも当てはめることができるわけですが自分と周囲のギャップがあり過ぎると理解されずに孤立していくことって、どの分野でも起こりますよね。

その状況の枠組み自体を再設定して変容していけるのが「アルケミスト型」なんだと思いますが、本書によると世の中にめったにいないそうです。

「大部分の人は、体験領域のうちの戦略・行動・結果を(たいてい6歳から26歳までの間に)一つずつ習得した後は、もう二度と自分の行動論理を変容させることはない」

は、実にそう思います。この発達段階は相手に求めるものでもない事は承知していますが、

「あらゆる業界・組織レベルのマネジャー497人の発達段階分布は、機会獲得型3%、外交官型10%、専門家型45%、達成者型35%、以降の行動論理7%」

自組織のリーダーにどのような型の人が来るかはガラガラポン状態。おそらくコラムを読みながら「あの人って、これかな」なんて想像したのではないでしょうか。そう思ってしまうのは仕方ないですし、これは受け入れないといけない現実だろうと思います。

しかしながら、
「少数派である(約40%)高い教育を受けた熟練した大人はもう一度変容し、達成者型の行動論理になる」

わけですから、年齢に関係なく資質のある人はどんどん高い教育を受ければ良いんですが、高い教育って何かと考えると、自己分析、内省、スーパービジョン、もっと平たく言うと「自分を見つめ直す」ことなんだと思うんです。

LSWって自分を深く見つめ直す作業ですよね。もう言わんとしている本質は伝わっていると思いますが、自分を深く見つめ直す作業をしたことがない人が、他人が自身を深く見つめ直すことの支援なんて、出来るわけないですよね。

そして、LSWはたくさんの支援者が助け合うことが必要ですから、チームや集団をまとめたりマネジメントする「リーダーシップ」は支援者にとって必要不可欠な要素だと僕は思います。

ここで問題は「リーダーシップ」と言う言葉は、それぞれ持っているイメージにすごく差があるので、また共通理解が得られにくくなると言うことが起きます。

しかし、本コラムを読んでいる方とは、自己内省こそリーダーシップには必要で、専門家もリーダーシップの観点では大したことがないことが共有できたと思います。

なので、その業種の専門的知識を学ぶこととは別ラインの成長学習として、多職種連携や協働的資質を高めるための「自分を見つめ直す」内省や「新たな気づきを得る」他者との対話は続けていくことは必要だよなぁ、と思いますし、そのような志を持った人たちと一緒に学んだり仕事ができる環境があるということは実にありがたい幸せなことだなぁ、と思いました。

ではでは。