LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第121回】「無秩序ー無方向型」愛着と自己調整

今回は前回の続き。




前回コラムでは、不安定な愛着パターンうち、
①不安定ー回避型
②不安定ーアンビバレント
を扱いましたので、今回は残っているあとひとつ、

③「無秩序ー無方向型」愛着パターン

について、

【乳児期】母子のやりとりと身体感覚の特徴
【成人後】対人パターンと自己調整の特徴
【調整】神経系からみた調整方法の特徴

のカテゴリーで、『トラウマと身体』の第3章をレビューしながら、まとめていきます。


前回も言いましたが今回の「無秩序ー無方向型」は①ネグレクト養育型、②気まぐれ過干渉養育型の「MIX型」なので、説明も対応も大変です(汗)


では、さっそく本文を見ていきましょう。


■③無秩序ー無方向型   
【乳児期】母子のやりとりと身体感覚の特徴

〉この子どもの養育者たちは、虐待的であったり、ネグレクトをしたり、あるいはその双方だったりします。

〉この養育者の愛着は弱いので、子どもに対する虐待者がいてもほとんど防衛を与えるとことができない

〉この養育者は、近づきにくく、自分の子どもの情緒やストレスの表現に対して不適切に、または否定的に(あるいはその両方)反応してしまい…

〉この調律の合っていない養育者は、関係性の障害にほとんど、あるいはまったく気づこうとしないので、子どもは、過覚醒あるいは低覚醒の領域に長期間おかれてしまいます

〉相互作用的な修復を与えないので、子どもの極度な否定的情動状態は長期にわたって続くことになる


う〜ん、もしかすると、子どもの求めていることに対して、意図せずいつも裏を取っちゃってる母親って感じですかね。

裏取るって言うのは、スポーツの駆け引き的な。例えばサッカーのドリブラーが、独特のリズムでDFが動きを予想しにくい感じ。脚が超絶速い訳じゃないけど、常にDFの重心の逆をついてくるので全然守りきれないメッシみたいな。

あ、ちなみに、日本代表の久保建英は小1ですでに相手の重心の逆を取りながらドリブルしてた、なんて記事が最近でてましたね。

サッカーIQが高い、超優秀なプレイヤーですよね。相手をかわすスポーツなら。

その相手が捕まえにくい感じ、相手にリズムやペースを全然掴ませない感じ、それを母子関係の中で、頼りたい子どもに対してやられたとしたら…


お前なんやねん!

俺の相手やお世話するのが、お前の仕事とちゃうんか!


って、なりますよね。



で、そんな養育者の子どもへの態度は、具体的にはこんな感じのようです。

〉脅かす(のしかかるような動き、不意に動く、不意に侵入する、攻撃の姿勢など)

〉恐怖(後ずさりする、大げさに驚く反応をする、子どもに対する反応を引っ込める、怖がっているような声や表情など)

〉役割の混乱(例えば、その子から安心を取り去る)

〉方向性がない(子どもの泣き声に対してボーっとしたトランスのような表情でいる、目的なくうろうろ歩くなど)

〉侵入的な行動(腕を掴んで引っ張る、ふざけてからかう、玩具をあげないなど)

〉引きこもる(その子を迎えない、言葉で相互作用しない、視線を避ける)


もう「お母さん大丈夫⁉︎」って感じですよね。

不安定すぎるというか、もはやお母さんが解離とかフラッシュバックとかしてません?、て思っちゃいます。

こんな状態で子どもの養育なんて無理でしょ…

でも、現実にはこのような精神状態で養育を強いられている母親、シングルマザー、シングルファザーは存在しているわけで。

そして、おそらく養育者自身がそんな親に育てられてきた可能性が高いですよね。

MainとSolomonは、この愛着パターンを「無秩序ー無方向」型と名づけ、子どもの行動特徴を7つあげています。



〉1. 連続して矛盾する行動をとる:例えば、フリーズして、身体を引いたり、ボーッとしている行動の直後に親近さを求める行動をとる。

〉2. 同時に相矛盾する行動をとる:回避行動のようなものが親近さを求める行動とともにある。

〉3. 完結せず、中断した、あるいは、方向性のない行動や表現をする:愛着対象から遠ざかりつつ苦しそうにする。

〉4. 場にそぐわない、ステレオタイプの、あるいは左右不均整な動き。あるいは、不思議でおかしな行動:母親がいて、よろける理由がないのによろけるなど。

〉5. フリーズするとか、じっとしているとかを意味する動きや表現、さらに「もがく」身ぶり。

〉6. 養育者を恐れていることを示すポーズ:怖そうな表情や丸めた両肩。

〉7. 混乱や方向のわからなさを示す行動:うろうろ歩きまわる、不安定な感情、あるいは、ボーッととして、混乱した表情。


う〜ん、まさに無秩序、無方向。
これって、上記の混乱した養育者の写し鏡ですよね、まさに。

これってトラウマ反応じゃん、と思ったら、すかさず本書でも、

「この不一致な行動は、さまざまな形でトラウマを受けた成人にもみられます」

なんて説明が加えられてました。ですよね(苦笑)


「無秩序ー無方向」型の養育環境って、それ自体がトラウマ体験と言っても過言じゃないのかもしれないですね。

なので、そんな子どもが成人した時の特徴って、何となく予想がつくと思いますが、本文を見てみましょう。


【成人後】対人パターンと自己調整の特徴

〉臨床的な状況では、セラピストはしばしばコンタクト(接触に対して矛盾するような反応や、明らかに関係性を断ち切るように見えるものによって混乱させられてしまいます

〉(クライエントの願いで)セラピストがイスを近づけると彼女の身体は硬くなるのでした。親近さの求めは彼女の言葉にはあらわれるのですが、一方、身体的には回避が伝達されているのです

〉しばしば混乱で不統一で相矛盾する行動は、2つの相対する心理生物的システム、すなわち、愛着と防衛が、同時に、あるいは交互に刺激される結果として理解されます

愛着システムが覚醒しているときは親近さを求める行動が動員されます。しかし、防衛システムが覚醒しているときは、逃げる、戦う、固まる、あるいは、覚醒低下・擬態死の反応が動員されます。

〉無秩序ー無方向型の愛着というのは、防衛と愛着の両システムを同時に活性化しているとしています


なるほど。

SOSを出してるのに、助けに来てくれた支援者にキレるという、アレですね。

愛着システムって言うのは、「安定した愛着パターン」のメカニズム、不安やストレスに内的な自動調整のみで対処しきれない時に、信用できる人に抱きしめてもらったり、手を握ってもらったり、視線を合わせて共感してもらったりと情緒的なやりとりをすると、脳内でオキシトシンという幸せホルモンがぶわぁーと出て、元気になれる外的な相互調整という理解でいいのかなと思います。

一方、防衛システムって言うのは、、、これからコラムで取り上げるやつなんですけど。少し触れますか。

「逃げる、戦う、固まる」はトラウマ反応の3F(flightr、fight、freeze)と言われる被虐待児にはよく見られる反応。

なんか、以前コラムで、

"3Fと聞くと「映画ドラゴンボール『復活のF(=フリーザ)』」を思い出すんですよね"

と、くだらないことを書いたような気もしますね。


3F状態は、高覚醒状態。ドラゴンボールで言えば、界王拳三倍とか、必殺技を出す前に「うぉー」と戦闘力を高めている状態。当然、エネルギー消費はハンパない。

で、「覚醒低下・擬態死の反応が動員」とは、エネルギーが切れたり、この相手にはもう敵わない、逃げる事も出来ない、死んだフリ状態。

ドラゴンボール的に言えば、フリーザに睨まれて足がすくむ子ども時代の悟飯(ナメック星の最初の方ですね)。戦闘力で言えば、悟飯とフリーザは、3000 vs 500000 くらいの差がありますからね。

圧倒的、無力感。

レベチとは、まさにこのこと。

確か、なんとか動けたクリリンが、一瞬のスキを突いて悟飯を抱えて必死で逃げましたよね。



脱線がすぎましたが、無秩序ー無方向型は、
・愛着システム(悟空やチチに会って安心する悟飯)
・高覚醒3F(逃げるクリリン) 
    or低覚醒状態(動けない悟飯)

が目の前の相手への反応で混在する状態だと。

「お前にとってわしゃ、味方なんかい!敵なんかい!」と思わずツッコミを入れたくなる一貫性のない反応。

無秩序、無方向って、そんな感じかなと思いました。

ドラゴンボール観たことない方は、わかりにくい例えでスミマセン)



【調整】神経系からみた調整方法の特徴

〉過覚醒と低覚醒は双方とも怯えていたり、あるいは驚異的な養育者に対する乳幼児の心理生物的な反応の中にふくまれています

〉脅威の初期段階では、乳幼児はびっくりした反応、心拍数・呼吸・血圧の上昇、および通常は泣くか金切り声をあげるかをともなった、交感神経系の活性化を表出します。しかし、交感神経系の覚醒が調整されないと低覚醒に速やかにシフトします

〉無秩序ー無方向型愛着パターンには、心拍数の上昇、強度の警戒反応、高いコルチゾール・レベル、そして背側迷走神経の緊張が上昇したことを示す静止状態、短いトランスや無反応、シャットダウンといった行動が随伴しているのです


このあたりは、トラウマに対する防衛反応の話しそのものになってますね。

コルチゾールは、ストレスが高まった時に出るホルモンのこと。

背側迷走神経は、副交感神経を2つに分けたのもの片方なんですけど、完全に「ポリヴェーガル理論」の話しに突入してます(苦笑)


別の機会に深掘りしますね。

ざっくり言うと、興奮とぼんやりが同居する無秩序な神経系ですよ、と言う理解でいいかと。



〉トラウマを負わせやすい環境は、子どもたちに無秩序ー無方向型の愛着行動を作ってしまいますが、それには普通ネグレクトと虐待の双方がふくまれます

〉身体的・情緒的あるいは性的虐待は典型的には自律神経の慢性亢進か、あるいは、過覚醒と低覚醒の間の二相性変化を生じさせます

〉一方ネグレクトは、典型的に感情の平板化を招き、覚醒度の低下と、背側迷走神経の感受性が慢性的に高くなることを随伴する行動となるゆえに、虐待だけの場合よりさらに否定的影響をもちます


このあたりは、ほぼリフレイン。

基本的には同じ事を、言葉や視点を変えて言っているのだと思います。

とにかく、虐待+ネグは、覚醒度合の調整において、とんでもなく悪影響ということがポイントですかね。



〉過剰刺激と不適切な修復は、トラウマの避けがたい結果である一方で、養育者による不適切な刺激、不十分なミラーリングさらに無反応さはネグレクトに至ります

〉このように不適切な刺激は、乳幼児にとって生活を脅かすものとなり、子どもがシステムに関与せず、低覚醒になることによって自動調整するように強いることになりま

〉慢性的な幼年期トラウマを体験した人は、特有の障害をもった社会的関わりシステム、未発達あるいは非効率的な相互反応調整能力、さらに、自動調整能力の不全に苦しんでいます


たぶん英語の和訳なんで、日本語の言い回し的にわかりにくさもありますが、ここで言うネグレクトとは、情緒的なネグレクト。

ご飯を与えないとかじゃなくて、視線を合わせるとか非言語の情緒的交流や相互調整をしてくれない、ということ。

で、おそらく「過剰刺激と不適切な修復」とは、不安定ーアンビバレント型で見られた養育姿勢の言い換え。

子どもの様子や反応に関係なく、親側の情緒的欲求(寂しいとか可愛がりたいとか)を満たすために、親のペースで一方的に関わる感じとか、子どもやってほしいこととはズレた応答とか。


そして、それは「慢性的な幼児期トラウマ」だと。


自動調整も育たないし、相互調整も育たない。だから、自分の不快感や行動をコントロールできなくて困る、と。

対人援助の仕事をする中で、対応に骨が折れる子どもや親は、だいたいコレなんじゃないか、と思っちゃいます。


だからこそ、自身の感情や行動のコントロールがうまくいかない人の内側で起こっている、調整不全のプロセスがこの本を読んですごく理解できた感じがしたんですよね。

現象として、愛着障害の人は情緒不安定、見捨てられ不安が高まりやすい、などなどの説明はあっても、なぜそうなっているか、そのメカニズムについて、ここまで細かく説明してくれる本に僕は初めて出会いました。


愛着障害だから」というレッテル貼りと言うか、他人目線の理解ではなくて、「愛着障害の人はこんな風に苦しんでいる」というクライエント視点の理解がようやくできた、そんな感覚になれたんですよね。

それって、LSWも同じですよね。


そして、この本は、そんな人たちをどう支援していったら良いのかも、事細かく書いてあるので是非とも、自分が使える知識にしたいな、と思う次第です。


また、支援については別枠で詳しく。

ではでは。