LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第83回】「乳幼児期からの子供の教育支援プロジェクト」と「愛着行動」

メンバーの皆さま
 
こんにちは。管理人です。
 
あっという間にGWも終わり、また日常の日々がやってきました。雨続きですし、もう海の日まで祝日は無いんですよね。長いですね…。
 
前回コラムでは、下の図の根っこ部分、

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アタッチメント形成の基礎となる「脳の発達」について、わかりやすくかつ1300円とは思えない半端ないコスパである図書「しつけと脳育」(成田奈緒子先生監修)を紹介しました。
 
で今回は「アタッチメント(愛着)」と少し「発達障害について扱おうと思うのですが、前段は今回のネタとなるウェブサイトの紹介です。
 
それがコレ。
「乳幼児期からの子供の教育支援プロジェクト」
 
 
東京都教育委員会が平成20年度から行なっているプロジェクトで詳しくはウェブサイトにキレイにまとまっているので参照してもらいたいのですが、概要はこんな感じ。

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(プログラム事例集 ~地域プログラムの試行的取組、第1章より)

 
赤枠は管理人的注目ポイントで、左の施策に、
【乳幼児期からの発達の重要性】
が挙げられていて、真ん中の施策の柱の1つが、
【乳児期から子供の教育の重要性について全ての保護者に伝える(広域的事業)】
となっていて、右の具体的事業の1つとして、
【ウェブサイトの開設〜若い親にとって身近な情報入手の手段を活用した普及啓発】
となっています。
 
上のリンクは、それに当たるのかなと思いますが、このサイトの凄いのは[保護者向け資料]だけではなくて、[指導者向け資料]に加えて、[指導者用スライド教材]まで準備されていて、保護者に説明する時に必要なところを部分的に使ってください(教育委員会に連絡入れて)という手厚さ。
 
で、そのスライド教材のラインナップがコチラ。
◆乳幼児期を大切に ~心と体の基礎を育てるとき~ 
  1. 脳と心の発達メカニズム ~五感の刺激の大切さ
  2. 生活リズムの確立のために 
  3. 運動能力の発達と『遊び』の大切さ ~運動遊びを通して育つもの~ 
  4. ふれあって、親子の絆を 
  5. 乳幼児期からの「食」を育む ~食文化と、体の中の食べ物の通り道~ 
  6. 豊かな心と社会性の成長・発達のために ~子供の自立・自律を目指して~
 
となっていて、題名でご察しの通り1.脳と心の発達メカニ ~五感の刺激の大切さは、前回紹介した「しつけと脳育」の成田奈緒子先生が監修で、内容的にはほぼ同じ(汗)
 
これが7年前の平成23年にすでにウェブ上でオープンに公開されていたなんて…。「タダより高いものはない」なんて言いますが、ここまで親切が突き抜けるとコスパうんぬんを超えて何かあるんじゃないかと思ってしまうレベルです。
 
それだけ東京では、就学時には既に手に負えない状態の子どもが多いということなのか、とにかく東京都教育委員会の本気度が伝わるプロジェクト。
 
東京は人口1000万超えですし経済格差も広く、親族が近くにいる層は地方に比べて少ないですし、経済的余裕がある層は私立の幼稚園や学校に入る傾向がありますから、「経済的に苦しい層」「共働きの中間層」ら公立小学校が受け入れることになる。
 
そうなると、地区によっては愛情不足で「かまってかまって」の落ち着きがない児童がドバーッと入学してくる可能性があって、すぐに支援員を追加することも難しいし、支援級に移るのも教育委員会の調査+親の同意がいるし、とても学校だけではカバーしきれない状況が想像がつきます。
 
その辺の「子育ての支援の地域体制づくり」が施策の柱(2)になると思うですが、10年以上前から始動しているこのプロジェクトは「先見の明がある」とも言えますし、見方によっては当時から「要支援状態」で就学してくる児童・保護者の数が相当深刻だったことを物語っているのかもしれませんね。
 
図下にある「連携協力」先も医療・福祉・民間と幅広くて、この音頭取りが「教育委員会という地域事情も個人的には興味深いです。
 
 
そんな勝手な推測・想像はここまでにして、ようやく本題のウェブサイト資料について触れます。「まごのてblog」的に注目はこの3つの章。
 
1.脳と心の発達メカニズム ~五感の刺激の大切さ
【前回コラム】
4.ふれあって、親子の絆を 【愛着】
6.豊かな心と社会性の成長・発達のために ~子供の自立・自律を目指して~ 【まとめ的】
 
[第1章]には、前回取り上げたように脳の発達の順番、それを促す五感の刺激の話や、これまでにコラムで扱ったセロトニンドーパミンノルアドレナリンの話も解説されています。
 
 
で、今回紹介するのは、
[第4章]ふれあって、親子の絆を
ここには愛着(アタッチメント)の説明がコンパクトにまとまっていて本当にわかりやすい。是非、子育てに関わる全ての方にチェックして欲しい内容です。
 
これにある【指導者向けメモ】というコラムから
(1)愛着行動の4段階 (p.6)
(2)人見知りと分離不安 (p.7)
(3)言葉の発達のすがた (p.20)
の3つをピックアップします。
 
 

(1)愛着行動の4段階

まず乳児の人に対する愛着行動として現れる行動は「定位」「信号」「接近」などであると。
 
「定位」:目で養育者の姿を追ったり、養育者の声を耳で聞こうとする行動
「信号」:人に注意を向けたことのしるしとして、微笑する、声を上げる、手を上げて合図するなどの行動
「接近」:人に近づく、しがみつく、 後追いするなどの行動
 
そして、これらの愛着行動は、4つの段階を経過して発達していくと。
● 1段階(出生~12週):愛着の相手は不特定であり、生得的な反応傾向によって人に注意を向けたり、働きかけを行ったりする。
● 2段階(12~6か月):接触頻度の高い人や、乳児と社会的やりとりをしてくれる相手に対して結びつきができる。
● 3段階(6か月~23歳)見知った人と見知らぬ人に対して明らかに識別して反応するようになる。いわゆる「人見知り」が出る。また、母親がいなくなるとパニック状態に陥り「ママ」と叫んだり、泣いたりすねたりなど混乱状態になる。
● 4段階(3歳頃~):子供の認知能力や言語能力が発達して、母親の設定目標を推測し、「目標修正的パートナーシップ」が成立するようになる。この段階の最初の頃は、子供は母親との関係を「安全基地」として外に向かって出ていき、すぐに不安になり、母親のところに戻ってきて安心する「行って帰ってくる遊び」を繰り返す。この遊びが見られなくなる頃、いよいよ子供は自律・自立への道を進んでいく。
 
 
この4段階の内容は「子育て支援」に関わる仕事をしていれば、どこかで聞いたことある話しかなぁと思います。不特定への無差別愛着とか、人見知り、安全基地とか。
 
しかし今回の注目は、その前にある愛着行動そのもの「定位行動・信号行動・接近行動」の3つ。愛着はこれら非言語的なやりとり、コミュニケーションの積み重ねで形成され発達していく、と。
 
なるほど乳児が微笑したり声をあげたりというのは、単なる反射ではなくて、目や耳で注意を向けたしるしとしての応答なんですね。この行動内容は、以前コラムで取り上げたこれ、

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オキシトシンシステムの獲得プロセスで行われる非言語的コミュニケーション(スキンシップや視線、表情の応答)と同じですよね。この辺からも愛着がバイオ的視点では「オキシトシンで説明できることがわかります。
 
そこに前回の「脳育」的な話しを踏まえると、「愛着形成」をするための定位行動・信号行動・接近行動(見たり聞いたり思った通りに動いたり)のベースとなる、感覚凸凹や発達凸凹・五感で刺激を感じたり発信する癖が、「愛着形成」のプロセスに大きく影響するだろうと思います。
 
例えば、自閉スペクトラムASD)によくある「視線が合いにくい」や「感覚過敏」など受け側のアンテナの凸凹によって、仮に他の子と同じ環境で同じように育てていたとしても、本人が受信する刺激や身体に染み込む体験は千差万別ですよね(たとえ同じ家庭であっても、その時の兄弟の数によって親の経験値も違えば、家族システム人数が違うので全く同じ環境なんて、そもそもあり得ないわけですけど)。
 
感覚過敏であるがゆえに、通常なら心地よい強さの刺激も、触られて痛いとか、楽しい歌がうるさいとか、臭いが我慢できないとか刺激の弱さによってイライラを経験しやすかったり。また逆に鈍感な部分では、他の子が感じる体験がスルーされてしまったり、一般では強すぎる刺激を求めたり
なんてことが起きやすい。
 
なので、感覚凸凹や発達凸凹があると「体験」の積み上げに偏りが出やすいので同年代より愛着形成が遅れがちになる。けど、通常より積み重ねが不器用だったり時間がかかるだけで、愛着が獲得できないわけじゃない。安定した家庭環境で愛されて育っていると、仮に発達障害の診断があっても(診断なしの発達凸凹でも)可愛らしく安定的なお子さんはたくさんいますよね。
 
そして個人特性と環境のマッチング相性の問題は結構大きくて、例えば、テニスだって片方がド素人でも、もう片方が上手くて打ちやすい返しをすればラリーは続くわけです。コミュニケーションも同じように、子ども側に多少の癖があっても大人側が合わせてあげれば、情緒的な応答やりとりは可能なわけです。
 
しかし、応答する大人側があまりに余裕が無かったり、親も感覚凸凹発達凸凹持っていると、その鈍感さで子ども発信をスルーしたり、過敏さ(こだわりもそう)でお互いに譲れずイライラしあうと関係構築不全が起こる。すると、オキシトシンシステムも獲得されないのでイライラが収まりにくい。

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乳幼児期にこれが積み重なると[愛着障害と呼ばれる状態になる。つまり、愛着障害とは非言語的コミュニケーションの不具合による関係構築不全やオキシトシン・システム獲得の問題で、それは信号の出し手と受け手のお互い様の関係、相互作用によって作られるんですよね。
 
だから、子ども自身が一般的からハズれた感覚凸凹を持っていると、大人が子どもの体験を想像して関わっても「ちょうどいい加減」にズレが起きやすかったり、発信や反応が薄くて何考えてるか掴みにくくペースを合わせる難易度が高かったり、愛着形成に手間と時間がかかるということ。
 
愛着形成に限らず、その人の「主観的な体験」って五感・感覚の個体差の影響をものすごく受ける。特に感覚機能が育つ胎児期から0〜2歳代の脳育が「LSW的」にも大事と思う理由はそこにあります。
 
その人が自身の人生をどのような「主観的な体験」と共に歩んでいたのか。それは客観的情報が、その人の特性フィルターを通して、その人の感覚的・感情的・認識的にどのように染み渡り蓄積する体験だったのかを想像することだと思います。
 
その積み重ねの歴史の結果が「愛着」であり、その人が持っている「価値観」になると思うのですが、積み重ねのベースとなる0〜2歳の時期は、感情も未分化でもちろん言語獲得もしていない非常に感覚的な体験の積み重ねなので、何で今現在の「愛着パターン」や「価値観」になっているかなんて自分では説明できない部分であると思います
 
LSWはそんな本人が上手く言語化できない感覚的な[過去]も扱うわけですが、まず大事なことは[現在]上手く言語化できない本人の中で起こっている感覚的なものを支援者がキャッチして応答して扱えることだと思います。
 
それは、その場で本人の中で起こっている「主観的な体験」を想像して、視線や表情といった愛着行動に応答すること。オキシトシン分泌して安心感を持てたところで、気持ちを言語化できるのを待つがいいのか、気持ちの代弁が必要なのか、それも今ここの「主観的な体験」を想像して対応する。
 
それは、日々の関わりの中で当たり前に行われる愛着形成・関係構築のプロセスではありますが、LSWの場で起こる体験共有や関係性が深まるプロセスは、言葉のやりとりだけではなくて愛着形成と同様の非言語的な応答による要素が非常に大きいし、そこを支援者は意識して疎かにしないことが大事だよな、と愛着行動の内容を見て連想しました。
 
長くなったので、残りふたつ、
(2)人見知りと分離不安 (p.7)
(3)言葉の発達のすがた (p.20)
 
は次回コラムで。
 
ではでは。