LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第81回】LSW実施前の「ダビスタ風」アセスメント

メンバーの皆さま

こんにちは。管理人です。

気づけば、もうGW直前ですが、皆さまの新年度スタートはいかがでしょうか?

僕は、年度当初のバタバタ具合から、ようやく徐々に日常業務のペースに戻ってきたかなぁ、というところです。

そんなこんなで、コラム更新も滞っていたわけですが、忙しくて書けない間にも[書きたいネタ]はどんどん増え続けるので、次のコラムで何を書くのか正直迷っていまして…。

色々迷った結論としては、年度始めですし、今後のコラムの目次・総論的(になるといいなぁ)な内容を今回は書くことにしました。

それは「LSW実施前のアセスメント」について。

前回コラムでは、幼児期の語りの中で「感情を扱える」のが治療的だし理想形はあるけれど、

〜今回は記憶イメージと感情体験の変化を主に扱ったが、語りの重要な要素であるストーリー性やまとまりという観点からの分析も、今後検討されるべきであろう。
 
〜今回の結果はあくまで一般大学生で行ったものであって、そのまま臨床群を理解する手だてとして用いるのは危険である。 しかし、幼児期記憶の危険な側面も十分踏まえつつ 、今まで肯定的に扱われることの少なかった幼児期記憶を、その人の生き方を支える方向で臨床に活かす何らかの手がかりを探っていくことへとつなげていきたい 。

と、2005年にすでにLSWの大切さと難しさが指摘されているのですが、「で、危険な側面って何を踏まえたらいいの?」という所はいまだに未整理でみんな苦労している所ではないか、ということを綴りました。

で、前回コラムで、管理人的な臨床感覚での「LSW実施アセスメントpoint(情報収集と査定)」を木の絵のイメージにのせて簡単に紹介したのですが、今回はそれについて、もう少し詳しく。

それがコチラの5点。ちょっとキレイに描き直してみました。

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要約すると、「子どもの状態」についてのアセスメント。何がその子の感情体験の語りを難しくしているか、生い立ちと現状から考える、ということ。

例えば「気持ちの言語化が難しい子ども」がいたとして、感情を感じたり言語化する力がそもそも育っていないのかそれとも感情を語れる力が育っているけど一時的に持っている力を発揮できない「状態」や「環境下」にあるだけなのか当然その違いによって、全然フォローの仕方が異なりますよね。

もっと言うと、LSWで一番心配するのが実施後に荒れないかということだと思うのですが、ソレが何から来そうなのか予測や仮説がいくつ想定されるか。

例えば、蓋をしていた侵入的なトラウマ体験を想起することで「安全感」が損なわれてしまいそうなのか、過去の喪失やネグレクトに対する「怒り」の感情がフツフツと沸いてきそうなのか、それとも現在の状況(家族交流が無いとか)に対する不満・寂しさ・イライラと言ったフラストレーションを自分だけでは抱えきれなそうなのか。

それを予想するには、まずその子の生育歴をなるべく丁寧に追える情報を集める。そして、現在の子どもの状態・特徴・価値観から、その子が生い立ちの中でどんな体験を、どのような受け取りで積み重ねて、現在まで育ってきたのかを想像してみる。

つまり[客観的な情報]と[現在の子どもの状態・特性]と現時点で語りうる[主観的な情報]を集める。そして、それらの「点」在する情報の隙間をつなぐ[体験・想い]を、本人が語りきれない「線・面・立体」的につながるストーリーを、まず支援者が想像してみる。

そして、あたかも本人になりきって追体験するように主観的なストーリーを想像してみる「手がかり」として僕が重要視しているのが、上の5つのpoint

・アタッチメント
・忠誠葛藤(家族関係、人間関係)
・喪失体験
・トラウマ

です。物事をまとめる時には「3つまで」が原則なのですが、現時点での僕の力では「5つ」に絞るのが限界でした。

ちなみに、これまでのコラムでは主に扱ってきたのは[喪失体験][アタッチメント]についてですが、気持ちの自由な表現を阻害する[忠誠葛藤]にはこれまで触れてこなかったですし、感情コントロールや感情抑圧を扱うには、やはり[発達障害][トラウマ]は外せない。

一つ一つのトピックについては、今後のコラムで少しずつ扱っていきたいと思います。しかし、冒頭に触れたように5点に絞ったのは「子どもの状態」についてのみですが、LSWで気をつけるのはそれだけではないですよね。

個人的な印象としては、これまでコラムは「子ども自身」のことよりも、子どもを支える【支援者】や【チーム】のあり方・心構えという内容が結構多かったかな、と思います。これも外せない大事な要素の一つ。

話題を広げて申し訳ないですが、「個人内/担当者内/組織内」の抱える中身と器のバランスや関係性について

[扱う話題]×[子どもの抱える力・準備性]
[子どもの状態]×[担当者の準備性]
[子ども・担当者の関係性]×[組織の支援体制]

と言った重層的な掛け算のアセスメントをして、
「=LSWが実施可能かどうか」を判断している、
というのが実際のところかと思います。簡単に言うと、子ども・支援者・組織それぞれのアセスメントが必要ということです。

ちなみに今回は、その全体的で感覚的な判断プロセスを、表題の「ダビスタ風」に例えて言語化することを試みてみます。ちょっとした遊び心ですが、競馬に興味がない方には、かえって分かりにくい説明になったらスミマセン。


ダビスタとは =「ダービースタリオン🏇」のこと。ご存知の方も多いと思いますが、1991年にファミコン版が発売されて以来、25年以上経った今でもシリーズ新作がリリースされる超有名な競馬シュミレーションゲームです。

僕も中学生の頃、スーパーファミコン版「ダビスタ3」にかなりハマり込んでいました。その頃は、三冠馬ナリタブライアンが現役で走っていたり、サンデーサイレンス産駒が日本競馬界を席巻していた時期でダビスタや競馬界が随分盛り上がっていたなぁ、と携帯アプリ版のダビスタが出てきた時は懐かしい気持ちになりました。

PS版とかアプリ版とかやってみましたけど、やっぱりスーパーファミコン的な昔ながらのの画面が僕は好きで、3DSで出てる「ダビスタゴールド」 はそんなオジサン層に合わせてくれた感じになってるんですね。

ちなみに、こんな感じです。

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で、こんな競馬の予想表がLSWにどう例えられるかと言うと、まず予想印。先程の5つの点を、

ア=アタッチメント
忠=忠誠葛藤(人間関係)
喪=喪失体験
ト=トラウマ

として、その健康度や資質やストレングス(強み)を予想印で表すイメージ。大事なことは減点法ではく、加点法で「健康的な部分」があれば良い印をつけていく感じです。

で、出走レースが「LSWの場」だと思ってください。生活場面でも面接セッションでも構いません。単なる例えなので。しいて言えば、レースグレード(新馬→条件→オープン→GⅢ→GⅡ→GⅠ)が上がるほど取り扱う話題の内容がグレードアップして重くなるイメージでしょうか。


例えば、圧倒的1番人気の【10】オルフェーブル

ア発忠喪ト
◎◎◎◎◎

[アタッチメント]は獲得できている、[発達障害]はない、生い立ち上の[忠誠葛藤]もない、[喪失体験]もない、[トラウマ]もない。そんな人はLSWなんて必要なく、普通に過去を感情をともなって語れるでしょ、GⅡくらいの話題なら余裕ですかね、という感じ。


2番人気は微妙ですが、【6カレンミロティック

ア発忠喪ト
▲▲

[アタッチメント]や[忠誠葛藤]はまぁ普通にOK、[発達障害]そこそこ、[喪失体験][トラウマ]もそこそこ。わりと社会的養護の子どもで、比較的安定していてLSW実施の検討にあがりやすいタイプかもしれません。[トラウマ]の内容が気掛かりですけど。


そして、おそらく2番人気を分け合っているのは、

ア発忠喪ト
  ◯◯

発達障害]はなく、[喪失体験][トラウマ]の影響も少ない。[アタッチメント]形成はやや。◯が多いので大丈夫そうに見えるですけど、実は[忠誠葛藤]を物凄く抱えている。ずっと同じ家庭で暮らして大きな喪失や被害体験はないけど、実の親子関係が在宅でうまくいっていないケースがこんなイメージですかね。家族内で味方になっていただろう▲の資源を活用しながら、現在の家族関係を調整していく感じでしょうか。


人気が落ちてくると、【9】トウカイパラダイス

ア発忠喪ト
△△

だいぶ使える資質が限られてきましたね。[アタッチメント]そこそこで、[発達障害]もややアリ。誰かに可愛がられたり守られたりした経験はありそうだけど、[トラウマ][喪失体験][忠誠葛藤]の影響やダメージが全然ある。穴馬というか、勝算は少なそうな買うには勇気がいる、GⅡ挑戦はちょっと早いかも?という感じ。この内容のLSW実施以前に、まずは現在の忠誠葛藤はないのか、トラウマ症状を服薬で緩和できないか、そんなアプローチかな、と。


最後は、【3ヒットザターゲット

ア発忠喪ト
△△

う〜ん、苦しいですね。[発達障害][トラウマ]はそこそこ。そして[アタッチメント][忠誠葛藤][喪失体験]の問題が大アリ。イメージ的には、生活場所や養育者が転々として、措置変更も繰り返しているようなケースがこんなイメージですかね。アプローチとしては、まずは現在の養育者との信頼関係、アタッチメント修復に全力を注ぐことから、みたいな感じになろかと思います。

こんな具合に、予想印があるほど個人のストレングスや資質が増えていき、実施後も良い経過イメージが湧いてきます。


そして、ここからは養育環境の話しです。競馬の予想印は「ポテンシャル+トレーニング+コンディション」によって左右されるわけですが、競走馬は牧場で産まれて、デビュー前に特定の調教師がいる厩舎に預けるんですね。

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厩舎ごとに特徴があって、例えば、仕上げが早く若いうちからビシビシ鍛えてレースに出走させながら育てる厩舎もあれば、じっくり育てながら大事にレースに使うタイプの厩舎もある。また短距離馬育てるのが得意、長距離馬を育てるのが得意といった違いもある。

もちろん、脚元の疲労を考えながら、鍛える育てることとレース間のコンディション調整を、その時の馬の様子を見極めて怪我をしないように同時並行してメニューを組み立てていく。それは調教師だけじゃなくて、実際に馬に乗ってトレーニングをつける調教助手や日常のお世話をする厩務員と話し合いながら進めるチームプレーです。

なのでデビュー前に、その馬の資質(血統)や特性に合わせて、どの厩舎に預けるかというは相性があって結構大事な作業になるわけですが、これは社会的養護が必要な子どもをどの施設どの里親に預けるかの作業と似ていると思うんです。やっぱり子どもと養育者(里親・施設)それぞれに特徴やクセはあるので、お互いうまくハマるかの相性ってありますから。

そして、競走馬は疲労が溜まったら「生まれ故郷」である牧場に放牧します。

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そして英気を養ってから、また厩舎に戻ってくるわけですが、これがホッとできるアタッチメント対象のイメージ。本来、慣れ親しんだ地元があって、家族の中でこのような存在がいてエネルギーを養えるのが理想ですが、生活場所を転々としていてLSWを検討するような子どもは身近な家族でこのようなアタッチメント対象がいないことも多いので、そこから作りあげていく支援となる。

なので、支援の順番は、予想印の左から右に向かうイメージ、

ア発忠喪ト
→→→→→

最初の図で言うと、こんなイメージ。

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まずはポジティブ体験を増やす作業。安心できる[11の関係を作り、発達特性に合わせた対応や環境調整で[集団]で褒められる体験を増やし、肯定的な対人関係や成功体験を広げていく。その対人関係のやりとりの中で、感情を豊かに表現したり調節する力が育っていく。

そして、環境への安心感や自己肯定感が高まってきた段階に応じて、徐々にネガティブ体験の緩和に手をつけていく。それは、過去の[忠誠葛藤][喪失体験]で抱え込んでいた「未完の感情」「心のシコリ」の解放を試みたり、過去の[トラウマ]の「身体感覚」「恐怖反応」解放を試みる作業です。

この順番イメージはLSWに限らないんですけど、下の図のように、「バイオ・サイコ・ソーシャル」の視点で、

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脳の進化・心理社会的な発達・欲求階層を並べて比べて見ても、原則的な順番は「感覚→感情→理性(認知)」で[1対1]→[集団]というのは共通していると思うんです。

なので、ポジティブ体験の積み重ねは生理的・感覚的な根っこの部分から上の方に向かって、
→感覚(アタッチメント・オキシトシン
→→感情(褒められる体験、自己肯定感)
→→→理性(認知的に「これでいい」自信を強化)

の順番で扱い、逆にネガティブ体験は慎重に枝葉から徐々に根っこに近づいていく感じで
→理性(心理教育。「心身反応」の頭での理解)
→→感情(悲しい・寂しい、危険でない気持ち)
→→→感覚(痛い・怖い、恐怖体験、身体反応)

こんなイメージ。そして、疲れたりしんどくなったらアタッチメント対象(ホッとできる人や場所)に戻って英気を養う。これは全然新しい内容ではなくて、普段、現場で何気なく支援の中で行われ語られている内容を[理性・感情・感覚]で整理しただけです。

そして、予想印が豊富なほど引っかかりが少なく、この支援プロセスがスムーズだったり手のかかる部分が少なくなるイメージ。順番に完璧◎にならないと次に進まないわけではなくて、大事なことはバランスを整えること。例えば、まずは少なくとも全てに△が付くようにするとか、△→◯にするとか。原因追及・原因除去ではなくて、使える資源・資質を増やしてキャパシティ・抱える器を広げていくイメージ。

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このようにアセスメントpoint(点)をつないで、資質を色が付いた「面」や「立体」で捉える感じでしょうか。

どうしても現れが激しい子だと「生育歴に問題がある/ない」の二者択一で評価してしまいがちですけど、生育歴に問題なかったら社会的養護にまで来ていないでしょ(苦笑)と。大事なことは、ハッキリとした境目がないグラデーションや濃淡の程度をどう評価(アセスメント)するのか。

僕は心理職なので、面接・観察・周辺情報と心理検査でそれらを査定するのが仕事だと思っていますが、当然、心理検査や面接といった[非日常場面]で見せる顔、生活の場や学校などの集団の場たいった[日常場面]で見せる顔は違うのは当たり前で、どの情報もその子の全体像を表すパズルピースの一部ですから、自分が直接見て聞いて収集できる以外の情報とのバランスを大切にしているつもりです。

そして競走馬もそうですが、関われる時間と年齢に限りがありますから、限られた時間内でポテンシャルをいかに引き出して、レースの勝率をいかに高めることができるか。しかも競馬は5着までは賞金が出ますから、勝つか負けるかの二者択一ではなくて、結果も段階的に異なり少しでも着順をあげることに意味がある点も、人生的な例えとして面白いなと思います。


そして、最後にLSW実施について。競馬の本番のレースは、当たり前ですが予想通りの結果になるとは限らなくて、そこに大きく影響してくるなのが騎手の存在。一般的には「馬7:騎手3」なんて言われますけど、騎手の大事な役割はレース展開をリアルタイムで判断し、人馬一体となって息を合わせて馬のポテンシャルを最大限に引き出せるか。

デビュー当時から同じ騎手に乗ってもらって特徴を把握してながら信頼関係を深めていくことが理想ですが、もちろん騎手には腕の差がありますので、大事なレースには腕のいい外国人ジョッキーに任せたり、でも人気騎手は依頼も多いので乗り代わりになる可能性もあるわけです。また、この騎手は牝馬に強い、この競馬場ならこの騎手なんて得意分野もあったり、いい意味で騎手の乗り替わりが、その馬の別の一面が引き出すきっかけになったり。

そんな騎手のように、その場の流れを読んで対応したり、その子のポテンシャル(気持ちの言語化)を引き出せるかどうか、どれだけ安心して語れる場を作れるかどうかの手綱引きは、まさにLSW実施の場にいる担当者やファシリテーターの役割と重なるなぁ、と思います。騎手の乗り替わりの話は、施設や児相の担当者が変わることのメリット・デメリットとも似てますし。


そんな感じで僕がただダビスタ好きだからかもしれませんが、[デビュー前の入厩→トレーニング→レース出走→レース後の調整→次のレース]というプロセスと、一頭の競走馬に関わる人たちや想いは、社会的養護の集団養育やチームアプローチはとても重なるイメージを持っています。まぁ、子育ても馬育ても「育て」は共通なので。

今回の話しは、
・アタッチメント
・忠誠葛藤(家族関係、人間関係)
・喪失体験
・トラウマ

って、そもそも何?という方には、分かりにくかったかもしれませんが、これまでのコラムでも触れてきた部分も多いですし、インターネットでもたくさん説明がありますので参照ください。

また別コラムで掘り下げていこうと思います。

ではでは。