LSWのちょっとかゆいところに手が届く「まごのてblog」

静岡LSW勉強会の管理人によるコラム集

【第108回】LSWとトラウマインフォームドケア

メンバーの皆さま
 
おつかれさまです。管理人です。
 
不安定な天気が続いていますが、気がつけば9月も末。徐々に秋らしい空気になってきましたね。
 
 
前回は、
 
「性的搾取からの子どもの安全」サイト
 
から、トラウマインフォームド・ケアの[支援者向け]リーフレットを紹介しました。
 
リーフレットの内容は、①トラウマを受けたこども、その人に関わる②支援者、③組織がどのようなトラウマの影響を受けるのか。そして、トラウマ関係の再演を防ぐためには、まず支援する人自身の、支援する組織の "心の健康" が大事と言うもの。
 
対人援助って、対象者⇆支援者の相互関係なので、対象者は支援者の影響を受けるし、支援者は対象者からの影響をそれぞれ受け合いますから。当たり前と言えば当たり前なんですけど。
 
ただ、前回のblogを読んでいただいた方の中には、こんな風に思った人もいると思うんです。
 
 
紹介リーフレット「サイト名」が随分違うな、と。
 
なぜ、"性的搾取" の話題を切り口に、どうしてトラウマインフォームドケアが紹介されるのか。
 
僕も始めに見た時「ん?」と思いました。
 
普通に、虐待を受けた子どものトラウマの話しでいいのではないかと。
 
 
そしたら、もちろん書いてありました。
 
サイトページのリーフレットの紹介の下にある、
 
厚労研究報告書
支援者向け
「平成30年度 児童自立支援施設の措置児童の被害実態の的確な把握と支援方策等に関する調査研究報告書(第1報告)」
 
「平成29年度 児童自立支援施設の措置児童の被害実態の的確な把握と支援方策等に関する調査研究報告書(第1報告)」
 
この2つの報告書に、トラウマインフォームドケアの[支援者用]リーフレットを作るまでの経過があります。
 
 
すごく簡単にまとめると、
 
〜最終的には、児童自立支援施設を切り口に、広く児童福祉行政サービス領域において、児童の性暴力・性的搾取被害についての基本的な調査・把握方法と効果的な支援・介入のための方策の検討とガイドラインを策定することを目指す。
 
ことを調査目的に、
 
発見が難しい"性暴力被害"という問題について、
(被害者が訴えないと表に出ない、ただ何らかのトラウマ反応は示していることが多い)
 
①まず、性的被害を受けている場合が多い非行の子が入所する「児童自立支援施設」での対応の実際を調べてみた。(平成29年の報告書)
 
そうしたら、
 
多くの施設の職員さんは、トラウマを抱える子の支援は必要なのはわかるけど、何がトラウマの反応で、何をどう扱ったらいいか困っているという現状がわかった。
 
そこで、
 
②試作用の「子ども用リーフレット」を使って、いくつかの児童自立支援施設施設にトラウマインフォームドケアの職員研修をやってみた。(平成30年の報告書)
 
そうしたら、
 
「子どもが安心感を与えられる」というポジティブな感想の一方で、「ふたを開けてしまいそう」等のトラウマを話題を扱うことついての支援者自身の不安や抵抗感が結構でてきた。
 
つまり、
 
子どもにトラウマインフォームドケアを提供する前提として、支援者がトラウマインフォームドケアの考え方を理解し、支援者自身へのトラウマの影響にも気づく必要があるとわかった。
 
そのため、
 
③「支援者用リーフレット」も作成した。
 
という感じのようです。
 
 
 
この報告書を読んで、思ったんですよね。
 
「これって、LSW実施に支援者が示す抵抗、そのものでないか」と。
 
数年前、現在よりもLSWがマイナーだった頃、
「過去の辛い話をわざわざ思い出させる必要があるのか」と、LSWの実施について門前払いをくらうことは珍しくありませんでした。
 
あの時期に比べたら、現在は、かなりLSWの意義や必要性は理解されるようになったと思います
 
しかし、一時的に子どもが荒れるという不安は拭いきれないわけですけれど、それを支援者の「覚悟」「熱意」「忙しさ」の問題だけに終始させるのは、何か違うよなと思ってきました。
 
児童自立支援施設に限らず、児童養護施設も福祉型障害児施設も里親も、現在の社会的養護で生活している子の大半は虐待を受けた子たちばかりです。
 
「癇癪持ち」「すぐキレる」「人の話を聞かない」「やる気がない」と言われている子のなかには、身体的なフラッシュバックや解離が起きている可能性がある子がたくさんいます。
 
そういう子たちを、暴言暴力に耐えながら必死に誠心誠意で受け止めようとしてくれている施設職員の方は本当にたくさんいらっしゃるんですね。
 
ただ、その暴言暴力のダメージは「二次受傷」として、確実に蓄積していくし、それはトラウマ体験になっても全然おかしくないわけです。
 
そうして「子どもが荒れる」ということが支援者にとってのトラウマ体験を思い出すトリガー(きっかけ)になってしまうと、その状況を避けようとして抵抗が強まる、ということは当たり前の反応と思います。
 
 
 
LSWの検討の際には、子どもが生い立ちの中でトラウマ体験があるのかないのか、そして、その影響や反応がどれくらいあるのか、子ども自身のアセスメントや見立ては必要です。
 
ただ同時に、支援者自身のこころのケガ、支援者自身の安全感、その辺りに手がつかないと、実際はLSWどころではないというのが正直なところとではないでしょうか。
 
LSW実施前には、
 
「子ども」×「担当」×「組織」
 
この全てのトラウマのダメージをトータルで考えて、それぞれの安全感安心感を高めるアプローチが必要なのかなと思います。
 
これまでLSWをしようとする中で、担当者同士の組み合わせだったり、組織的な抵抗で諦めざるを得なかったり…と僕自身の中で経験してきたこと、感覚的に直感的に心がけてやっていたことが、この報告書を読んで整理された気がしました。
 
やはり、ベースとなるのは安心して本音を話し合える感覚。LSWは過去の情報を伝える事が目的ではなくて、その情報を題材にどういう対話がなされるか。その湧き出る想いがどのように、やりとりされ共有してもらえたか、その体験こそがLSWの本質なんじゃないかと思うんですね。
 
なので、この報告書は純粋に「トラウマインフォームドケア」の勉強になるだけでなく、LSWの安心したやりとりのベースにとなるトラウマの知識、メンタルヘルス研修の話しとしても、非常に参考になる報告だなと思いました。
 
ちょっと真面目な報告書は抵抗があるなぁ、という方は、支援者用リーフレット誕生に至るまでのストーリー(物語)として読んでみると、また違った味わいがあるかも(ないかも)しれません。
 
ま、とにかく報告書オススメということです。
 
ではでは。